ライター編
第16話 ライター その一
都会を離れてこんな田舎まで取材に来てみたのだけれど、あまり有意義な時間を過ごせたとは言い難かった。
この街の住人は連日テレビで報道されている事件の話で持ちきりなのだが、テレビ報道以上の情報は尾ひれのついた噂話でしか無いようだ。あまりにもばかばかしい話であったため、その噂話の裏を取るのも時間の無駄なんじゃないかと思えるくらいだった。
小中学校の同級生に聞いても犯人の事を覚えている人はあまりおらず、担任の教師に話を聞こうと思ってもその所在すら教えてもらえない。
そこまでして隠したい人物なのかと思っていたのだけれど、犯人の家の近所で聞き込みをしてみるとこちらの聞きたいこと以上の情報を教えてくれたりするので、近所の人達は事件について興味津々といった感じだった。
ただで情報を教えてくれる人もいれば、情報を教える代わりに俺の知っている情報を欲しがるものもいたのだけれど、その日のうちに他の人から俺の教えた情報を聞くなんてこともあったりした。
その事自体は良くあることなのだけれど、この街では情報が伝達する速さが他の街よりも早いような気もしていた。もっとも、他の街であれほど残虐な事件が起こったことがないので比較のしようも無いのだけれど。
何日か調べてみてわかったことなのだけれど、警察発表では動機は家族間における怨恨だとなっているのだけれど、俺が聞いた話ではあの土地に住む悪霊の仕業であるといったものや、マインドコントロールされて家族を惨殺したといったものもあった。
もちろん、俺はそんなことを信じてはいないのだけれど、他のライターに仕事を取られないためにもそういった面白い話は集めておいて損は無いのだ。
俺が売り込みをかけている雑誌の一つにそういったモノが大好きな雑誌があるのだが、SNSを見ている限りでは一定数はそういったものを求めている層もいるのは事実なのだ。
事件の事をちゃんと調べていては俺なんかその辺の記者に勝てるわけがないし、地元の新聞社の人間に情報の正確さと速さと量でかなうわけがないのだし、そういった勝負で挑むことの方が飯のタネにはなるのだ。
俺が書いた記事を編集者がどれくらい信じているのかなんて知らないけれど、面白ければ売れるし、誰かを不幸にしているわけではないんだから問題も無いだろう。
俺が二日前に情報を聞いたお礼に教えた悪霊に取りつかれた一家と言う噂もいい感じに尾ひれがついているようが。
遅めの昼食をとった後に聞いた話では、あの一家は呪いのナイフを偶然手に入れたせいであんな目にあってしまったということになっていた。
確かに、殺人に使われたのはナイフなのだが、ナイフが犯行に使われたとの報道は事件の凶悪性と模倣犯が出る恐れがあったので第一報から徹底してふされていた。
「俺の思っている以上にこの街の人達はあの事件に詳しいのかもしれないな」
俺はオカルト的な面と同時にちゃんと事件を調べてみようかと思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます