第6話

目を覚ますと、真っ白な天井越しにアオイの泣き顔が見えた。


「トウタ、良かった。おばさん、トウタが起きたよ!」

「え、本当に?」


久しぶりに見た母親は、少し疲れているように見えた。


「あれ、母さん、老けた?」

「開口一番がそれ? あんた、本当に殴るわよ。もう、今看護師さん呼んだから、直ぐに帰るわよ」

「え、ここどこ?」

「学校の近くの病院よ。あんた救急車で運ばれたのよ。警察まで呼ばれてひき逃げだなんだで大騒ぎだったのに、あんたが目を覚まさないからよっぽど打ち所が悪かったんだって精密検査もしてもらったけど大きな外傷はないし、そもそも車とは接触した様子もないって。医師からはただ眠っているだけですね、なんて言われてもうスッゴク恥ずかしかったんだからね。夜に何してるんだか知らないけど、ちゃんと寝なさいよ」

「あ、はい」


倒れた原因が寝不足だと思われている。

まぁ、誰も女の子の匂いで興奮しすぎて意識がぶっ飛んだなんて思わないだろう。精密検査でも現れなかったことにほっとしていると、呼ばれた看護師がベッドを区切っているカーテンの隙間から顔を出した。


「大津さん、起きられましたか。念のため、もう一回先生の診察入りますので、もう少しそのままでお待ちくださいね」

「え、そうなんですね」

「念のためですからご安心ください」


そのうち白衣を着た小柄な医者が顔を出した。顔色を確かめて目を見て、気分が悪くないなどの何個かの質問をして、うん大丈夫だと頷く。そうして早々に去っていった。医者というのは随分と忙しそうだ。


「じゃあこれをお会計に出してくださいね」


看護師はファイルを母に手渡して、隣のカーテンへと移った。母が会計を済ませて、三人で連れだって病院を出た。


病院を出るなり、母は会社へ戻っていった。やり残した急ぎの仕事があるらしい。仕方なく、トウタはアオイとタクシーを使って自宅へと戻る。


「今日は迷惑かけたな」


タクシーを降りて、アオイの自宅前で謝れば、彼女は小さく首を横に振った。


「トウタが助けてくれなかったら、私がひかれてたよ」

「あの車、本当に危なかったもんな」

「トウタをひいたのかと思って動揺して違う場所で事故を起こして捕まったんだって。警察の人が話してた」

「そっか」

「ねぇ、もう近づくなって言わない?」

「え、あ、やばっ」


目まぐるしくて、すっかり忘れていたが、意識し出すといつもよりもずっと強い匂いにまた下半身が疼いた。長い間、近くにいたからだろう。こんなに長く一緒にいたのは小学生以来だ。

息子が元気になって、どうしようもなくなる。


「俺、もう帰るから!」

「あのさ、トウタ」

「なんだよ、急いでるから、また今度で―――んっ」


アオイに腕を掴まれたと思ったら、彼女が背伸びしてきた。

唇が柔らかくて温かいもので塞がれる。


「今日のお礼。私、トウタになら何されても平気だよ?」

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