第23話 エリーへの手紙
「う~ん、うまくまとまらないなあ。」
ある日の夕方、ボクは机に向かいながら頭を悩ませていた。
「エリーにユリアのことをどう書いて伝えたらいいんだろう。」
悩んでいたのはエリーへの手紙のことだ。
ボクは先日共鳴したユリアのことをどう伝えたらいいのか迷っていた。
「こういう時は悩んでても仕方ないな。経験者に聞くのが一番だ。」
そしてボクが向かったのはエルヴァ兄様のところだ。
エルヴァ兄様には奥さんが2人いる。
正妻はアルタ公爵家のお嬢さまで、竜人族のナボア=レ=アルタさん。
そして側室は元メイドだったマリエラさんだ。
2人とも美人さんで、とてもやさしい人だ。
まあとりあえず、エルヴァ兄様と、今のボクの状況は似ている!
アドバイスをもらうのにうってつけの存在だ、これは聞きに行くしかない!
ボクは夕食の後、エルヴァ兄様を捕まえて話を聞くことにした。
「ほお、なるほど。側室ができるのを正妻にどう伝えるか...ってことか?」
ボクは湯船に浸かりながらエルヴァ兄様へ事情を話した。
夕食の後、相談があるなら風呂に浸かりながら聞こうとエルヴァ兄様に提案されたのだ。
「ユリアの意思に任せますからまだ側室になるかはわかりませんけどね。まあそういうことです。」
「(いやいや共鳴までして側室にならない方がおかしいぞ!?)まあそうだなあ、自分の時は正直に話したぞ。君ともう一人愛している人がいるから、その人を側室にさせてくれって。そうしたらニコニコしながら”やっと言いましたね。いつ言うかずっとマリエラさんと話していたんですよ。もちろん側室にしてあげてください。彼女、ずっと待っていましたよ。”って言われたんだ。情けない話だよ全く。」
うわあ、全部バレてるじゃないか。
「兄様...バレバレですね...。」
「ああ、ボアには頭が上がらんな。おほん、まあ私の話はいいとしてだな。ケントはその2人目の子のことをどう思っているんだ?」
「まだよくわかりません。ユリアとは話をする時間があまり取れていないので...。でもユリアのことは好ましく思っている気持ちもあります。」
「ならその気持ちをそのまま正直に伝えたらいい。嘘をついたらズレてしまって離れていくけど、正直であればぶつかり合って形が変わってぴったり合うようになるのさ。そしてお互いがより良い関係になっていく。だから大丈夫だよ。」
エルヴァ兄様の意見はストンとボクの中に落ちた。
「聞いてくれてありがとうございました!なんだかすっきりしたような気持ちになりました!」
「そうかい、それはよかった。」
そして、エルヴァ兄様は先にお風呂から上がっていった。
(エリーはユリアのことを聞いてどう思うんだろう...。)
湯船の中でまたしばらく考えていると、すっかりのぼせてしまった。
ボクは部屋に戻り、もう一度机に向かった。
(とにかく嘘はつかない。正直な自分の気持ちを伝えよう。)
『エリー、お元気ですか?帝都は真夏を迎え、暑い日が続いています。
まず、エリーにどうしても伝えなければならないことを書きます。
先日、2人目の”運命の人”と出会いました。彼女と会った経緯については君が帝都に来た時に詳しく話そうと思います。
その子の名前は”ユリア”。10歳の女の子です。ボクは、ユリアの気持ち次第ですが、彼女のことを側室にしたいと思っています。ですが、ボクは彼女への気持ちがまだよくわかっていません。ただ、好ましく思っているのも事実です。
君への気持ちは全く薄れていませんが、最近は君のことを想うのと同時に、心の片隅ではユリアのことを考えています。
君の意見も聞きたいです。また会えるのを心待ちにしています。
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早く会いたい。 ケントより』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私はケント君からの手紙を読んで、とても驚きました。
そこには、ケント君が2人目の”運命の人”と出会ったことが書かれていたからです。
私は、驚きと共に、その方...ユリアさんのことがうらやましくなりました。
だってユリアさんは今もケント君と一緒のところにいるんですから。
私は2か月だけとはいえ、ケント君に会えないのに...。
そう思うと少し悲しくなって、ちくっと心が痛みました。
私も早く帝都に行きたい。
早くケント君に会いたい。
早くユリアさんと話してみたい。
ユリアさんはどんな方なんでしょうか。
私と同じ、ケント君の運命の人ですからきっと仲良くなれるはずです。
まだ夏は終わりません。
でも夏が終われば...。
今はとりあえずケント君へのお返事を書きましょう。
『ケント殿下、お元気ですか?この間、涼むために水遊びをしていたら、頭からつま先までびしょぬれになってしまいました。
殿下のお手紙を見てとても驚きました。私のほかにも”運命の人”がおられたのですね。私も早くその方とお会いして、話してみたいです。
ユリアさんとは年齢も近いので、よい関係を築きたいです。
今、ユリアさんと殿下が一緒にいると思うと、離れた領地にいる私は少しうらやましくなってしまいました。ですが、帝都に行けばケント君が心を満たしてくれると信じています。
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私もシルフィちゃんのように飛べたらよかったのに...。私も早く会いたいです。
”あなただけの花”エリーより。』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
濡れたエリー...見たいな...。
って変な妄想はするな!
いや、してもいいのか...?
「はあ、早く会いたいなぁ。あと一か月は長いよ。」
ボクは読み終わった手紙を今までの手紙と一緒に箱の中にしまった。
「殿下、今のお手紙は...」
後ろにいたユリアが聞いてくる。
「ボクの婚約者だよ。夏が終わったら帝都に来るんだ。」
「最初に共鳴なさった方ですよね。リリーさんに聞いたのですがとても仲睦まじい様子だと」
「そうだね~、ボクはエリーのこと大好きだから。エリー、ユリアに会いたいって。きっと仲良くなれると思うよ」
そう答えた後、ユリアの顔が少し曇ったのがなぜかは、今のボクが理解することはできなかった。
「少し緊張しますね!殿下の将来の奥さまですから!失礼がないようにしないと...!」
ユリアの気持ちを全く分かっていなかったボクは、顔が曇ったのも緊張のせいだと決めつけてしまった。
「エリーは優しい子だから大丈夫だよ。きっとうまくいくさ。」
「はい!」
ユリアは笑って頷いてくれた。
そしてボクとユリアは今日の剣術訓練へと向かうのだった。
そのころ、城のある部屋——―—
その部屋にはエファ、イルシア、アイリの皇族三姉妹が集まり、眼下の訓練場を眺めていた...。
「あの子が2人目の子だね~。」
「あの褐色の肌...魔人族だね!」
「あの子の母親に聞いたのだけれど、父親は鬼人族だそうよ。」
エファとイルシアは額を寄せ合い、ニヤリと笑いながら話し始める。
「怪力で近接戦闘もこなせる...と。」
「さらに魔眼魔法で...ふふっ!」
「あ~あ、また姉様達が変なこと考え出したよ~。」
アイリはあきれたように首を振った。
「父様にお願いしたのは正解ね。あの子、きっと強くなれるわよ~!」
「それでこそ、私たちも鍛えがいがあるよね!」
「え...まさか、姉様達....!」
何かを察したアイリが顔をひきつらせた。
「うふふふ♡ユリアちゃん、私を超えてもらおうかしら...♡」
「1年弱しか教えられないのが残念だよ!」
「あわわわ....ユリアちゃん、大変だぁ...」
長女と次女...帝国最強の姉妹とも言える2人が、訓練場で剣をふるうユリアへ熱い視線を送っていた...。
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