introduction/4
いつも以上に暴走してしまっている妻を前にして、夫たちは盛大にため息をついた。
「うちの奥さんはバイオレンスだ。惑星消滅を率先してするなんて……」
死なない世界だから、みんなかろうじて納得はするが、惑星消滅は本当に起こるのである。星一つ吹き飛ばしたら、陛下から懲罰を受けるだろう。
だが、そんなことはどうでもいいのである。夫たちのデータが欲しい妻は、盲目的にとにかく前へ物事を半強制的に進ませてゆく。
「その前に、結婚した順に、私の左から並んでください」
十人もいるのだ。バラバラに並ばれては、ずれている妻の頭では、データがごちゃ混ぜになりかねない。いい感じで進みそうだったが、だだこねをしていた夫がテーブルから上半身を起こして、
「何で?」
強行突破が阻止されそうだったが、妻も負けていなかった。いつの間にか手にはムチが握られており、慣れないながらも、ぴしゃんと床を叩きつけた。だが、やはり慣れずに、ムチの先が少しだけ頬をかすった。
「痛っ!」
しかし、ここで引くわけにはいかないのだ。夫たちの情報が手に入る機会を逃してなるものかと、どこぞの女王さまのように
「お黙りなさい! この家の女王さまの命令よ。痛い目にあいたいのかしら?」
「今日はいつもより、うちの妻が壊れている……」
強引すぎて、次々と意見がやってくることとなった。紅茶を優雅に飲んでいた夫から、ここが追求された。
「なぜ、お姫さまはいけなくて、女王さまはよいのでしょう?」
理論のない妻ならではの大失敗。頬をさすりながら、妻さっと目を伏せ、気まずそうに顔をそむけた。
「…………」
「お前、誰の真似しちゃってんの?」
フルーツジュースの前で、再び何重にもかけられたペンダントはチャラチャラと取り上げられ、ひとり間に挟んだ隣にいた漆黒の髪の夫は、爪を見る仕草をしながら、
「どうしてSMなの〜?」
そして、酒をあおっている夫たちが、扱い慣れていないムチをちらっと見た。
「――っつかうかよ、何で待ってやがんだ?」
「夜に使うつもりっすか?」
妻の思惑は失敗に終わりそうだった。だがしかし、十人も夫がいれば違うのである。ケーキをもらってきた張本人は、学校の先生のように、手をパンパンと鳴らして、他の配偶者たちを注目させたのだった。
「はいっ、みなさーん! 彼女の言うことが聞けない時には、僕のお仕置きが待っています〜。ピンヒールで顔を、血しぶきが天まで届くほどの勢いでズブッと踏みましょうか?」
妻と同じように、バイオレンス満載で、惑星爆発を進ませようとする夫がひとりいた。しかも、ニコニコの笑顔なのに、言っている内容は極悪非道この上ない。
「巧妙にドS担当がすり替わっている……。というか、なぜ、夫がハイヒールを履いている?」
このドS夫ときたら、嘘偽りなく本気でやってくるのだ。みんなは従うしか手立てがなくなったのである。ガタガタと椅子が後ろへ引かれ、夫たちはそれぞれのお茶を手に、結婚した順に椅子に座った。
全員着席したのを確認して、妻がしっかりと仕切り直す。
「それじゃあ、今さらながら、旦那さまたち、自己紹介をしてください!」
結婚しているのに、こんなところから情報を収集する妻。夫たちはあきれたため息をついたのだった。
「全員、名前はお互いに知っている……うちの奥さんの頭はどうなっている?」
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