age28 / 躊躇い

オンラインで親友に呼び掛ける。

「はいよ、お待たせ。

 転職の件はキャンセルだな?」

「……まだ何も言ってないし。

 勝手に決めつけるなよ」

ぷぷぷっと明らかに楽しんでる声がして気に入らない。


「久し振りにいい眼で睨まれた」

「……ごめん」

心を通わせたこいつには、学生の頃から頭があがらない。


「ホッとしたろ、いいんだよ、それで。

 応えてくれるヤツが居るんだ、お前はもっと欲しがれ」

まだ躊躇しているのを完全に読まれてる。


「本当に、いいんだろうか」

「もう判ってんだろ、お前が求めてたヤツが目の前に居るって。

 あいつもお前以上にお前を求めてる。

 いい加減、腹括れ」

もがき続けてようやく出逢えた、心から繋がり合える唯一無二の存在。


「僕の人生に巻き込んでしまった」

「まだ言うのか、蹴るぞ?」

モニターを突き破りそうな勢いだ。


「お前、歳だな、超ヘタレ。

 あの頃のやさぐれ感はどこへ行ったんだ?」

「大人になったと言えよ」

「今更だな、さすがに遅過ぎだろう。

 ハルちゃんの前でもヘタレ全開か?」

「んな訳ないだろ!

 それでなくてもマウント取られ始めてる気がしてるのに隙を与えて堪るか。

 ていうか、とか呼ぶな!」


照れ臭くなり背後のフィギュアを整理する。

ヘッドセットなので不便はない。

「ハルの前では永遠にカッコつけるんです。

 まあ、無理ない程度にだけど」

「俺としてはその愚痴り癖に飽きたんで早々に放免して欲しいんだがな」

「互いに息抜きでいいじゃないのさ」

「俺はハニーとプリンセスに愛を囁くので忙しいんだよ、だからこれからはこいつに愚痴ってくれ」

「はぁ、?」


モニターに振り向くと……

うぎゃゃゃぁぁぁ!!

「な、何で居るの!!」

「昼飯食いに帰るって言ったじゃん~」

わ、忘れてた!!


◆ ◆ ◆


お前は長い間しがらみに囚われ

自分らしさを奪われて生きてきた。

もう迷う必要はない。

すべてを解き放て。

俺には出来なかったことを受け止めるあいつに求め、思う存分甘えて生きていけ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る