第19話 名探偵×脅迫(?)
それから一時間も経たずに、家のインターホンが鳴らされた。相手が誰か確認もせずに僕は玄関に向かい、扉を開けると、
「ひゃうっ! こ、こんにちは……」
急にドアが開いたことに驚いたのか、ややオーバーとも言えるリアクションを取った井野さんが。右手には、ドラックストアで買ったと思われるものが、色つきのレジ袋に入れられている。
「……ほんとすみません……休みの日だと言うのに呼び立てて……」
「い、いえ……、中学生のときは、こういうこともたまにあったので……全然」
……ん? 今サラッと聞き捨てならないようなことを言っていたような? え? たまにパシられていたの?
「と、ところで……妹さんは……?」
「あ、ああ、今トイレに」
「……で、では、お邪魔しますね……」
「う、うん……」
色々と脳内にはてなマークが浮かんでいるけど、ここは一旦気にしないことにしておこう。……なんとなく、触れちゃいけない気がする。
やきもきしつつ部屋でウロウロとしているうちに、まず井野さんがトイレから姿を現した。
「とりあえず、大丈夫です……。ひと通り使いかたとか教えたので……」
「真面目にありがとうございます。助かりました……。あ、どうぞ、このクッションの上座ってもらって」
僕はベッドの上に飾っておいてある、楕円形のシンプルなクッションを井野さんに手渡す。彼女はそれを受け取っては「ありがとうございます」と口にして、ちょこんと床に女の子座りした。
「……お茶と、お菓子もどうぞ……ありものですが……」
テーブルに置いておいた、ペットボトルのお茶をコップに注ぎ、お皿に出しておいた小分けに包装されているクッキーを井野さんに差し出す。
「い、いいんですか……? こんなに歓迎されて……」
だからほんとどんな扱いを受けてきたの井野さん……? 逆に不安になるんだけども……。
「……呼び出したのはこっちなのでこれくらい当然というか……なんというか……」
「……は、はあ。……え、えっと、初めのうちは、まだ時期が安定しなかったりするので注意しておいてあげてください。必要なものは、今日買ってきたものなので」
「あ、そういえば、お金、いくらかかった? 返さないと」
「えっ、あっ……え、えっと……千円あれば足ります……」
それを聞いて、僕は財布から千円札を二枚取り出す。
「……じゃ、じゃあ、二千円で……」
「え、い、一枚多いですよ……?」
「……手数料兼、交通費と思っていただければ……」
「でっ、でもっ、そ、そんな多くなんてもらえないですっ……」
お金を渡そうとする僕、固辞する井野さん。
「お兄ちゃん、さっきの女の人って、だれ……な、の……?」
千円札の押しつけ合いをしている途中に、美穂がトイレから出てきた。……いや、別に見られること自体に問題はないんだけど、
「……お兄ちゃん? 何しているの? もしかして、この人に脅されてお金渡そうとしているの?」
「そんなわけないから安心していいよ」
美穂が、飛躍的な考えを持ってしまう可能性は否めないわけで。
「……それに、なんかこの人の匂い、知っている気がする……」
「ひっ、ひぅっ!」
「うーん、なんだろう……どこでだっけなあ……」
ギク。
美穂が井野さんのもとに近寄って、くんくんと鼻を利かせ始めたのを見て、僕は肝が冷える。……犬かよ、この妹の嗅覚は。
「こ、こら、そんなことしたら失礼だよ」
と、一応窘めてはみるけど……。
「ああーっ! この人、お兄ちゃんの帰りを遅くさせている人だ!」
名探偵美穂、すぐに井野さんの正体を見破ってしまった。急に警戒モードに入った美穂は、僕と井野さんの間に割り込む位置に立って、それこそ自分の家を守る番犬の如く「むむむ」と唸り声をあげる。
「へっ、へ?」
当然、井野さんは何のことかわからないので困惑するだけ。
……ああ、まあ予想はしていたけど、今日は長い一日になりそうだ。
せっかくの休日が……。いや、それはむしろ井野さんのほうか。
……ほんと、ごめんなさい……。この埋め合わせはいつかするから……。
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