サクラコ薬品店の姉弟

くろねこ教授

第1話 サクラコ9歳。

サクラコは裏門から街を抜け出る。

正門から出ようとすると警備の兵士さんに捕まっちゃうの。

だからサクラコは裏門から出かける。

裏門はいつも鍵が掛っている。

でもサクラコはちゃーんと知ってる。

門の脇に窓が有るの。

大人の人なら通れない。

でもサクラコは通れちゃうのだ。


サクラコは9歳。

お婆ちゃんのお店を手伝っている。

お婆ちゃんは薬屋さん。

『回復薬』『毒消し』『魔法薬』

何でも売ってる。

サクラコは薬草を積んでくる。

サクラコの詰んだ薬草からお婆ちゃんは薬を作る。

兵士さんや旅人さんが買ってくれるの。


サクラコは勉強家。

薬草の名前も種類もだいたい覚えた。

これは浅葱(あさつき)・食べるネギの小っちゃいの、毒消しの材料にする。

これはメハナ・黄色いカワイイ花が咲く。

だけど花が咲く前、つぼみの状態で採取しないとダメ。

体力回復の材料なの。

あっ紫色の花、これはアコニティン。

毒が有るから触っちゃダメ。

お婆ちゃんによると痛み止めにも使えるんだって。

でも素手で触ると危険。

だからサクラコは近づかないように言われてる。

うん。

絶対近づかない。


今日は調子いい。

背中の袋いっぱいに取れた。

大漁じゃ。

ケケケ。

サクラコは勝利のニンマリ笑い。

笑いながら帰る。


森から抜けて川を渡れば、裏門まですぐだ。

暗くなるまでに帰る。


泣き声が聞こえる。

動物のかと思った。

野犬だったらコワイ。

だけど違うみたい。


サクラコは森の中を泣き声の方に行ってみる。

大きな木が有るところだ。

大きな木のそばにいたのは。

男の子だった。


小さい子。

2歳~3歳くらい。

木に寄りかかって泣いてる。


「どうしたの?」


「ママ…ママ…」


お母さんとはぐれたのかな。


「ママはどこ行っちゃったの?」


「ママ…いない…ママ」


子供はまた激しく泣き始める。

サクラコまでつられて泣いちゃいそう。

サクラコは子供を抱きしめてみる。

大丈夫、大丈夫。

泣くな、泣くな。

泣くな、オトコだろ ってヤツ。

お婆ちゃんの好きな歌のフレーズだ。

子供はビックリしたように泣き止む。

ウワー

カワイイ子だ。

大きい黒目。

パチクリと見開いてカワイイ。

まだ瞳が潤んでるね。


どうしよう。

ここから街まではすぐだ。

連れて行こうか。

でもお母さんが近くにいるかも。


空を見ると曇ってきてる。

夕立が降るかもしれない。

うん。

連れて帰ろう。


この子はさっきまで泣いてた。

近くにお母さんが居たら泣き声で分かる。

という事は近くにはいないんだ。

サクラコはかしこいのだ。


サクラコは9歳。

3歳のオトコノコをオンブするくらいできる。

袋いっぱいに詰めた薬草を担ぐのだって平気だ。

でもオトコノコをオブって、薬草も持つとなると少し大変。

すぐ息が荒くなった。

顔が赤くなってくる。

うーうー言いながら歩く。

するとオトコノコは自分で歩くと言い出した。


「お姉ちゃん、大変そう。

 ボク、歩けるよ」


カワイイいい子だ。

道の悪いとこではまたオブってあげる。


裏門から街に入る。

例の窓を使って。

オトコノコの背だと窓に届かなかった。

だからサクラコが抱き上げる。

窓から下へはオトコノコが飛び降りる。


お婆ちゃんの薬品店は裏門からすぐだ。

街の中心、大通りからは離れてる。

けど裏門からは近い。

だから裏門の方が便利。


お店の2階でお婆ちゃんとサクラコは暮らしてる。

今の時間ならまだお店を開けてるハズ。


うん。

お店にお婆ちゃんがいた。


「お婆ちゃん。オトコノコ詰んできた」


お婆ちゃんがビックリしてる。

サクラコは言い間違った。

ホントは薬草を詰んでたらオトコノコ拾った。

そう言いたかったの。




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