両親だった物

どこで間違えたんだろう。

私たちはしっかり育てた筈なのに。

私、ハルの母は考えていた。

あのハルが私たちに牙を剥くなんて。

しかもあんな一言で怒っているだなんて。

本当になんて馬鹿なんだろうか。

ハルが健やかに育つように私たちはなんでもやらせてきた。

ピアノや歌、空手、柔道、演劇、バレエ…。

欲しいと言うものは買えるものは買ったと思う。

なんでもあげたのに、あの子は何も返してくれないのだろうか……。

私の中からふつふつと怒りが湧いてくる。

なんで私が死ななければならないの?なんでパパを刺したの?なんでアイツは生きているの?なんで死なないの?死んでよ、私たち以上に苦しんでよ。ねぇ、早く!!

パンッ………。

何かに頬を叩かれた。何?今とても機嫌が悪いの。アイツを殺したくて堪らないの。

邪魔しないで。

ソレを手で退けようとするが動かない。

何、コレ?ソレを恐る恐る触ると、手だった。

「ママ。」

懐かしく感じる声で呼ばれる。

「ママ。」

誰だっけ、世界で一番愛してる人だったような…?

ギュッと強い力で抱き締められた。

「ママ…だめだよ。」

……パパだ。ハルの父親で私の夫。

なんで?貴方もハルに殺されたでしょ?とても腹立たしいでしょ?一緒に殺しましょうよ、ね?

そう呼び掛けるがパパは首を大きく横に振る。なんで?

「ハルがあんな事になったのは俺たちの責任だ。」

え?そんな訳ないでしょ?アイツがああなったのはアイツのせい。私たちは関係ないじゃない。

「違う、ハルを変えることができなかった俺たちの責任でもあるんだよ。」

違う、それこそ違う。だって、

「違わない、俺たちは親として、アイツのためにも償わなくてはいけないんだよ。」

なんで、私たちは何も悪くないのに。アイツのせいで私たちは死ななくちゃいけなかったのに!!

「……これこそ天罰なのかな。」

何が?

「自分の娘に殺されることがだよ。」

私たちは何も悪いことをしていない。

「きっと覚えていないだけで色んな人から恨まれるようなことをしたんだよ、俺たちは。だから、一緒に償おう。」

嫌だ!まだ生きていたい!!

「もう十分生きたじゃないか。あとはあの子達に任せよう。」

………パパはこれでいいの?

「あぁ。」

本当に?

「うん。」

なんで?

「だって、これが運命だから。これ以外の何物でもないから。それに…。」


「ママと一緒ならなんでも出来るからさ。」


…………本当に、本当にばかな人。

優し過ぎて損をしてしまう人。

私が居なかったら何も出来ない弱い人。

「仕方ないわね、一緒にいてあげる。」

そっか、これが私の罪なんだ。なら償おう。この人と一緒ならなにも辛くない。

「じゃ、ママ行こっか。」

パパはエスコートするように手を差し出してくる。

「えぇ。」

その手を取り、2人で歩き出す。

ハル…ごめんね。今までありがとう。

また、逢いましょう。


そして、居なくなった。

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「僕」の物語 oms @Oms

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