第3話 サクラコ16歳。
サクラコはお店で腕組みする。
サクラコはもう16歳。
成人だ。
一人前の店長である。
ところが、大変なのだ。
ぴんちだ。
つぶやいてみるサクラコ。
街の中心に薬品店が新しく出来てしまった。
前から大型の商店は有ったの。
そこでも薬は売っていた。
服に食品、薬まで売ってるお店。
サクラコ薬品店はそのお店より少し安い値段にしてた。
大通りでしか買わないようなお金持ちは商店で、
裏通りまで安い商品を求めてくる人はサクラコのお店で買う。
新しい薬品店も値段を調べていたんだと思う。
大きな商店より少し安い値段設定。
つまりサクラコの店とほぼ一緒だ。
値段が一緒だったら街の中心で買う人の方が多いだろう。
だから。
ぴんちだ。
サクラコは腕組みを止める。
サクラコの店は街の外れだ。
対抗するにはもう少し値段を下げるしかない。
売値を下げるという事はどういう事か。
今までと同じ数の薬を売ってたら、売り上げが下がる。
売り数を増やす。
そのためには薬も多く作らなきゃいけない。
今もサクラコは頑張っている。
午後薬草採取に行く。
夜は薬草の調合だ。
調合中の薬は日の光に当てたくない。
夜、作業するのが正解。
そして朝寝床に入る。
もっと頑張ろう。
弟のユウキも10歳だ。
家事を出来るだけまかせよう。
お料理、お洗濯、お掃除。
幸いユウキは出来るヤツだ。
サクラコも睡眠時間を削る。
何とかなるさ。
「あのな、サクラコ。
今だって、家事はほとんどオレがやってるぜ」
「あれ、ユウキ。
帰ってたの?」
「もう昼だよ。
学校は終わり」
「そんな時間か。
いけない。
薬草採りにいかなきゃ」
「待て待て。
ちょっと計画を考えよう」
「計画?」
「新しく出来た薬品店への対抗策だよ」
なんだよ。
子供のくせに。
心配なんかするな。
「サクラコ。
どうせ、寝なきゃ何とかなる、
とか思ってんだろ」
「違うよ。
薬草採取の時間を増やして、
調合の時間も増やすの」
「あのな…
そしたら必然的に睡眠時間が減るだろ。
同じことじゃないか」
チッ
騙されなかったか。
「頑張ればなんとかなるよ。
サクラコも一人前だからね」
「オレが学校行くのを減らすよ。
それで薬草採取すりゃ何とかなるだろ」
「ダメだよ!」
「何で!
サクラコだって10歳越えたら半分くらいしか学校行かずに、
薬草採取してたって。
オレ聞いたんだ」
先生だな。
余計なコトを。
学校は10歳越えたら毎日はいかなくてもいい。
どうせ家業を継ぐ人がほとんどだ。
家業の見習いをやる方が優先。
でもユウキは…。
「ユウキ 勉強出来るんでしょ。
学校始まって以来の秀才とか聞いてるよ」
「先生だな。
余計なコトを」
フフン。
やっぱり姉弟ね。
サクラコと同じコト言ってる。
「マジメに勉強続ければ、
役人になる事も夢じゃないって…
ユウキ 頭いいもん。
勉強した方がいい」
「…
じゃ店はどうするんだよ」
「だから頑張ればなんとかなるって」
そう言うとユウキはしゃがみこんでしまった。
「オレが子供だからか…
チクショウ」
ユウキが泣きそうになってる。
瞳が潤んでる。
泣くな 泣くな。
「泣くな、オトコだろ」
サクラコが何か言おうとしたら、
その前にユウキが自分で自分に言ってた。
「サクラコ、遅くなるだろ。
まず薬草採取行ってこい。
その間にオレは考えとく」
何だよ。
ちょっとカッコいいじゃない。
ユウキのくせに。
「いいか、サクラコ」
薬草採取から帰ってきたサクラコ。
サクラコを待ってたのは数字の嵐だった。
ユウキが言う。
「これが一日の平均販売数だ」
「これは全体の合計。
種類ごとに分けるとこうなる。
『回復薬』が一日平均〇〇本、月合計が〇〇本。
『毒消し』は平均〇〇本、月合計〇〇本。
そんでもって…」
「販売数だけで言うと『回復薬』が一番多い。月に〇〇〇ゴールドだ。
だけど売上金額で言うと、単価の高い『痛み止め』だって大きい。
〇〇〇ゴールドだから同じくらいの金額なんだ」
「待って、待って。
そんなに色々言われても分かんない」
「紙に書いてあるだろ!
見ながら聞けばワカルだろ」
ワカンないよ。
驚いた。
先生が秀才って言ってたの。
ホントウだった。
でも自分が勉強できるからって、
他の人も出来ると思ってる。
アタマいいヤツってそういうトコあるよね。
自慢じゃないけど、この紙見たってサクラコには分からない。
「だから!
『痛み止め』が売り切れてるだろ。
何でだ」
「昨日 売れちゃったから」
「予備作っておけよ」
「だって毎日売れるんじゃないもん。
作るのだって一週間かかるんだよ」
作り過ぎたら作り過ぎで傷む。
効能期間てモノが有るの。
「だから、この表だよ。
いいか。
『痛み止め』は30日間で13本売れてる。
一日0.43本、2.3日で1本だ」
「2日に1本仕込んでおくんだ。
在庫が5本越えたら、仕込み中止。
4本になったら、また仕込む」
「えーと何で?」
「あのな、
作るのに7日かかるだろ。
7日間の平均販売数3本。
だったら4本あれば売り切れる可能性は低いって事だ」
良く分かんない。
アタマのいいヤツはこれだから…
ユウキのくせに。
それからユウキは数日かけて商品の在庫表を作った。
どの薬品が作るのに何日かかるか、
効能期間はどのくらいか、
全てサクラコから聞き出して一覧にまとめた。
サクラコが毎日どの薬品を何本仕込めばいいか表にした。
もちろん日によって売れ数は違う。
旅商人さんが立ち寄ったりすれば、一気に売れてしまうのだ。
でも月の平均で見ればそんなに変わらない。
平均数を毎日仕込んでおくの。
「『痛み止め』の在庫数は少し増やそう。
大通りの店じゃ売ってないんだ」
「あぁ、あれは作るのが大変だからね、
半端な人が作ったら自分が毒を受けるよ」
「なんだよ、危険じゃねーか。
サクラコも気を付けろよ」
「サクラコは大丈夫。
お婆ちゃん直伝のレシピが有るんだよ」
サクラコはニンマリ。
ドヤ顔だ。
「あの香草。
虫が寄ってこないヤツ。
あれも売ってみようぜ。
オレが旅人だったら絶対買うよ」
「ユウキ、ハチが怖いんだ~。
子供の頃刺されて泣いてたもん。
今でも怖いんだ」
「ち…ちげーよ。
ハエがイヤなんだよ。
五月蝿いだろ」
そんなこんなで。
ユウキの言う通りにしてみたら
サクラコ薬品店は好調だった。
売上自体はほとんど変わらない。
新しいお店に取られて売上が減った。
売り切れの薬が減って売上が上がった。
同じくらいだったの。
でも、
効能期間切れで捨てる薬品が無くなった。
これが大きい。
ムダな材料が減る。
サクラコの作業量も減るのだ。
ケケケ。
サクラコはニンマリ笑う。
よし。
将来はユウキが店長だな。
商売人に向いてる。
サクラコは職人。
薬品職人マスターを目指すのだ。
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