第5話

「ねぇ、待ってよ、トウタ。一緒に帰ろう?」


校門を出てすぐに、アオイに追い付かれた。

香りで分かっていたが、腕を絡められると興奮する。そもそも制服のシャツは薄い。夏服の改良を真剣に求めたい。いやむしろ、成長期を終えた彼女のけしからん膨らみに問題があるのかもしれないが。それが腕に当たるのだから、拷問だ。


「いやだ。ミワはどうしたんだよ、いつも一緒に帰ってるだろ」

「だってたまにはハヤト君と帰りたいだろうし」


部活をやっているハヤトは帰宅部のミワと帰る時間帯が異なる。いつもは学校の最寄り駅までミワと一緒に帰って、そのままアオイは電車に乗り、ミワは駅ビルで時間を潰してハヤトの部活が終わるのを待っている。

だが、今日からテスト期間のため部活は休みになるため、ミワはハヤトと一緒に帰るのでアオイはあぶれるのだ。二人がアオイを邪険にするはずはないが、気を遣ったのだろう。

だったら、自分にも気を遣えと言いたい。


「俺は一人で帰りたいんだ。お前も勝手にすればいいだろう?」


こんな学校近くで性犯罪なんて犯したくもない。

いや場所がどこだろうと、御免だが。

心持ち前屈みになりながら、叫ぶ。


「でも、一緒の方向だし。今日くらい良くない?」

「良くない」


香りが強くて頭がくらくらする。

何だろう、舐めたら落ち着くかな。いや、もう突っ込んだら落ち着くんじゃないかな。


いやいや、今、思考が危なかった。何をどこに突っ込むつもりだ。やめてくれ。

危険だ。これ以上意識を保つのも難しい。


「とにかく、俺に近づくな!」


アオイの腕を振り払った。

よろめいた彼女を見て、罪悪感が増す。

だが、ここで心を鬼にしなければ、犯罪者確定だ。


だがその時、後ろから猛スピードで突っ込んでくる青いスポーツカーが見えた。学校は住宅街の中にある。狭い道路が指定の通学路だ。

それなのに制限速度を無視して馬鹿みたいなスピードを出している。


その車がよろけたアオイ目掛けて走ってくるのだ。


「アオイっ!」


トウタはアオイを慌てて抱き締めた。柔らかな体が自分の腕の中にある。今までで一番強く甘やかな香りが脳天を揺さぶった。快楽が沸点を超えた。

そして、唐突に意識を失ったのだった。

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