第22話 新人メイド、ユリア
前半はユリア視点
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私とお母さんがお城にやってきてから1週間。
今日から本格的にお仕事が始まります。
朝、1の鐘が鳴ると、お母さんと一緒に渡された服に着替えます。
お母さんに着方を教えてもらってやっと着替えることができました。
「わあ、すごい...!この服とっても着心地がいいね。」
「そうねぇ。まさかメイド服を着ることになるなんて。人生って不思議ね。」
すっかり元気になったお母さんと食堂で朝ご飯を食べた後、他のメイドさんや使用人の方たちに挨拶することになりました。
「今日から働くことになりました、ソニアです。娘共々よろしくお願いします。」
「ユリアです!お母さんと一緒に頑張ります!よろしくお願いします!」
緊張しながらお辞儀をすると、ぱちぱちと拍手が起こりました。
「メイド長のローゼリアです。2人ともよろしくお願いしますね。では仕事を割り振りましょうか。ソニアさんはまだ病み上がりで体力も無いとのことなので、比較的お仕事の少ないエファ殿下のお世話係についてください。ユリアさんはケント殿下のお世話係です。皆さん、2人には”掟”も含め、メイドの極意を教えてあげてください。では今日も一日頑張りましょう。」
”ハイ!!”
「あっ、は、はい!」
「それではメイドの掟其の一!!」
”誠意と敬意を忘れるな!!”
「えっ、えっ?」
な、なに?掟?し、知らないです...!
「其の二!!」
”いつでも笑顔、いつでも敬語!!”
「いっ、いつでもえがお!いつでも敬語!」
「よろしい。ではそれぞれの仕事へ。」
”ハイ!!”
す、すごい!この人たちみんなすごい人だ!
私はつい、ごくりとつばを飲み込みました。
「ユリア、頑張ってね。私も行ってくるわ。」
「あ、うん!いってらっしゃい!私もいってきます!」
お母さんと別れ、ケント殿下のお世話係の人についていきます。
「ユリアちゃん、よろしくね~。私はケント殿下のお世話係リーダーのリリーだよ!見ての通り獣人族!」
明るい笑顔を浮かべたリリーさんはふさふさの尻尾と耳を動かしました。
「私はサブリーダーのアマネです。竜人族と人族の子供です。腕の付け根や目のあたりに鱗があるんですよ。」
アマネさんはリリーさんとは違って物静かなタイプみたいです。
あ、そうだ自分も自己紹介しないと。
「私はユリアです!よろしくお願いします!鬼人族と魔人族の子供です!」
「へえ~、珍しいね!多民族国家の帝国でもなかなか見かけないカップルだね!」
「そうなんですか?」
「ええ、帝国には魔人族の人はよく見かけるけど、鬼人族の人はあまりいないから。」
アマネさんはいろんな知識を持っているんだとリリーさんに教えてもらいました。
その後ケント殿下の部屋に向かう途中、メイドの掟について聞きました。
メイドの掟には17個の項目があり、毎朝特に大事な最初の2つを暗唱しているそうです。今の城が完成した当初からメイド達の間で受け継がれてきたらしいです。
2つの他にもいろいろな掟を教えてもらいました。
そんな話をしているうちにケント殿下のお部屋の前に着きます。
リリーさんがノックするが返事はありません。
「まだお眠りみたいね。」
リリーさんはドアを開けて中に入ります。
私とアマネさんも続いて部屋へと入りました。
部屋には、壁一面に取り付けられた本棚にたくさんの本が並べられていました。
「ユリアちゃんは殿下を起こしてきてくれる?私たちはお着替えの準備とかするから。」
「わ、わかりました!」
いきなりケント殿下の所に行くの?き、緊張する...!
私はそっとドアを開けてベッドルームに入りました。
薄暗い室内には大きなベッドがあります。
私はベッドへと近づき、ぐっすり寝ているケント様に声をかけました。
「ケント殿下...?朝ですよ~、起きてくださ~い」
するとケント殿下が寝返りを打ってこっちを向きました。
(なんだろ...ケント様の寝顔見てたらドキドキする...!)
”ピュイ~!!”
私がもう一度声を掛けようとすると、いきなり鳴き声が響き、朝日の光を浴びて輝く何かがケント様に突っ込んできました。
「ひゃあああああ!!??」
私はびっくりしてへたり込みました。
「うわっ!シルフィ!?また飛び込んできたの?びっくりするからやめてよ~。」
ケント殿下がむくりと起き上がりました。
「あれ、ユリアじゃないか、おはよう。今日からお仕事?」
私は自分がへたり込んでしまっていることにハッとして、慌てて立ち上がりました。
「おっ、おはようございます!殿下のお世話係になりました!よろしくお願いします!」
「そうなんだ、こちらこそよろしくね。そうだ、前にも見たと思うけどボクの精霊獣のシルフィだよ。よくこうやって突っ込んでくるんだ。だから気にしないでね」
「は、はい!がんばります!」
ケント様とシルフィちゃんは”何を?”という風に同時に首をかしげました。
「ふふっ、朝食はどうされますか?」
「部屋に持ってきてくれる?」
「はい!ではすぐに準備しますね!」
私は少し小走りでベッドルームを出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ユリアは何で笑ってたんだろうね?」
今日も変わらず突っ込んできたシルフィを撫でる。
シルフィも”さあ?”と首を振った。
ユリアがベッドルームを出た後、入れ替わりで着替えを持ったリリーが入ってきた。
「殿下、おはようございます!お着替えを持ってまいりました。」
「おはよ。ユリアはどう?馴染めてる?」
寝間着から着替えながらユリアのことを聞いてみる。
「とってもいい子ですね。まだ力仕事は任せられないですけど。」
「そっか。リリーも知ってると思うけどあの子はボクの2番目の”運命の人”なんだ。特別扱いしろとは言わないけど、気にかけてあげてね。」
「ふふ、殿下ったらもうお2人もお嫁さんできちゃったんだって話題になってますよ。私たち庶民の間ではたらしって言われちゃいますよ~」
「ボクはたらしじゃない!!エリーにもユリアにも真剣に向き合うよ!」
「あらぁ~、素敵ですね~。はい、お着替え終わりました!」
「ありがとう。」
ボクは朝食のためにベッドルームから出て椅子に座った。
昨日読みかけだった本を開き、しばらく待っていると朝食が運ばれてきた。
ユリアとアマネがワゴンを押して部屋に入ってくる。
朝食を食べ終わると、ボクは剣の訓練に向かった。
しかし、なぜかメイドの仕事をするはずのユリアが一緒についてくる。
「あれ?ユリアは何でついてくるの?」
「えっとリリーさんに言われたので...」
うーん、特別扱いはしなくてもいいって言ったのになあ。
「リリーはなんて言ってたの?」
「それが皇帝陛下からの伝言だったみたいで...”ケントと共に訓練せよ”と...」
「えっ!?父様が?」
「はい、陛下のお考えは、私をケント殿下のおそばに仕える専属のメイド兼護衛として育てるということらしいです。」
えぇ?父様は何を考えてるんだ?危ないんじゃ...。
いや、よく考えるとアリ...なのか?
エファ姉様は別格にしても、女性でも強い人は多い。
現に今のSランク冒険者のうち、エファ姉様以外にもう1人女性がいたはずだ。
それに、ほぼ確実にユリアがボクを裏切ることはないだろう。
ならばユリアを鍛えてボクの一番近くで守らせる...と、こういう考えなのか?
さらに言えばユリアは魔人族と鬼人族の子だから、うまくいけば魔人族の魔眼魔法と鬼人族の怪力を使いこなせるようになるだろう。
確かにこんなにぴったりな護衛は他にいないのかもしれない。
うーん、ユリアが嫌がらないのならいいのか?一緒にいられる時間も増えるし。
「あの、ケント殿下?訓練場、通り過ぎましたけど...。」
えっ!?恥ずかしい...!ずっと考えていたら行き過ぎてしまった。
「ごめん、考え事してた。聞きたいんだけど訓練するのは嫌じゃない?正直な気持ちを教えてよ。」
「嫌じゃないです!私、殿下を守れるくらい強くなりたいです!」
本人がやる気なら...まあいいか。
ボクたちは訓練場で待つガレインの所へ走っていった。
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