age25 / 正直者の効果

――――家、出てきた。家族にも話して。


暑い陽射しが少しずつ和らぎ、柔らかい風が掛けたばかりのレースカーテンを揺らす。

ふん、ふふん~♪

次々と荷解きを進めるきみの鼻歌が楽しそうで、それだけでこちらの心も躍る。

と同時に、未だに聞けずにいる懸念をいつ切り出すかと悩んでいる。

「キチンと決めたところに入れなよ」

三度も言わずとも判ってます。

「怪しいから繰り返すんじゃん」

………片付け苦手で申し訳ない。


大家さんとご近所に挨拶をした流れで夕飯の引っ越しソバを食べに向かう。

時折ひんやりとする風が、隣で上機嫌に笑うきみのシャツを揺らす。

「家族に引っ越しの連絡はしたの?」

暫しの沈黙のあとにハッとした顔を向ける。

「ヤバイ、忘れてたっ!!」

退職の件で心配かけたのに何で忘れるかな?

「今すぐ連絡しておきなさいよ」

「うぅぅ、だって、むにゃむにゃ……」

スマホを取り出しながら言葉を濁す。

何ですか?

「これでやっと『居候』から『俺たちの生活』になるんだなって、そうしたら超嬉しくて………浮かれました、今します」


学生時代からそうだった。

きみのその正直さは僕の心を和ませる。

そして幸福しあわせの在処を明確にしてくれる。


この隙に思い切って聞いてみようか。

「ねぇ、ご家族にはどこまで話し……」

「ごめん、ちょっと待って。

 うーん、これ、どうするかなぁ」

「困り事?」

「いや、寧ろお願い事。

 あのさ、花火の時の画像を姉ちゃんに送ってもいい?」


――――え?


「俺、好きなひとと一緒って伝えて実家出たままだから、いい加減どんな相手か見せろって煩いんだよ。

 このイチゴ飴食べてるやつ、いいかな?」

「………それは、明らかにボツだよね」

「やっぱりダメかぁ!

 じゃあ、花火バックのツーショット、これならいい?」

「良いけれど………」

きみも、お姉さんも、いいの?

「はい、送信。腹減ったー、早く行こう!」


これは僕が抱える不安を見透かしての行動なのか、いつもの天然のバカ正直さなのか。


♪ピコン、ピコン、ピコピコ………。

怒濤の着信音。

からの着信メロディー。

苦々しい顔で画面を見つめる。

「出なくていいの?」

「イケメンクォーターに逆上のぼせて挨拶を口実に喋り続ける姉と会話する気、有る?」

弟として恥ずかしくて俺は無理、と無音無振動にしてポケットに突っ込む。


「先ずは……口煩い姉ちゃんから紹介していくんで、少しずつだけどお願い致します」

「こちらこそ、よろしく」


僕らの世界はゆっくりと、だけど想像以上に優しく回り始めているんだね。



◆ ◆ ◆



「ちっ、出やしない。嫌がらせしてやるか」

ポチポチ、ポチポチ、ポチ、ポチ……と。


←あ

←んまり

←迷惑か

←けてフ

←ラれない

←よ

←うに

←しなさい

←よ、た

←まに

←は

←顔見せ

←な

←さい😠☝💨


「はい、終了」

アイツから届いた写真、ちゃんと笑ってる。

元気そうで良かった。

完璧な理解者にはなれないけど、そういう気持ちはあることだけでも伝わればいいなぁ。



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