第77話 捜索×お詫びの紙袋
「美穂っ!」
飛び跳ねるように財布とスマホだけを握った僕は、美穂の後を追って外に出た。飛び出していった妹の姿を探すけど、アパートにすぐ近くにはいないようだ。
……そりゃ、お年玉が貯まっている貯金箱を抱えて出たんだから、そんな近場にいるわけないか……。
っていうか、あの貯金箱、結構お金貯まっていたよな……。ということは、どこか遠くに行こうと思えば行けてしまうわけで……。
「……いやいやいや、それはさすがに……」
ないよな? そうなったら本当に警察沙汰だぞ……。
とりあえず、僕は家から駅へと歩きながら、美穂が頼りそうなところに片っ端から連絡をしていく。池田さんに上川先生、それに小学校の同級生などなど。美穂の学校の友達に関しては、連絡網程度のことしか知らないけども。よく美穂の口から名前を聞く子の家に電話をかけたりしたけど、外れ。池田さんや上川先生のところも同様だった。
「……まあ、小学校の友達の家なんて、家から徒歩圏内だし、そこに頼るつもりなら、わざわざ貯金箱なんて抱えて行かないか……」
となると、ますます遠出の可能性が浮上してくるわけで……。
「やばいな……それは……」
早く駅に向かって美穂を探そう。
走って到着した武蔵境駅。広い駅ビルのなかを僕は動き回って、美穂のことを探したけど、なかなか妹の姿は視界には捉えられない。いつか、井野さんと一緒に行ったショッピングモールのなかも同じだった。
ってなると……。
「改札入って、どこか行ったな……」
意を決して、僕は恐る恐るといったふうにしてICカードをタッチする。
……残高、足りればいいけど。
「さて……どっちに行ったんだ」
早くもまずひとつ目の関門にぶち当たってしまった。西に行ったのか東に行ったのか。
それがわからないとどうしようもない。人通りの多い東京のことだ、いちいち駅を利用した子供のことなんて覚えていないだろう。
「うーん……」
コンコースで僕が悩んでいると、不意に、
「……は、はれ? や、八色くん……?」
近くから、僕の名前を呼ぶ声がした。その方向に目線を向けると、
「……ひぅっ。……こ、こんにちは……」
「……こ、こんにちは」
何やら右手に紙袋を持った井野さんが立っていた。
「え、えっと……どうかした?」
僕の顔を見るなり途端に顔をあつあつの鉄板に押しつけたみたいに赤くさせた彼女は、あわあわとその場で慌ただしい動きを見せてから、
「え、えっと……お父さんが、『どうせ寝不足の車内で思い切り吐いて来たんだろう? お詫びのお菓子用意しておいたから、渡しておいで』って言われて……」
と、申し訳なさそうに口にする。
「……ああ、なるほど……」
お父さん、お宅の娘さん、吐くだけじゃ物足りなかったみたいですが……とは、井野さんの名誉のためにも言わないでおいてあげよう。多分、あの家庭の雰囲気を見ると、それすらもネタにしそうだから。
「……あ。そういえば、電車を降りるとき、すごく暗い顔した美穂ちゃんと入れ違いになったんだけど、八色くんこそ、何かあったの?」
そして、井野さんは続けてそんなことを言ってくれた。
「まじ……? 美穂とすれ違った? ほんとに?」
急に降って湧いて来た目撃情報に、僕は少し元気が出てくる。高円寺から武蔵境にやって来た井野さんと入れ違いに美穂が電車に乗った、ということは、
「……向かった方向は、西か」
上川先生の家がある八王子や高尾、……さらにその先には、僕たちの実家がある、山梨がある方向だ。
「えっと……本当に何かあったの? 美穂ちゃん、もしかして家出中、だったりした?」
「……そ、その……」
僕の雰囲気になんとなく置かれた状況がよくないことを彼女は察したのだろう。さっきまでのあわあわした態度から一変、穏やかな顔と口調で僕に尋ねる。
……これは、井野さんにも言っておいたほうがいい、んだろうな。どうあがいたって、井野さんと美穂のふたりは恐らく衝突してしまう。主に美穂のブラコンで。それなら、
「……美穂に、井野さんとのこと、話そうとしたら、話しかた、ミスって……。それで、美穂、怒って……」
話してしまったほうが、いいのだろう。
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