第9話 陰キャ脱出作戦 その2

 * 夏目 花  

 

 今日、珍しく休みの日に朝早く起きている姉。嬉しそうな顔を浮かべて鏡の前に立つ青葉は自信に満ちている。何となく察しがついた。朝ごはんを食べ終わった後、パジャマから着替えている姿。見たことない服だ。きっと今日のために用意してきたんだと思う。シンプルなコーデながらもいいところは強調できているの好きそうな服だった。


青葉はこうして行動に移しているのに私は何にもできないまま。

普段は照れ隠しで嫌なことばっか言っている青葉の方がよっぽどが積極的だった。




 いつになったら勇気が出るのかな


 いつになったら二人だけの時間をつくれるのかな



 私はどうすればいいのか分からないよ


 

 ねぇ教えてよ春……




 * 成瀬 春

 

 「ついたわ」


 端的な声を耳にし足を止めた。ようやくお目当ての服屋さんについたらしい。ここまで来るのになんて労働をさせられているんだと思いつつも、外見から分かるシャレたオーラがにじみ出ていた。


 「何疲れてるのよ。ちょっとばかし歩いただけでしょ?情けないわね~」


 「しょ、しょうがないだろ……こんな日差しのなか外に出ることないんだよ」


 小説家をなんだと思ってるんだ。自宅勤務のスペシャリストだぞ。というかその前に外に出る余裕すらないっての。


 はぁとため息をつく青葉に「じゃあ少し休憩する?」と言われたがここで休んでしまうとヘタレLVが上がってしまいそうで、何としてでも回避したいと思い断った。本当は今すぐにでも涼しいエアコンの中どこかで休みたいが、もし白井さんとデートすることになった時にこの様なクソダサい醜態を晒すわけにはいかないと思ったことも理由の一つだ。俺は「大丈夫」と一言伝え、店内へと入った。

 

 「やっぱり俺には似合わないお店だな……」


 こんな俺が入っていいのかと躊躇するくらいの雰囲気が醸し出されていた。お店自体は特別広いわけではなくどちらかと言うと狭い部類になってしまうが、それを感じさせないくらいの商品数だった。服屋さんとは言ったものの、靴だったり、バック、財布などと出かけるのに必要なアイテムが多数置いてあった。基本的にはメンズの商品しかないようで女性が立ち寄りそうなところではないのに、青葉もよく知っているものだと少し感心した。


 「似合うようにしてあげるから任せときなさい」


 「頼みます姉貴!」


 自信ありげに答える青葉の言葉に乗るように発した俺に「うんうん」と機嫌がよさそうに頷いてから服を選び始めた。服を物色している青葉の表情は実に真剣だった。


 「こういうのはどう?」


 そう言って服を広げて見せてきたのは白をベースにした所々に英単語が散りばめられている何とも個性的なデザインをした服だった。


 「なんかチャラくないか?」


 実際どういったのがチャラいという部類に入るのか分からないが落ち着きがなさそうな服に思えた。英語が駄目なのかもしれない。


 「なるほど。こういう系は嫌なのね」


 そう俺に一言いうと「似合うと思うのにな~」と小さく呟いた。選ぶことに全集中力を使っている青葉には自覚がないのだろう。完全に聞こえてしまっている。けどだからこそ今言ったことが本音な気がした。しかし、それに対して聞き返せば怒られそうだし、独り言に口出しをする趣味はなく聞こえないふりを演じることに。


 「今の高校生はこういう派手な格好が流行ってるのか?」


 それはそうと単純に気になったことを質問した。今時の高校生はこんな派手な格好で出歩いているのだろうか。俺が思うには青葉が来ているような人目に付きにくいけどしっかり見せるところは見せてくるみたいな服が流行っていると思っていた。派手な服装は目がチカチカしそうな気がするのにな。今の人達は分からん。


 「これくらいが普通なのよ。あんたは派手って思うかもしれないけど一般的にはそうではないわよ。これ!この服みたいなのが派手っていうのよ」


 そう言って指をさしている方向に目を向けると誰もが派手と言うであろうまっ黄色の服だった。


 「まぁそれは派手だな……」


 一般的な派手という概念は変わっていないのだろうが時代が変わっていくにつれて環境も変わる。今までは成し遂げられていなかったことも簡単になり、技術も発展して常に進化を遂げている。それは考え方だってそうだ。変わっているのは触ることができる物理的なのだけじゃない。新しい策や捉え方、発想があるんだ。きっと俺は取り残されているんだろう。現代という名の未来に。


 と、訳の分からない自分語りをしている俺に“こっちこっち“とジェスチャーで合図を送ってくる。


 「これどう?シンプルでいい感じじゃない?」


 今度は重ね着風の服を差し出してきた。色はベージュで重ね着のように見せかける袖の部分は白色と言った夏でも暑苦しくないデザインだった。


 「これなら俺でも着こなせそうだな」


 「じゃあ上はこれで決まりね!」


 俺の反応に小さく微笑んだ青葉。文字通り嬉しそうだった。その表情が何故だか嬉しくてつい見惚れてしまうも、すぐに目をそらす。


 「次は下ね」と言い張り、ズボンのコーナーへと向かう。これまた多くの品揃えで感心した。


 「やっぱりジーパンよね。あんたジーパンとか持ってる?」


 「ジーパンは奏美に買わされて履いたけど窮屈なのが嫌でな……」


 「それくらい我慢しなさいよ」

 

 「えぇ……」


 「奏美ちゃんも似合うと思って買わせたんじゃないの?そうじゃなかったらインドアのあんたにそんなこと言わないわよ」


 言われてみればそうなのかもしれない。突然奏美に「お兄ちゃんジーパン買いに行こっ!」って言われた時は流石にびっくりしたし。けど窮屈なのがどうしても落ち着かないのだ。抑えつけられている感覚で、大げさに言えば自由に歩くことが出来ない重荷を背負った状態になる。だからできるだけピチピチじゃない余裕のあるズボンをはいている。


 「じゃ、じゃあ青葉は似合うと思うか……?」


 買うなら似合ってなくちゃしょうがない。ただ我慢するだけのどMになりかねない。


 「そ、それは……結構?いい感じになると思う……」


 少し恥ずかしそうに言う青葉の頬は少しだけ赤い。それを垣間見て自分も赤くなってしまいそうですぐに視線を逸らす。自分で聞いておいてなんだけど、やっぱり青葉の破壊力が改めて恐ろしいと実感した。そして不覚にも胸がはねた。


 「そ、そうか。な、なら買おうかな……」


 「う、うん!そうしなさい!絶対似合うと思うわっ!」


 また、そんな表情をされると緊張するからやめてくれ……


 青葉の微笑む姿に今日は連敗だ。普段なら見せないラフな姿でこれが本当の青葉なんだな思う。素直に可愛いとそう思ってしまった。


 

 この後、試着を行いサイズを確認してから購入した。お店を出た時にはすっかり昼食時になっていた。


 「そろそろご飯にするか」


 「……」


 「どうした?具合でも悪いのか?」


 俺の問いに返答がなく少し様子が変だったので大事を取って質問する。しかし「だ、大丈夫だからっ!」と慌てた様子で返してくる。体調が悪いわけではないらしいので安心したが、俺が何かしてしまったのだろうか。テンパっているように感じた。


 

* 夏目 青葉


 遡ること数分前。購入した服をその場で着て生きなさいと命令したのが私の間違いだった。


 「お待たせ」


そう言ってお店から出てきたのは紛れもなくダメダメなだらしのない幼馴染。だけど今日に限ってはそうではなかった。まるで夢でも見ているような非現実的な時間。春が春じゃないくらいカッコよくて見惚れてしまった。



 な、なによ~~!!カッコよすぎじゃない!?い、いつもはあんなにだらしのない格好して活力のなさそうな顔してるのに!今日に限ってこ、こんなにイケメンになるなんて犯罪じゃないのよっ!!このバカっ!


 「どうした?具合でも悪いのか?」


 「だ、大丈夫だからっ!」


 見惚れすぎて心配させちゃった。け、けど、今のに関しては私は悪くないと思うわ!バカ春がカッコよすぎるのが悪いのよっ!ふんっ!


 ……カッコいいって言いたい。けど、言えない。い、いま目を合わせたら私、ど、どうにかなっちゃうわよ!


 い、いやダメよ青葉!平常心平常心……いつものポーカーフェイスしなきゃ!



やっと、やっと春に近づけたんだ。もうこの距離、離したくなんてない。


絶対に離さないんだから。



                 つづく


 

あとがき

どうもご無沙汰しております。立花レイです。やっと!本編最新話です!長かったよね!待っててくれたファンの方ありがとう。最近では星100、2万PV、フォロワー500人を突破したりと嬉しいことが沢山で本当に感謝痛み入ります。まだまだ続く春たちの恋物語を楽しんで言ってくれたらなと思います。期待に応えられるよう精進してまいりますので応援の程よろしくお願いします!ではまた!

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