第2話 告白って難しくないか?

俺は双子の幼馴染とのお祝いパーティーを終え、一足先に自分の家に帰ってきた。


「ふぅ~~~楽しかった~~久しぶりにこういったことすると気分が上がるな~」


パーティーという楽しいイベントに馴染みがあまりないために普段とは違った一日で新鮮だった。何より俺の小説を陰で応援していてくれたことに本当に感謝している。

 数少ない親しい間柄の人にお祝いされるのは素直にうれしい。期待に応えられるよう、もっと努力を続けていきたいと思う。




「さてと、勝負はこれからだよな」




そう。まだ勝負は始まったばかりだ。





告白。





小説家になったら白井さんに告白するということ決めていた。

俺に希望をくれた大事な人。きっと彼女がいなかったらこんな素晴らしい舞台には立ててはいないし、諦めるのも時間の問題だっただろう。

しかし、俺は彼女と出会った。出会って自分を取り戻すことでき、勇気まで与えてくれた。不安定だった俺に手を差し伸べてくれたおかげで今の俺があり、夢であった小説家にもなることができた。




俺は白井さんが好きだ。

白井さんの言葉に、まなざしに胸を射止められた。

これまで頑張ってこれたのは紛れのなく白井さんのおかげだ。

悩んでいる時は一緒に悩んでくれた。上手く書けた時にはたくさん褒めてくれた。俺がどんな状態であろうと離れずにずっとそばにいてくれた。そんな時間が楽しくて、また嬉しかった。たった一人の俺には分からなかった時間の使い方を教えてくれた。そして気がつけば白井さんに恋をして、より過ごす時間が楽しくて価値のある物になっていったんだ。



すると突然、スマホの通知音が鳴った。


「やべっ!白井さんに連絡してなかった!」


通知音でスマホを持っていくのを忘れたことに気づいた俺は慌てて開いた。


「げっ……めっちゃきてる。てかキレてるし……」


恐る恐る電話をかけてみると、ものの数秒でどでかい声が俺の鼓膜を破壊してきた。


「おっそ~~~~~~~~~いぃぃぃ!」


思わずスマホを顔から遠ざける。だが声の音量に変化はない。


「もうっ!せっかくおめでたい事なのに一発目から怒鳴らせないでくださいよっ!!」


「本当にすみません、携帯見てませんでした」


「まったくもう……けどまぁ、おめでとうごさいます!」


白井さんは本当にキレているのではなく、なんとも穏やかな声だった。こうやって白井さんと喜びを分かち合える事ができたことが何とも嬉しかった。


「ありがとう。白井さんには感謝してもしきれないくらいだよ。なんてお礼を言ったらいいか」


「そんなことはいいんですよ!私も一つの目標みたいなものだったのでとてもうれしいです!」


「近いうちにご飯でも行こう」


「そうですね!で。早速なんですけど予定が入りました。まずは新人大賞の授賞式の日程が決まりました。その際にコメントを言わなくちゃいけないのでちょっとした文をかんがえておいてください。それから、私のお父さんのところで出版することになったので会社に来てもらいます」


「それマジで!?」


「はい」


「よっしゃ~~!!!一番凄い出版社で俺の小説が連載されるのか!?夢みたいだ」


「良かったですね。詳しい情報が分かったら連絡します。私も担当編集者になったということでいろいろ忙しいので切りますね!」


「担当編集者!?」


何という幸運なんだろう。こんなにいいことばかり起きて明日にでも不幸が訪れないか心配になってくるほどに理想が続いて鳥肌が走った。今までの俺の苦労でも釣り合わないくらいの跳ね返りだ。


「はい。お父さんがその方がいいだろうって」


「それはめちゃくちゃ嬉しいな!改めてこれからもよろしく」


「よろしくお願いします!では!」


「あっ!ちょっ!」


そんな能天気なことを考えていたせいで電話は5分も経たないうちに終わってしまった。結局、白井さんに伝えたいことも伝えることができずに通話が切れてしまった。


「クソ~~先に言っとけばよかった~~、バカ野郎だな俺は」


そんなことをボソボソと呟いていると白井さんから連絡が来た。


「すぐ切っちゃってすみません。さっき何か言いかけました?」


「なんでもないよ!」



やめておくことにした。

いざ聞き返されると死にそうなくらいに恥ずかしくなったから。

それに考えてみればなんて伝えればいいのか分からないし、中途半端な状態で彼女に告白しようだなんてテンパって詰むのがおちだ。彼女も忙しそうだったし今は違うのではないかとそう思った。実際彼女に道を作ってもらっては男が廃る。やはり自分から行くことが大事だし、告白する最低限のマナーは守りたい。


「よく考えなくちゃな」


上を見上げ、未来を想像しながらこれからのことを考える俺だった。






考え始めてからはや30分が経過したころの俺はと言うと・・・


「う~~んと、告白って何??」


いやいやバカかお前はと言いたいところかもしれないがちょっと待ってほしい。

告白というものは勿論知っている。むしろ今住んでいる地域の中で一番理解していると思う。なんせ“美少女ツインズ“の告白されるところをまじかで見てきたから。

 告白というのは相手に自分の気持ちを伝え、より関係を深め進めることだ。

そこから交際が始まったり、はたまた関係がストップしてしまったりする、2人の関係に区切りがつく分岐点になるのが告白だ。

そんなことは分かっている。けど俺が言いたいのはそういうことではない。



“どうやって告白するのか“だ。



告白どころか初めて好きな人ができたのが高校に入ってからの俺には全く理解ができない内容なのだ。告白している人もなんて言って告白しているだろうか?

なんか告白してんな~程度でしか見ていなかったけど相当難易度が高いことに今気が付いた。


(あれどれだけの勇気がいるんだよ。だってまず相手を呼ばなくちゃいけないわけだろ?もうその時点で俺だったら容量オーバーだ。そこからの告白とか精神もたねー気しかしないぞ。ただ、呼ぶって点では最近はほぼ毎日会ってるからチャンスはいくらでもある。今俺に必要なのは告白する内容だ。いくらチャンスがあったところで考えなしに伝えても効果はまるでないからな)


「告白って難しくないか……」


そう呟きながら頭を抱える。

正直なところ今までまともに話してきたのは花と青葉しかいない。沢山の人と友達になりたいやら、話したいやらと言った思考になったことが一度もない俺には恋愛という青春に染まった鮮やかな色などもっての外だった。


告白というのは何とも難しい。まるで小説やRPGのような複雑な世界の中に入り込み、さ迷っているようだ。現実世界での陰キャの大先輩である陽キャラの人達は友達に相談したりすだろうし、そもそも積極性が違い過ぎる。自分から進んで話しかけたりを平気でこなすことができ、遊びにも何の違和感もなく誘うことのできる強者。それに対して陰キャはどうだ。積極性の欠片もない飛んだ雑魚野郎の集まりだ。好きな人を遠くから見て幸せになっている言ってしまえば変態。これだから陽キャからカス扱いされるのだ。 誰が陽キャより陰キャのが下と決めたんだ!人は平等だろ!? と思う陰キャがほとんどだろう。実際、俺もそう思っている。陰キャ=キモイやらデブやらと偏見を述べてくる者に一言カマしてやりたい時もある。


だが、その意見をすらも覆してしまう陽キャは凄い。スポーツ選手などは、それこそラノベ作家と比べ物にならないくらい影響力がある。一番夢や勇気、励ましを与えている職業は陽キャだ。別に人前に出ない職業のことが駄目と言っているわけではない。今も絶賛人気の漫画なんかは影の職業の中でもトップクラス。名言や生き様で人生を変えられた人だって少なくはない。けど、それでもやはり陽キャラには勝てない。影響力他、陰キャラにはないものを彼らは身にまとっているから。


結局、自分の思考ワールド全開で告白とは程遠い考えをしてものすごく無駄な時間を少していた俺だった。





翌日。

あれから正気を取り戻し考えていたものの、何もいい案が出ることなく一日が終了した。考えれば考えるほど難問化して答えが遠ざかってしまい、進展が何一つ生まれなかった。


 まぁ急ぐものでもないから丁寧に慎重にやればいいと思うが、あんまりモタモタして気を取られていても今後の生活に影響してくる可能性がかなり高い。俺はもう小説家。自覚をもって仕事に取り組まなくてはならない。このまま今の現状が続いていたら小説もいい作品にならないし、提出期限もロクに守れそうにない。ボチボチ考えないとダメみたいだ。



「お兄ちゃんおはよ~~眠たい……」


「おはよう。その目はまた夜更かししてたな?授業で寝ちゃだめだぞ?受験生なんだから」


「分かってるよ……」


「もうすぐでご飯できるからその間に顔洗って待ってて」


「いえっさ~~~」



ちょっと不満そうに目をこすりながら、今にも寝倒れてしまいそうな様子がうかがえるのは俺の妹 成瀬 奏美かなみ 。今年受験の中学3年生だ。


 妹だが、血が繋がっているわけではない。奏美が生まれたばかりの時に両親が事故で亡くなってしまった。そこで俺たち家族が奏美を引き取ったのだ。

もっとも、実の家族ではないとはいえ、俺の、俺たちの大切な家族なのは変わりない。


奏美は元気でわんぱくな子だ。学校でもたくさん友達はいると思う。良く友達との出来事を話してくるのが紛れもない証拠だ。花とはまた違った性格だが奏美もまた周りを笑顔にできる素質を持っている。そのせいか、定期的にダルむ時期やネガティブ思考になったりするときがある。まぁ基本的には騒がしい妹だ。



両親が共働きのため、基本は二人で生活している。そのため面倒を見ているのは俺だ。特に今年は奏美が受験生ということもあって割り振っていた家事も今は俺がすべてこなしている。勉強してるところは今のところ一度も見たことないけど……

 まぁそれでも負担を減らすために頑張れって気持ちを込めてしっかり勉強してくれることを願いながら日々家事に勤しんでいる。


「いただきま~す」


「いただきます」


奏美が来たところで食べ始める。


「あっそうだ。聞いてなかったんだけどさ、お兄ちゃんの小説ってどこで出版されるの?入りたいとこあったんでしょ?まぁ聞いてもわかんないんだけど」


「ちゃんと希望のとこには入れたぞ。そうだな~、簡単に言うとラノベ業界No1のデカい会社で出版される」


「おお!それはすごいですな~~!!」


「ちゃんとテスト勉強したらお小遣いあげるから頑張れよ~」


「条件付きなのは賛成しかねますね~、それ以前にお小遣いあげられる程のが入ってくるのですかね〜〜」


そう言ってお金のポーズを取りながらこちらに見せつけてくる。


「ホントにありそうな事言うなよ。それはそうと奏美、勉強は大事だ。落ちたら元も子もないんだぞ?後々の後悔は自分に返ってくる。しかも今やうちはどんどん倍率が高くなってるから入るのが難しくなってるんだぞ?だから手遅れになる前にやっといた方自分のためだ」


奏美は俺や幼馴染が通っている高校の胡桃坂高校くるみざかこうこうに入学希望だ。もともとはごく普通の高校だったのに、近年で有名人が入学してくることによって倍率がとてつもなく高くなり、名門校かよってくらいのレベルにまで跳ね上がってしまった。そのために勉強をいまの内からでもしておかないと入学が怪しくなってきているのだ。


「夏休みからやるよ~~~多分」


「多分って……」


「大体なんでこんなに倍率高くなっちゃうの~~私とばっちり~~」


「兄ちゃんの受験の時も例年より高くなってたからな~、けど今とじゃ比べ物にならないくらいけど。有名人の力ってスゲ~よな~」


「有名人なんていいのに……」


「そんなこと言っても変わるわけじゃないからな~、とにかく頑張るしかない」


「うん、そうだね」


妹には志望校に合格してほしい。

自分の行きたいところに行ってほしい。

 親がいない生活が当たり前になった今、家事をすることも当たり前になっている。

学生はもっと楽しむべきだと俺は思う。家事なんてやってないで思い出をたくさん作って青春を楽しむことが何よりも大事だと思う。それが学生の仕事でもある。

 友達と遊びたい時だってたくさんあっただろう。自分の時間がたくさん欲しかっただろう。しかし、やりたいことを制限して家のために時間を使う。それが普通だと奏美は思っている。

 だけどそうじゃない。学生が家のことを気にして夕方前に帰ってくるのは普通じゃない。ましてや、家のことを意識している中学生なんて限りなく少ないだろう。

 だからこそ、高校は志望校に入学してほしい。無意識に積み重ねてきた今までの頑張りを“合格“という文字に変換して巡り合わせてほしい。

高校からは自由にノビノビとしててほしいから。

 

「ありがとね。お兄ちゃん」


「俺は何にも。頑張るのは奏美だ。さぁ学校の支度していけよ、遅刻するぞ」


「は~い」


“ありがとう“という言葉を久しぶりに言われた気がして少し頬が緩んだ。受験が近づくにつれて不安も必ずついてくる。その時は全力でサポートしたいと思った。








(待てよ……俺も学生じゃないか???)








奏美が家を出て言ってから15分ほどして俺も家を出た。


「春おはよ~!」


「おはよう。花、青葉。昨日はありがとうな。奏美にも遅くまで付き合ってくれたりして」


「いいよいいよ~、久しぶりに奏美ちゃんとたくさん遊べて楽しかったよ!ねっ!青葉!」


「うん!奏美ちゃんは可愛すぎるわ!天使よ天使!」


「あはは……やっぱり奏美のことになると青葉はIQが下がるんだな」


「そこに関しては否定できないかもね……癒しなのは私も同じだけどさ」


この青葉の変わりようは半端ではない。奏美と遊ぶ時だけまるで嘘のように優しいのだ。昨日もずっと奏美と一緒に遊んでた。しまいには服もあげてたな。きっと妹みたいに思ってくれてるんだろう。それにしてもシスコンが凄い。完全に俺を超えてる。


「なによあんた。悪いわけ?」


「いや別に悪かね~よ、妹の面倒見てくれるのは普通に助かるし」


「いつでも遊びに来ていいって言っておいて。あんたは来なくていいわ!」


「はいはい……」


容赦ない俺への罵倒を吐き捨てる青葉に呆れながら答えた。

俺への対応も変えてほしいものだ。今度女装でもしてみよ。ワンチャン変わるかもしれん。


「ところで小説のほうは進んでる?」


「あっ、いや全然進んでないな。予定は入ったりしてるけど小説は書けてないかな」


書籍化したからって浮かれているわけではない。ただ小説を書くより先にやらなくてはならないことがある。告白という名の獣に打ち勝たなくてはならない。どう攻略するかを今必死に考えている最中だ。しかし、なかなかいい案が出てこなくて非常に焦っている。という現状。

 結果がどうだろうと告白をしてからじゃないと小説も上手くいかない気がして一切手を付けていない。これが命とりなのはわかっているけど、ケジメはしっかりとつけたい派だから答えが出るまで抗い続けたい。


「もし力になれることがあったら言ってね!できる範囲でなら手伝うからさ!」


「ありがとう、花」


ここで改めて優しい花の存在がどれだけ落ち着くのかを知らされた。

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