第7話 青の葉芽吹く
* 夏目 青葉、花 〜始まりの時〜
「ねぇどうしよう、春に好きな人がぁぁぁ……」
「落ち込んだってどうしようもないでしょっ!」
昨日知った春の唐突な好きな人宣言に二人は頭を抱えていた。
異性に対し鈍感だった人が恋に芽生えているなんて考えもしていない。
「けどまさか好きな人ができるなんてね……甘く見てたわ」
「それも担当編集さん……私たち大ピンチだよ~」
今にも泣きだしそうなくらいな弱々しい細い声の花。
「こうなったら仕方ない!戦うしかないわ!」
「た、戦う!?」
「そうよ。こうなってしまった以上何もしないわけにはいかないよね」
そう言いながらカバンからノートを取り出す。
「作戦を練りましょう!」
* 成瀬 春
恋愛相談をした日の翌朝、重荷がなくなったかような爽快感のある気分に見舞われていた。抱え込んでいたことをさらけ出すことに成功した影響だろう。頭の中にあったモヤモヤがなくなるというのは大変良いものだ。いつもよりご飯もおいしく感じるよ。
「いつものお兄ちゃんに戻ったみたいだね」
「ありがとうなレール引いてくれて」
向かい側の席から見透かしたように言ってくる奏美に素直な気持ちを返した。
あの場で決心したにしろ、奏美が言ってくれたおかげでこちら側も気兼ねなく相談することができた。正直、またチキってたかも分からなかったから大事な後押しになってくれたのは俺にとって大きかった。
「お礼に今度服買ってよ」
「ま、まぁ恩は返さないといけないしな」
そのままの勢いでニコニコとしながら小悪魔のように言ってきた奏美に引き気味で答える。まぁ元々好きなものを買ってあげる予定でいたからちょうどいいけど……
これで俺の葛藤にはひと段落が付いた。ゆっくりと距離を縮めていくというスタイルを前提にこれからまた頑張っていこうと思う。双子も昨日の発言した限りだと手を貸してくれるようだから乙女心というやつを伝授してくれるだろう。告白が先送りになって延長戦にもつれ込んだからには、いつまでもうじうじしてはいられない。これからはもっと積極的に話しかけよう。第一、俺にできる保証は何一つないが……
普段通り迎えた学校の昼休み。一人屋上で昼食を摂ろうと準備をしていると慣れ親しい声が俺を呼び、肩をつまんできた。
「ちょっといいかしら?」
後ろを振り向くとなんと珍しい、青葉が学校で話しかけてきたのだ。普段は話しかけないでと言われているため任務は常に続行している。だから当然、向こう側からも話しかけられないと思っていた。
「学校では話さないんじゃなかったのか?」
「私から話しかけるのには問題ないのよ」
何となくそう言われることは察していたがとてつもない理不尽だ。クラスの仕事も話しかけないようにとわざわざ気を使って花経由で伝えてるっているのにこのツンツン女ときたら……もう少し俺の気遣いを知れってんだ。最も、そんな経緯を青葉が知る由もなければ、教えるつもりもないが。別に分かってほしいと思ってるわけじゃないし、これが俺と青葉の学校での距離感という奴だからどうこう言うつもりはない。けどもう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかと思うよ。
「で、どうしたんだ?」
「お昼、いつも一人でしょ?付き合ってあげるわ」
???
俺の頭からはてなマークが瞬時に浮かび上がる。
「おい大丈夫か?頭でも打ったか?」
「なんでそうなるのよっ!私をなんだと思っているわけ!?」
「いや普段こんな仲良くなってきたツンデレキャラでありそうなセリフ言わないだろ!」
ツンだけでデレたことなんて一切なかったのに急にヒロインらしくなったら誰だって心配するだろうが!!(別にデレてない)
「だ、誰がツンデレキャラよっ!もういいから早く来なさいっ!」
「あっちょっ、待ってくれって!」
階段をスタスタと素早く上がっていく青葉を追いかけながら急いで屋上へと向かった。
「待っててくれよな……」
「なんで私があんたを待たなきゃいけないのよ」
「誘った相手にいう言葉じゃないな……」
なんだろうこの落ち着かない感じは。突然Gが出てきて退治した後のまだいるかもしれないというソワソワ感と同じような感覚がする。(いや例えよ)一人だった空間に人が来るのが少し不思議なのかもしれない。無駄に緊張するというかなんというか……
「な、なんか話したいことがあるんじゃないのか?」
「あんたの恋愛相談のことでちょっとね」
無駄に緊張しながら聞いてみると話のお題は恋愛相談についてのことだった。
「あ、あぁそりゃめんどくさいよな、悪い。昨日の話は忘れてくれ」
自然と声が出ていた。思い返せば他人に恋愛相談をされても困るだけだし、今の高校生は自分が恋愛したいよねって話だ。ましてやこんな俺の話を聞いてくれただけでもありがたいと思わないといけない。
話しかけられた時点で視野には入れていた。勿論初めから2人が相談に乗ってくれるなんて思ってないし、強制するつもりなんてまっさらない。もし可能であれば手伝ってほしいという基本は自分で考えるスタンスでいこうと思っていた。あの二人に無理はしてほしくないし、俺たちの関係なら包み隠さず正直に言ってくれると思ったから相談をした。
どちらに流れようともなるようになるだけだ。俺は青葉の返答を待った。
「誰もめんどくさいだなんて言ってないじゃない。話は最後まで聞きなさい」
「え?違うの!?じゃ、じゃあ何の用で?」
てっきり断られると思ったけどそうではなかった。となると、話の方向性が分からなくなってきた。一体何を言いたいんだろう。
「あんたってデ、デート経験とかある?」
デート?
質問されたと思ったら今後一切経験しないかもしれないデートについてだったとは。今までこのツンツン女は俺のどこを見てきたのだろうか?デートのデの字にすら触れたことがないのを間近で見てきているはずなんだがな……
ますます青葉が何を言いたいのかが見えてこなくて戸惑ってしまいそうになったが何とかいつも通り返答をする。
「いやあるわけないだろ。俺を誰だと思ってるんだよ」
「堂々と言うあたり清々しいほどキモいわね」
「いや、全国の高校生にデートしたことない人どれだけいると思ってんだよ!?」
どこがキモいんだよ!!付き合っている高校生の方が少ないだろ!みんながみんなそんな良い人生を送れるわけないだろうがよ!!俺たち影のものはどうしようもねぇだろ!それをキモイってちょっとモテ……沢山モテてるからってよ~~~!!良いよな月一で告白されるような人は!!
「まぁちょうどいいわ。キモ春に一つ提案があるの。好きな人をリードできるようにデ、デートに試しで行ってみない?私も指摘できるところはしていくから。悪くないでしょ?」
まずキモ春て言うのやめてね……
とはいえ、こんな提案を青葉がするなんてな。恥ずかしながら言うのはこっちも多少緊張するからやめてほしいところだが……どちらかといったら花の方から持ちかけて来そうな提案だったのに。なんかいけないご飯でも食べているのだろうか。いつもの青葉ではないようn……(キモ春)いや、そういうわけではないのか。けど何だこの積極性は。
「俺にはメリットでしかないけど」
「けど?」
「いや、普段の青葉じゃ、言うはずないと思って……」
俺に心身に向き合ってくれるなんて柄でもないことを自ら提案してきた青葉の身に何かあったのではないかと返って心配になる。俺の中での優しい青葉は小学以来じゃないかと、ふと脳内によぎる。
「情けないあんたを見てられないのよ」
上を見上げながら何かを見据えるように答える。この発言は根は優しい青葉からの精一杯のエールなのかもしれない。それに答えたいという思いが俺の中から湧き上がった。
「ほ、ホントにいいのか?あとから“あの時は酔ってただけだからっ!“とか言っても無理だからな??」
この案は好機でしかない。せっかく俺のために持ち掛けてきてくれてるんだし断る理由なんて何もない。
「いちいち私の真似をしなくていいのよ……全然似てないし。やるからには本気でやるわよ!」
「御意!」
そんなこんなで始まった青葉との特訓。スタートダッシュは悪くない滑り出しだ。俺の快進撃はまだまだ続きそうだ。
***
「けどこうして二人きりで話すのも久しぶりだな」
「そうね」
最後に二人きりで話したのはいつだろうか。もう覚えてもいない。中学時代に一回あったかどうかレベルの話になってくる。
今の今まで毎日のように顔を合わせているのに二人きりで話す機会がなかった。青葉からの申し出を守っていたというのも理由の一つだろうが、こんなにも話さない人たちは中々いないだろう。花とはよく話しているし、二人でご飯を食べたことだってあるくらいなのに青葉とは一切そういったことはなかった。青葉の趣味はラノベを読むことであって話したら盛り上がるのは確実なはずなのに生憎そのような出来事もほとんどなかった。今や小説家の俺に食いついてくるかなと思えば逆に罵倒を浴びせられるはで語り合うなんて程遠かった。
「最近のおすすめのラノベはなに?忙しくてあんまり読めないかもだけどさ、せっかく同じラノベが好きなんだし語り合いたいなって」
「なんであんたなんかと語り合わなきゃいけないのよ」
「楽しいだろ?同じ趣味を共有できるって」
面白いと思えるものを誰かと共有すれば倍楽しくなる。それぞれの意見が飛び交ってより多くのいいところを見つけることができ、沢山の視点から考えることができる。俺には趣味を人と語り合えるほどの親しい人は青葉しかいない。趣味だけじゃなくても色んなことを話したいし、分かり合えると思っている。
「……最近は来栖アキ先生の作品を見てるわ」
「アキ先生の見てるんだ!俺はまだ見れてないけど買ってはいるから読んでみるよ!」
だからまずは、同じ趣味から。
話していく中でまた前のようになれたらなと心の底から思う。
「最新話まで絶対みなさい!」
「お、おう。読むよ」
「あ~それと言い忘れてたけど!どうせあんた服もロクなものがないでしょうから近いうちに買いに行くわよ!」
「は、はい!」
つづく
あとがき
ご無沙汰しております。立花レイです。遂に!最新話投稿です!!いぇ~い!
随分とお待たせしてしまってごめんなさい。9月はまた忙しいので投稿できるかどうかは分かりませんが、頑張って書きますので気長にお待ちください。この話以降、青葉にスポットライトが当たる回が続きます!お楽しみに!
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