第13話 刑事 その八

 警部補と一緒にカラオケに来るのは初めての経験だったのだが、今回は歌うことがないと思うので特に何かを思うことは無かった。

 久しぶりのカラオケなので最新曲や最後に来た時以降の追加曲が気になるが、今日はそういった用事で来ているわけでないのだ。


「私のわがままにお付き合いいただいて申し訳ないです。木戸さんはまだお食事がお済ではないと思うのですが、よろしければ何か召し上がりませんか。もちろん、お食事代はこちらで持たせていただきますので」

「そんなに気を使っていただかなくても大丈夫ですよ」

「いえいえ、実はですね。この山吹なんですが、体育会系で体もがっしりしているのですが、まだまだ食べたりないと言ってまして、一人で食べるのも気まずいので木戸さんも何か召し上がっていただけると、こちらとしても助かるんですよ。なあ、山吹はまだ食べたりないんだよな?」

「はい、レストランの食事はとても美味しかったのですが、もう少し何か食べたいと思ってました」

「そんなわけで、こいつも一人で食べているってのは女性としても恥ずかしいっていうんで、すいませんが木戸さんはこいつのわがままも聞いてくれませんかね?」

「はあ、そうおっしゃるんでしたら何かいただくことにしますが、本当にお腹空いているんですか?」

「私はまだたくさん食べることが出来るんですが、さすがに同じお店でランチを二つ頼むのは恥ずかしいと思ってたんですよ。ここだったら誰も見てないですし、最近のカラオケって料理も美味しいからおススメですよ」


 私は体も鍛えているし、まだまだ若いので多少食べ過ぎたとしても大丈夫だけれど、警部補くらいの年齢になると体についた脂肪が気になるのだろう。

 私は焼きそばとお好み焼きとたこ焼きがついたセットにしたのだけれど、木戸さんは彩の綺麗なサラダを頼んでいた。

 警部補は私が注文している時に大きなため息をついていたのだけれど、何か嫌な事でもあったのかな。


「料理が来るまでに軽く自己紹介をしておきますか。木戸さんの事は多少伺っていますので、こちらからさせていただきますね。私は警部補の天野と申します。今回の事件の担当ではなかったのですが、被疑者の事を多角的に調べる必要が出てきましたので捜査に加わることになりました。と言いましても、他の事件とは違って被疑者も動機もはっきりしている事件なので事件の事を操作する必要はないんですよね。動機も怨恨だということが分かっているのでその点も調べることは無いのですが、ただ一点ですね、ハッキリさせないといけないことがあるんですよ。あ、ついつい余計なことを話してしまいましたが、こいつは私と一緒に捜査をしています山吹巡査です。見ての通り女性ですので、私には言いづらい事がありましたら山吹に言っていただいても構いませんので」

「そうなんですか。山吹さんに言ったとしても、天野さんにも伝わるんですよね?」

「ええ、そうなると思いますが、山吹も人間ですので全てを私にそのまま伝えるわけではないと思いますよ。その辺は山吹の判断に任せていますので」

「それならいいんですけど。百合の事を多角的に調べるってどういうことですか?」

「その話なんですが、料理も頼んでいますし、それが来てからにしましょうか」


 料理が私達の部屋に届くのにそれほど時間はかからなかった。

 私が頼んだお好み焼きも焼きそばも普通に一人前ずつだったのだけれど、セットなのだから量が少ないと思っていた私は少しだけ焦りを感じていた。

 無理をしなくても食べられる量だとは思うのだが、これだけの量を相手にしてしまうと、二人の会話に入っていけるか心配になってしまった。

 そんなことを察してなのかはわからないが、警部補が私を見ながら木戸さんに話しかけていた。


「山吹を見てもらえばわかっていただけると思いますが、私達は木戸さんに事件の事についてお尋ねしたいのではないんですよ。事件の事というよりも、花咲百合の人柄について教えていただきたいんですよね。人柄というよりも、性格って言った方がいいのかな。私達警察は知らない花咲百合の事を教えていただけるとありがたいです」

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