第11話 刑事 その六
「いえ、我々は木戸さんの事も疑っていませんよ。新聞報道等でご存じかもしれませんが、例の事件は完全に単独犯ですからね。共犯者がいたとしても、その理由が私達にはさっぱりわかっていないですし、共犯者がいたという可能性も出てきていませんからね」
「それで、私に聞きたいことって何でしょうか?」
「そうですね。あの事件があった翌日なんですが、木戸さんはご出勤されていたそうなんですが、何か変わった様子などはありませんでしたか?」
「変わった様子ですか?」
「はい、こちらのお店にはテレビが数台あるみたいですが、ニュースを気にしていたりとか、新聞をいつもより念入りに見ていたとか」
「ああ、それは無かったですね。私は朝のニュースで事件の事は知っていたのですが、木戸さんも事件のこと自体は知っていたみたいですよ」
「それは、木戸さんのご友人が事件の加害者だという事をですか?」
「えっと、あの事件って犯人の名前が出たのって最近ですよね?」
「そうですね。加害者の情報は色々とあって主婦としか報道されていませんでしたからね。確実に加害者だという証拠があるんですが、公表できない理由もあったりするんですよ」
「そうなんですね。それで、木戸さんは『あのあたりに友人が住んでるから心配だ』ってことを他のパートさんに言っているのを聞きました。たぶんなんですけど、犯人の人が木戸さんのご友人だったって知らなかったんじゃないですかね」
「そうみたいですね。私の同僚が木戸さんに尋ねた時もそのような事をおっしゃってたようですし、私の同僚が加害者の氏名を言わなければ木戸さんも後から知ることになったのかもしれませんですからね」
「それで、何を知りたいんですか?」
「この話は誰にも話さないでいただきたいのですが、もちろん木戸さんにも内緒にしていただけるとありがたいんですが。店長さんも事件の概要はご存じだと思いますが、どうでしょう?」
「ええ、報道されている範囲でしか知りませんが、本当におぞましい事件だと思います」
「その加害者の女性なんですが、店長さんはどんな量刑がくだされると思いますか?」
「私は法律の事はあまり詳しくないんですが、心情的には死刑になっても当然だなって思いますね」
「報道されているだけでもショッキングな事件だと思うのですよね。でもね、決して公表出来ない事実があるんですよ」
「そんなことってあるんですか?」
「はい、いずれマスコミにも発表すると思うのですが、殺された被害女性のお腹の中に新しい生命が宿っていたんです」
警部補の言葉を聞いて店長さんは信じられないといった表情になっていた。それと同時に眉間にしわを寄せて怒りをあらわにしていた。
「ちょっと待ってください。そんな事って普通じゃないですよ。なんでそんな残酷なことを平気で出来るんですか」
「そうですよね。普通はそんなこと出来ないんですよ。そんなことを出来るなんてはっきり言って異常なんです。そんな異常者は大人しく塀の中で一生を終えるべきですよね」
「いやいや、そんなんじゃダメです。僕は死刑を肯定も否定もしませんが、その話を聞いてこの国に死刑があってよかったなって初めて思いましたよ」
「店長さんは事件の加害者は死刑。よくて無期懲役が妥当だとお思いですか?」
「はい、報道では四人を殺したことになっていたので知りませんでしたが、赤ちゃんも入れたら五人殺していることになるじゃないですか。そんな人は死刑でも文句が言えないと思いますよ」
「そうですよね。私もそう思うんですが、被疑者の弁護士なんですがね、なんと無罪を主張しているんです」
「そんな事っておかしいじゃないですか。罪を認めて償うのが責任じゃないんですか?」
「普通はそう思いますよね。ところが、被疑者は罪は認めつつも無罪を主張しているんです。そんなの普通じゃないですよね?」
「そんなの間違っています。もしかして、精神病とかそういうのですか?」
「はい、そんな感じの事を主張するみたいですね。今もその事を理由に釈放しろと言われてますからね」
「そんなのっておかしいじゃないですか。認められるわけないですよね?」
「もちろん。今もちゃんと勾留して取り調べは続いていますよ。被害者家族以外に加害者が恨みを抱いている人がいるかもしれないですからね」
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