第2話 サクラコ14歳。

サクラコは14歳。

弟のユウキは8歳だ。

ユウキはサクラコが大きい木の下で見つけた子だ。

今はサクラコの弟だ。


ユウキは自分が拾われた子だなんて忘れてる。

忘れてるんじゃないかな。

忘れてると思う。

ユウキはまだ小さかったし、あれから5年も経ってるのだ。

どうかするとサクラコも忘れてる。

本当に自分の弟だと思ってるサクラコだ。


サクラコは薬品店を切り盛りしてる。

店長さんだ。

サクラコ薬品店なのだ。


お婆ちゃんは昨年亡くなってしまった。

最後まで元気で優しかった。

サクラコはどうしていいか分からなかったが、

近所の人がみんな手伝って共同墓地に入れてくれた。

愛されてたお婆ちゃんだ。


「サクラコ、サクラコ、起きろよ」


「うー。ユウキ、姉さんと呼びなさいよ」


「また昼まで寝てたのかよ」


「いいの。明け方まで薬の調合してたんだから、

 しかたないの」


ユウキが学校から帰ってきたんだ。

学校に行くようになってユウキは生意気だ。

前まで姉ちゃん、姉ちゃんと言ってたのがサクラコになった。


「袋貸せよ、オレが薬草詰んでくるよ」


「アンタまだ薬草の事全部覚えてないでしょ」


プッ オレだって。

この間までボクだったくせに。

カッコツケだな。


「薬草くらい覚えたよ。

 それより野犬が出るって言うぜ。

 街の外は危険だ」


「大丈夫。

 山ハッカつけていくから」


山ハッカは香草なの。

サクラコが嗅ぐとスーッとする良い臭い。

だけど動物は嫌って近寄ってこない。

ついでに蜂とか蠅も寄ってこない。

スグレモノね。


「うっ」

ユウキが顔をしかめる。

こいつもこの匂いが苦手なの。

オマエは動物か!


「じゃー、行ってくる。

 店番たのんだわよ」


サクラコは袋を担いで出かける。


「ちゃんと気をつけて行けよ。

 サクラコ」


そんなユウキの声が飛んでくる。

姉さんと呼べってのに。



裏門から街を出る。

もうあの窓は通れない。

でも大丈夫。

門のそばの塀に崩れた個所が有るの。

そこを足掛かりにエイッと門の上に立つ。

そして飛び降りる。

サクラコさん 10.0。

サクラコは割と運動も得意。

子供の頃から、薬草詰みに森や裏山歩き廻ってたのはダテじゃない。


今日はアコニティンを採らないと。

注意して採取しないと手に毒が残る。



サクラコはもう学校に行っていない。

お婆ちゃんが死ぬ前もたまにしか行ってなかった。

学校は15歳までは通えるけど、毎日通う子は少ない。

10歳越えたら家の手伝いをする。

16歳になったら成人。一人前だ。

それまでは見習い期間。


サクラコは14歳。

まだ本当は一人で店を営業できない年齢。

でも近所の人が後見人になってくれた。

ご近所付き合いはしておくものだ。


ホントはサクラコはあまりご近所付き合いしてない。

お婆ちゃんのおかげだ。


『回復薬』の材料を詰む。

『回復薬』は一番売れる。

サクラコ薬品店の売れスジ。

一人で何本も買って行ってくれる。

特に旅人さんだと10本まとめて買ってくれたりする。


『毒消し』はまだ有ったかな。

それより『痛み止め』だ。

昨日売れて在庫が無い。


思ったより遅くなってしまった。

暗くなってきた道をサクラコは帰る。

背中に担いだ袋はいっぱい。

大漁じゃ。

ケケケ。

サクラコは勝利のニンマリ笑いを浮かべる。


「遅ーい!

 もう真っ暗じゃねーか」


「ゴメン。ゴメン。

 お腹空いた?

 すぐ作るから、怒るな」


「夕飯なら作ってある」


え?

驚くサクラコ。

本当だ。

ベーコンを挟んだパンと野菜スープ。

いつの間に料理なんか出来るようになったの。


「何言ってんだ。

 前からスープくらい作ってたぞ」


そういえば野菜の皮むきやらせてたな。

下ごしらえは手伝ってもらったけど、全部作ったりさせてたっけ。


「朝飯どうしてると思ってんだ。

 毎朝、作って食べてる」


ああ、朝は寝てたもんね。

ちょっとわが身を反省するサクラコだ。


スープ美味しいじゃん。

このパンはご近所さんのだ。


「ああ。あそこのパン屋、

 オレが買いに行くと値引きしてくれるんだ」


何ですと。

小さい子だからか。

サクラコは子供の頃を思い返す。

値引きしてくれた思い出、無いぞ。


「簡単だぞ。

 あそこのおばさんに

 『お姉さん いつもおキレイですね』

 って言えばいいだけだ」


「いつの間にかユウキが女たらしになっちゃった。

 お姉さんは悲しいよ」


「黙って食え」

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