第3話 君が思っていたこと

ようやく学校も終わり、夕焼けが綺麗にさしかかっている中、俺と白井さんは打ち合わせのためにファミレスに来ていた。


「今週の土曜日が授賞式ですけど、なにかコメント考えてます?」


「い、いや何も……」


「だろうとは思いました、ここで考えてください。終わるまで帰しませんからね」


「は、はい」


授賞式があることは勿論覚えていたが、告白内容を考えていたために全く手を付けていなかった。こっちはこっちでなんて言おうか考える必要があるから困る。最優秀新人賞ということで一番最後にコメントするらしいがために、その賞に見合った内容を答えなくちゃならないため、結構のプレッシャーがかかる。


「実際なんて言っていいのか分かんないよな~、そういうの得意なわけでもないし」


「自分が賞を取ったときになんて思ったのかを言えばいいんですよ」


「う~~ん」


あの時は本当に信じられなかったけど、驚くことに信じられないことがどんどん重なり、上書きされ続けているためにあまり言葉が出てこない。


「白井さんはさ、何でこんなにもしてくれたんだ?」


唐突にそう質問した。

俺は白井さんの本当の理由ってやつを聞いたことがない。

上辺だけの部分は何度か聞いたことはあったが、詳しいとことまでは掘り進めていなかった。あまり深く掘ってもよろしくないと思ったからだ。それにあまり言いたくないのか、言ってこようともしなかったからっていうのも一理ある。

 しかし、今聞くことで何か掴めるような、ここで言わなければいけないような、そんな気がした。


「それは努力している成瀬君が凄いと思ったからと何度言っているんですか」


「俺は本音ってやつを聞きたい」


俺がそう言ったときの彼女の顔は少し驚いていた。そして間をおき、ゆっくりと話し始めた。


「私が毎日図書室に立ち寄っていたのは想像できるでしょう。作家さんの小説を読んで確認してたんですよ。あ!勿論それだけの要因ではないですよ?好きな作品も読んでましたし。私は家ではあまり集中できないので学校で確認してたんです。そんなある日、成瀬君が頻繁に来るようになりました。いつもは一人だった空間に人が来た時って気になりません?どんな本が好きなのかな~みたいな?親近感が湧いてくるんですよね。そんな感じのノリで本を返しに行きながら成瀬君の後ろを通ってみれば小説をかいているではないか、と。驚きましたよ。まさか小説を書きに来るなんて思ってませんからね」


「まぁ、そりゃそうだよな」


今の若者の趣味にはゲームやアニメ、アイドルなんかが常に先頭を走り続けている。漫画を読んでいる人も多いだろう。そんな中でまさか高校生で小説を書く側に回っている人なんてものは限りなく低いし現代離れしすぎている。今の10代では考えられないくらいにかけ離れた位置に存在するであろう小説家に必死に向き合っている人は珍しい。


「まぁ最初のうちは頑張ってるな~程度でしか見てませんでしたけど、なんか段々と応援したい気持ちが出てきて気づいたらこんなことになってました」


「それはまた……」


「私は努力している人を尊敬しています。理由は簡単で自分が努力できない人だからです。だから成瀬君が必死になって食らいついていく姿がとてもカッコよくて羨ましかったんだと思います」


              努力


努力とはなりたい目標を叶えるために力を尽くすこと。

諦めそうになっても希望をもって立ち続けること。


俺の思う努力はこうだ。


努力することは難しい。精神崩壊というリスクを背負って挑まなくてはいけない、言わゆるサドンデスみたいなものだ。そこを超えたものが希望を勝ち取ることができる。


「成瀬君の近くにいれば自分を変えられるのではないかと思いました。実際変わったと思います。多分人生で一番頑張りました」


そう言っていつの日かの思い出を語るように軽く微笑む白井さん。


“努力をした“ということを決めるのは、自己判断ではない。

自分で決めれるのは“頑張ったかどうか“だけだ。

努力をしたと言い切れるのは結果や変化を出した時で、そこで初めて努力家として評価される。


世には  “努力は裏切らない“  という言葉がある。

この言葉には様々な意見が飛び交うだろう。賛成する人、反対する人と賛否両論だ。


 努力は裏切らないということを理解しているから勿論俺は賛成派だ。

こうして小説家という夢を叶えることができたのも努力したからだ。

しかし、言葉が足りない。

努力は裏切らないというのは、“どんなに些細なことでも全力で取り組み、それを積み重ね続け、正しい方向で二十分な量をした努力は裏切らない“ということだと俺は思う。


 人っていうのは不平等だ。運動が得意な人、勉強が得意な人。それに対して苦手な人も沢山いて、ましてや持って生まれた才能ってやつは不平等にも程がある。

 じゃあその人たちは努力をしていないのかってなるとそうじゃない。

“プロ“とつく職業に就いている人はその業界の中でも特に優れた人たちが集まっている。言ってしまえば才能のある人だけが居座ることのできる空間だ。

才能がないとプロはやっていけない。何か特別なものを持っていないと選ばれない。それがプロだ。



しかし、全員が全員そうじゃないだろう。

元々才能のなかった人でもプロになっている人は沢山いる。

それはみんな人生をかけて努力してきたからだ。

俺は○○になりたいという強い意志をもち、くじけそうになっても立ち上がり続け、何時間も何十時間も練習してきたからこその結果だろう。


そういう領域に立っている人達はもう努力の天才で、努力できる才能があるということだ。


しかし、プロになったからと言ってそこで終了ではない。

プロの中でも争っている。

優れた人たちの中からさらに優れた人を選抜する世界。

喰われては喰い返してを日常茶飯事でやっている弱肉強食。

少しでも追いていかれてしまえばロクに生活もできなくなってしまう。

そんな危機が迫る中で努力していないわけがない。

 


「そんなことを思っていたなんてなんか恥ずかしいな」


「だから私も言いたくなかったんですよっ!!!」


「ごめん。けど聞けて良かったよ、白井さんのこと」


「こっちも恥ずかしくなってくるのでやめてください……ほらっ!早く考えてください!!!」


「はい!考えます!」


結局のところ、努力というのは一般人やプロ関係なく色んな人達が試している。こうして俺たちがファミレスで打ち合わせをしている時にも努力している人は沢山いて、積み重ねた成果が結果になった人もいるだろう。

 なんとなく努力をしているなんて人はいない。必ず何らかのきっかけで皆、励んでいて、いつ、どんな時に希望をもらうかなんてのは分からない。

 しかし、今、努力に成功した人といる。白井さんは努力をし、結果が返ってきた。

もう、君は努力ができない人なんかではなく、乗り越えた人の一員となったんだ。




俺は改めて最優秀新人賞という名誉ある実績を思い出し、ゆっくりと書き始めた。

 そして、白井さんとまた一緒に、これからは仕事のパートナーとして努力していくことにワクワクしてきていた。

                  

                 つづく



あとがき

初めましての方は初めまして。立花レイです。

最後まで読んでくださった読者の皆様ありがとうございます。

今回の作品はあとがきを書かないスタイルで行こうと思ったんですが告知というか協力要請したくて。この作品「双子の幼馴染に恋愛相談したら超激戦ラブコメが始まった件について」の略称を決めていこうではないかと。流石の立花も毎回こんなに長いタイトルを言っててもなんか変ですし、皆さんも言いやすいと思うのでね。

 ということで!いい略称を募集します!この話のコメントに書いてくれるとうれしいです!Twitterに返信してくれてもかまいません!@tatibanarei77

ご協力をお願いします!!











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