第8話 陰キャ脱出作戦 その1

 今日は土曜日。5日間の長い長い学校を終えてから一息つける日。

 家でゴロゴロしてプロット書いてまたゴロゴロしてと大変有意義なひと時を過ごせる俺には命のような時間だ。だがしかし今日に限ってはそうじゃないらしい。


 「あぁ~アチィ~」


 珍しくも普段ならあり得ないであろう外に出ていた。先日青葉から『デートするにあたってらしい格好をしなくちゃいけない。けどあんたには無理な話だわ。だから相応しい男になれるよういろいろ取り繕わよ!』と改めてメールが届いたのが原因だ。


 デートをするにあたっての服装はかなり大事なんだとか。青葉が念を押して連絡してくるくらいだから相当のことだ。着られさえすれば何でもいいという考えの俺にはいまいち重要性が分からないが女の子が言うんだ、絶対だろう。


 それにしても休みの日に外出するのはいつぶりだろうか。もう最後に出たのがいつなのか分かりもしない。漫画やラノべの調達は学校帰りに行くことが多いし、何かイベントが起こらない限り出歩くこともない。今や小説を書かなきゃいけない味なわけで学生生活と両立して平日にガッツリ書くことができなく、土日にため込んだ分のプロットを書いていることが多い。外に行かないというよりは行けないという方が現在では正しいのかもしれない。今日のこともあって今週はそれなりに書かなきゃいけなかったから忙しかった。


 「ていうか、外にいるってことは陽キャじゃないか?いや~ついに俺もそっちの世界に仲間入りか~」


 外に出たことをいいように捉え、優越感に浸っていた俺。

 たまにはありだろう。自分で言うのも尺だが高校生の中では頑張っている。ものすごく頑張っている。早々こんな生活をしてる高校生はいない。かといって褒めてくれる友達もいなければ罵倒してくる人もた、多分いないから自ら自分の凄さに惑わされたって誰も怒りはしない。

 

 「何をバカなこと言ってんのよ。あんたは万年インドアよ。少なくともラノベ作家でいるうちはね」


 多分と言ったことは今ここで前言撤回だ。バカな発言をかました俺に対して後ろから冷静に否定してきたのは今日のお相手、青葉だ。しかし何というタイミングで来るのだろうか。それもまさかの後ろから来るというフェイント付きで。くる方向は同じのはずなんだけどな。


 「そんな酷いこと言わなくてもいいだろっ!ワンチャンがあるかもしれんだろうがよ!」


 「ちょっとばかし夢を見過ぎなんじゃないかと思ってのことよ。あんたのためにいってあげたのだからそこは感謝するべきだと思うのだけど?」


 「いやどこに感謝するべきなんだか……」


 清々しいほどに強烈な毒舌を吐いてくる青葉に動揺を隠しきれなかった。なんなのこの人、どこからそんな悪人じみた言葉が出てくるわけ?もはやそういう特技なの?逆にすごいよ。お笑い芸人にでもなってみたら?すぐにでも優勝できちゃうよ。


 そんなことを思いつつも今日のプランを聞くことにした。ご生憎、俺にはリア充の能力は持ち合わせていない。どこに何があってどんなお店が良いのか、陰キャ歴=年齢の負け組には到底理解できない内容となっている。


 「今日はどこに行く予定なんだ?すまん、俺こういうの初めてだしファッションに関してはまるで未知だから何をすればいいのか……」


 「そうね。まずはそのダサい外見から脱出だわ。そんな格好で私の隣を歩いてほしくないもの」


 「え?俺そんなにダサい?」


 ちょっ、えっ何?怖いんですけど。隣を歩いてほしくない?ちょっと青葉さん冗談キツイってそれは!そこまで悪くはないだろ。これでも一様考えてきたんだし?もうやめてよね!


 ってホントにダサいのか……?黒色ならハズレなしってどっかで聞いたからさ……

 あとは買った荷物をずっと持ってるのもめんどくさいからバックを持ってきただけだが……


 「あのね~。デートに学校のバックを背負ってアニT着てくる人と歩きたいと思うわけ?」


 「え~と。まぁ……思いませんね」


 「自分の服見て」


 「……すいませんでした」


 「はぁ……あんたがこれ程のバカだとは思わなかったわ」


 大変申し訳ございませんでした。100%僕が悪いのは分かってはいるのですが弁明の余地をください。えっとですね、青葉さんは美少女と謳われていますが実はオタク気質があるんですよね。あんなに人気のある陽キャなのに、その裏ではライトノベルを死ぬほど読んでいるのですよ。だから一瞬の気の迷いで喜ぶのではないかと、コミュニケーションがとれるのではないかと思ってしまいました。わかってはいましたよ。アニTは限度を超えているなと。デートする上でアニTなんてものを着てきたら彼女が立たないなと分かっていました。デート経験をしたことない僕にだってやっていいことと悪いことがあるってことくらい理解してました。常識くらいは認識していましたよ。しかし、衝動が抑えきれなかったのです。もう気が付いた時にはアニTを着て学校のバックを肩にかけて約束の場所にいたのです。手遅れにだったんです……


 「何も言い返せないのが無性に悔しいな……」


 言い訳を言えるわけもなく素直に謝罪をする。


 「一応一つ成長ね。マイナスが振り出しに戻っただけだけど」


 「ギクッ……」



 成長への第一歩がスタート地点にも立ってなかったのは俺も相当落ちぶれている。まぁ?そのための今日ってことだし?今ダサくても仕方ないよな!(自分で言ってて恥ずかしいったらありゃしない)


 自分の服を見てから青葉の服を見ると改めて力の差というのを感じる。俺みたいに全身黒とかいう夏には暑苦しい服装ではなく、白のTシャツにベージュのカラーパンツを掛け合わせたカジュアルコーデで涼しげな印象を与えていた。さらに言えば軽やかさのあるサンダルを取り入れてより一層オシャレに仕上がって、シンプルイズベストという言葉が抜群に合う着こなしだった。それに比べ俺はと来たらオシャレの欠片もない異性と二人きりで遊ぶとは思えないような格好……情けないにもほどがある。


 「青葉はオシャレだな~。そういったことに知識のない俺でもわかるよ」


 「ちゃんと服にはお金と時間をかけてるから当然よ」


 「そりゃ可愛いわけだ」


 「かわっ!う、うるさいっ!!!」


 「いって!なんで叩くんだよ!」

 

 「あんたが急に変なこと言うからでしょ!!」

 

 「だからって叩くことないだろっ!」

 

 頬周りに熱が流れ込み赤面している青葉を垣間見る。

 そんなに言われて嫌なことだったのか。褒めてもらったら嬉しいだろ普通。


 「ほら!さっさと行くわよ!」


 「お、おう」


 この空気をかき消すかのように言葉を並べスタスタと歩いてゆく青葉。

 そんな青葉に追いつこうと軽く走る。隣にたどり着くと……


 「ありがと」


 そう一言俺に向けて言い放った。褒めてくれて事にちゃんとお礼を言う青葉も律儀なのもだ。憎いようで憎めない、男が好きそうな性格をしている。因みに俺もこういう反応されるのはドキッとする。けど顔にはださない。多分で出てないと思う。


 「おう」と頷き、引き続き隣を歩いていく。休日の日に青葉と二人きりで、こんなにも近くで歩くことがとても新鮮だった。本当にデートに行っているような気がして無駄に緊張したりして……けど恋愛相談をしていなかったらこれ程の出来事もなければ、青葉と話す機会もなかった。こうして近くでいられるのはまた仲良くなれた気がして心が揺れた。


 会話することなく沢山のオシャレなお店をくぐり抜け歩き続ける。目的のお店をめがけてまっすぐに進む青葉は他のお店には目もくれず黙々と歩いている。見ている限りカッコ良さそうな服のお店だったり、女の子が好きそうなお店だったりと目に止まるものはいくらでもあった。俺もそこらじゅうを見渡していて、終いにはどんなお店があるか興味が湧くくらいだった。そのくらい魅力のあるロードだったのにも関わらず一回も頭を動かすことはなく、一途なのがバレバレだった。まぁ俺に関しては外に出歩くことがないし、こんな店に囲まれているところに行くのが珍しかったというのもあるだろうが。昔もこんな一途だったっけと思い出しながら歩を進めた。


 「さっきから視線を感じるんだけど、何か私に付いてるわけ?」


 「えっあっいや!そういうんじゃないんだ!」


 「だったら何よ」


 「特に意味はないんだけど、つい目線が……」


 「な、何よそれっ!」


 ムッとむくれる青葉に少し緊張してしまう。無自覚な表情をされるといくら幼馴染でもドキッとしてしまうからやめていただきたい……

 

 「わ、悪かったって!悪気はないんだ!」


 思い返せば言われるまでずっと見ていたような気がする。周りを見渡しては青葉をみて「こんな良さそうな店でもビクともしないのか!」とか一人でお笑いしながら自然と視線を青葉の方へとやっていた。俺キモイな……てかキレられるな……


 「そんなに見られると、いくら幼馴染のあんたでも、は、恥ずかしいから……」


 髪をくるくると指で回しながら恥ずかしそうに言う青葉。


 なんだこの天使は~~~~~~!!と、叫びそうになったが何とか堪えた。

 青葉が怒らないとは俺には世界が変わって見える。俺はツンデレキャラが大好きだ。アニメでもラノベでも一番良い味を出しているのはツンデレキャラで最もキュンキュンするのは紛れもないツンデレだ。

 

 す、すげ~……!これが主人公キャラか!恐るべし。


 「お、おう。気を付ける」


 なんだか今日だけは青葉のことを女神と呼んでもいいと不思議と思ってしまった。

 現実はすぐに帰ってくる。だから夢の時間を1分でも1秒でも感じたほうが良い。これが限界オタクの思考だ。ふぅ。キモイな‥‥‥


  

            つづく


 あとがき

 お久しぶりです。立花レイです。最後まで読んでいただきありがとうございます。

 昨日まで忙しくてあまり書くことができなかったんですが、今日書ききっちゃいました。最近はガッツリプロットもかける時間がなくて先に追いやられてたんですけどまた少し余裕ができるので頑張っていきたいと思います~~。詳しくは言えないですけど心が揺れる展開がこそ先待ってるのでお楽しみに!!ではまた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る