第6話 恋愛相談

「成瀬 春くん!あなたのお悩み、解決します!!!」

「しょうがないから聞いてあげるわ!!!」



まるで心を読まれていたかのようだった。



どう言った経緯でこの状況に至ったのかが全く想像できない。これといって思い当たる節が見当たらない。しいというのであれば、外で本を読んでいた時に言われた妙な勘の鋭い言葉が少し違和感に残るくらいで決定的な一撃にはならなかったはず。


「今日はね、奏美ちゃんの相談に乗るのともう一つ!!」

「あんたの悩みも聞いてあげてほしいって言われたのよ」


「奏美が?俺悩んでるなんて一言も……」


「言ってなくてもわかるに決まってるでしょ。兄妹なんだから」


確かに奏美が悩んでいそうだなと理由はなくとも勘ってやつで分かってしまう時がある。けどそれは奏美だって同じことだ。人から見たら自分で分からないことだって見えてしまうことだってある。今この状況のように。


「それで何を悩んでいるのですか??」


しかし、まさかの向こうから聞いてくるパターン。俺の葛藤が返って花を持たせてくれたようだ。奏美がくれたこのチャンスをものにしないで何をする。今一番の好機を逃すほどの頭でもない。ここはある意味第一の告白だ。


俺は息をゆっくりとはき、話し始めた。







「「好きな人に告白!?!?!?」」


ひっくり返りそうなくらいの大きな声と大きな目で見てくる二人に身震いをしてしまった。


「え!?!?そんなに驚くの!?」


「だって春が告白だなんて……」

「あ、あんたの口から告白なんて言葉出てくると思わないよっ!!」


俺はこの双子に恋をしない奴とでも思われていたのだろうか?いや、確かにだ。俺の部屋は完全にオタクと化しているため、(俺の嫁は○○だ!3次元はまやかしだ~!)とか言いそうなのは理屈として筋は通っている。推しと付き合えたらサイコー!とまで思ったことがあるのも認めよう。だが現実に興味がないわけじゃない。そりゃクラスに可愛い女子がいたら目の保養になるし、話しかけられでもすればそれなりに緊張はする。俺だって一応青春を謳歌する権利のある普通の高校生だ。この二人は俺のイメージがいつから止まっているのだろう。微妙にバカにされてるなこれ。


「そ、それで誰なのか聞いていいの?」


「あ、あぁえっと……俺たちと同じ学校であり小説の担当編集者の白井さんという方です」


「「同じ学校!?!?担当編集者!?!?」」


なんだろうこの驚き方は!うるさいよっ!

さっきといい、心臓が止まりそうなくらいの声量を出しているため、俺も思わず声をあげそうになってしまう。そしていつもは見せないような反応をされるので余計にそう感じてしまう。


(なんか凄い調子が狂うな……驚くのは分かるけど、大袈裟すぎじゃないか?)


「た、担当編集者に告白なんて大丈夫なの!?」


「うんうん!関係が悪くなったりしたら……」


「だよな~~」


何か変わるかもと思い勢いで伝えたもののそう上手くはいかない。仕事か告白かを天秤にかけたら100%で仕事を選ぶに決まっているのは明白、そんなのは聞くまでもないことだ。


「その子と出会ってどれくらいなの?」


「丁度一ヶ月くらいだな」


「まだまだこれからって段階じゃない」


「流石に早すぎる?」


「それだと春がどう言った人柄なのかまだ理解しきれてないんじゃないかな?」


それはそうだと思う。実際俺だって白井さんのことは知らないことだらけだ。それは彼女だって同じこと。


「一か月って言っても一様仕事関係でほぼ毎日会ってはいるから濃い時間ではあったと思うんだけど……」


一般的な感覚だと一か月はまだ関係性は深まってはいない。ようやくお互いに慣れ始めてきたくらいの日数じゃないだろうか。だが俺と白井さんはある意味一般的ではない。仕事とはいえ毎日会っているのは良いアドバンテージだと思う。


「なら聞くけど、プライベートの事とか話すわけ?」


「い、いや〜1、2回くらい?」


「それは話したうちに入らないわね……」


「急ぐ必要もないんじゃない?その子の知らない部分だって沢山あるだろうし」


確かにせかし過ぎても良い事はない。同じ時間をより多く過ごした方が恋が実るに決まっている。今告白したところでフラれるのは自分でも分かっている。


「それもそうかもしれないか」


今一度考えると納得がいく。小説家になったら告白をする=すぐ告白、という思考にいつの間にか支配されていた。しかし、考えてみれば小説家になったのなら時期はいつだっていいということ。もっと距離感を縮めてからでも問題はないし、そちらの方が効果的だ。


「でもさ、後悔する気がするんだよな。もう会えなくなるとかそんなのじゃないけど、なんか落ち着かないんだ」


けど、少しだけこの考えを否定したい俺がいる。

これから常に隣にいる好きな人を前にして諦めるなんてことは不可能に近いが、俺に”告白をする“と言う決定的な勇気と判断はこの先一生と言っていいほどできないことだろう。後先の関係のことを考えてしまうが故にスタートに乗り遅れた挙げ句、もう乗ることもできなくなってしまうことが幾度もあった。早い方がいいってものでもないけれど、遅すぎてしまうのも後悔に繋がってしまう。それが分かっている俺だからこその“もう後悔したくない“という焦りなのかもしれないが……


「春ならそう言うと思った」


すると花は俺を見透かしているかのように答えた。


「後悔はしたくないよね。けどその子は近くにいるよ。焦る気持ちも分かるけど、だからこそ今を大事にすることも大切なんじゃないかな?」


「不本意ながら私も花に賛成だわ。恋っていうのは早ければいいってものじゃないのよ。あんたそれでもラブコメ書いてるの?このくらい知っているのがラノベ作家として当然のことじゃないのかしら?」



「まじで……?いや、まじか、マジなのか……?」



恋愛はスピードじゃないってことはもう十分に分かったよ。けど驚いているのはそこじゃない。奇跡の瞬間に遭遇した。誰もそんなところに着目しなくて疑問を抱くであろう“俺だけ“にしかわからない奇跡に。





真逆の性格である二人の意見が合致したその瞬間を。




毎日のように見る嚙み合っていない二人を見続けてきた俺には奇跡でしかなかった。こんな瞬間がこのタイミングで見られたのも一つの奇跡、俺には確信へと繋がった大きな一歩になった。


皆からすれば、奇跡でもなんでもなくて、価値なんてない単なる助言にしか聞こえないのかもしれない。けど俺には奇跡で価値のある言葉なんだ。何気ない言葉が俺だけには物凄く輝かしく映し出されている。それは学校の人、クラスメイト、友達よりほんの少しだけ彼女たちのことを理解しているからこその衝動だ。




「確かに焦る必要はないか。思い詰まりすぎてたみたいだ」


花と青葉につられるがまま急展開で告白は先送りにすることにした。この選択がどう変わるのかは分からないが今はこれでいいと不思議と納得がいった。


「そっか!じゃあ距離をもっと縮めるために案を考えなくちゃね!」


「しょうがないから手を貸してあげるわ」


「ありがとう二人とも」



もうこれ以降彼女たちの奇跡には出会わないのかもしれない。奇跡というのはそう簡単に出会っていては奇跡でも何でもなくて、そして自分が変わろうとした時にしかその瞬間は降ってこない。それでも俺はいつかまた拝見出来たらなと心の中でそう思った。


それとこれはきっと気のせいなのだろうが二人を見た時、顔が少し引きずっていたように思えた。話の流れからして引きずる要素がないため何かの勘違いだろう。


「じゃ、じゃあ私たち帰るね。また明日……!!」


「ご飯食べていかないのか?」


「今日は……しゅ、宿題多いし」


「あ、そういえばそうだったな。それじゃあまた明日」


「うん。また明日……」



まだこの時の俺は気が付いていなかった。これから始まる超激戦ラブコメに。

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