第3話
「おはよ、トウタ。今日もお疲れだねぇ」
教室でトウタの前の席のハヤトが苦笑まじりに話かけてくる。可愛い系の男子で、物腰も柔らか。女子からの人気も高い憎き級友だ。
「おはよ、ハヤト。ねぇ、昨日の宿題写させて!」
答える前に隣の席のミワがハヤトに話しかけてきた。こちらはつり目の美人系。ハヤトと並ぶと彼が襲われているようにしか見えない。実際は真逆だが。
「自分の分は自分でやらなきゃね」
「昨日はハヤトが宿題させてくれなかったんでしょ?」
「そうだっけ、よく覚えてないなぁ」
「じゃあ今すぐ、思い出させてあげる!」
「やめろ、バカップル。俺の前でイチャイチャすんな……」
「相変わらずトウタは機嫌悪いね。八つ当たりはカッコ悪いよ?」
「んもう、アオイに言いつけちゃうから!」
ミワはアオイの親友だ。高校に入ってすぐに友達になったらしい。今は隣のクラスなので本人はいないが、トウタの事情を知っているので体がびくりと震える。
「はい、すみません。反省します。心底羨ましいので、俺の前でいちゃつかないでください」
「うん、素直でよろしい」
「そんなに羨ましいなら、さっさとアオイにコクっちゃえばいいのに」
「昔、ムリだって言われたからな。それなのに近づいたら嫌がるあいつに何をするか……俺は監禁とか凌辱はしないんだっ」
「わぁ、朝から重たいな」
「確かに高校生が監禁は不味いわね。大人になるまで頑張ってね」
「大人だって十分に犯罪だ!」
アオイの母親に顔向けできない行為はしたくない。そもそも彼女を泣かせるなんてもっての他だ。なのに、体はあっさりと心を裏切る。
悶々としたものを抱えていると、甘い香りが近づいて来るのを感じた。
思わず顔を机に押し付けて、伏せる。ゴンと鈍い音がするが構うものか。むしろ痛みで興奮を抑えたい。
「ん、急にどうし……」
「おはよ、ミワちゃん。国語の教科書貸してくれない?」
「おはよ、アオイ! ここは不味いわ、国語の教科書なら廊下のロッカーの中だから、一緒に来てくれる?」
「え、まずいの? ごめんね、急に来ちゃって… 鞄に入れたはずなのに全然なくてね、代わりに倫理の教科書になってたんだよ」
アオイの戸惑ったような声が聞こえて、思わず純粋にお前が国語と倫理の教科書を間違えただけだと心の中で叫ぶ。
そんなうっかりさんなところも堪らなく可愛いのに、ちくしょう。会話さえままならない現状にイライラする。
「般若心経か円周率どっちがいい?」
スマホを操作しながら、ハヤトが真剣に尋ねてきた。
どちらでもいいよ、煩悩退散!
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