第20話 運命の交差
魔石について、設定資料集”魔獣について”の項目を更新しました。
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1か月後、真夏の帝都北部の森でボクたちは魔獣狩りに
メンバーはボクとシルフィ、護衛の騎士一人。
周辺を探知し、黒兎やゴブリンなどの魔獣を中心に倒していく。
黒兎はその場で解体し、ゴブリンは燃やして、残った魔石だけ拾っておく。
最近...ここ1週間ほどはボクとシルフィだけで狩りをすることが多い。
というのも、エルヴァ兄様は忙しいし、エファ姉様はやたら強い魔獣の所に行きたがるし、イルシア姉様は婚約者と外せない用事があるらしく帝都にはいない。アイリ姉様とマルク兄様は学院最後の年ということで何かと忙しいそうだ。
というわけで父様に許可をもらい、森の入り口付近または草原のみ狩りをするようになったのだ。
「前と比べるととても上達なされましたね。」
ボクが黒兎を解体しているのを横から見つめているのは護衛騎士のレウスだ。
彼は近衛騎士団の若手で、今は24歳。
ここ最近はずっとレウスがボクの護衛を務めている。
「そう?まあ今日だけで15匹解体したからね。うまくもなるよ。」
「ええ、毛皮の処理が速く正確になっています。マルク殿下にはまだまだ及ばないと思いますが。」
「はは、マルク兄様はもう達人だからね。ボクはマルク兄様ほど解体オタクじゃないつもりだけど...解体って楽しいよね。」
この思考になるのは既に染まってきているのか...?
「魔獣の急所を知ることもできますからね。解体は魔獣と戦う上では重要なことだと思いますよ。」
ほ~なるほど。そういう意味もあるのか。
そして解体を終え、ポーチに収納して帰ろうとした時だった。
「.......キャァァァァ....!!........」
遠く...森の奥から悲鳴が聞こえた。
「今のは!?」
「殿下、ここでお待ちください!私が確認してまいります!」
「いや、ボクも行く!」
「森の奥に行くのは禁じられております!殿下は来てはいけませぬ!」
「だめだ!間に合わない!さっきの悲鳴は切羽詰まったものだった。ボクの最高速度ならすぐに行ける!シルフィもいるんだ!」
「ではこの呼び笛を鳴らさせてください!すぐに騎士団が来るようになっておりますので。それと私もついていきます、首が飛ぶ覚悟で。」
「わかった。でも絶対に首は飛ばない。ボクがそうさせないから。」
「ならばもう怖いものはありませんな。」
レウスは腰に付けた笛を吹いた。
音はならず、魔力が込められている。
おそらくそういう笛なのだろう。
そしてレウスとボクは森の奥へと駆け出した。
ボクは風魔法で空気抵抗を減らし、さらに風で背中を押して加速する。
「....殿下.....!?......一人.....ては........」
レウスが何か言ったがボクの周りの風の音でかき消される。
上空ではシルフィが旋回を始め、チカチカと光で知らせてくれた。
「あそこか!」
ボクの目に映ったのはこちらに向かって走ってくる少女と、後を追う巨大なクマの姿だった。
少女は木の幹の間をすり抜け、うまく逃げていた。
しかし根につまづいて転んでしまう。
「やばい!伏せろ!!”
ボクはすぐに光属性の上級魔法である”多重光弾”を放った。
少女の頭上を何十もの光の弾が通り過ぎていく。
そしてそれらは熊の体を貫いた。
”グォオオォォォ!!!”
巨大熊は後ずさり、こちらを睨んだ。
赤い目に睨まれ、一瞬恐怖を覚える。
しかし次の瞬間、上空からいくつもの氷の槍が降ってきた。
熊は地面に縫い付けられ、やがて絶命した。
「ふう、間に合ったぁ」
ボクはまだ立ち上がれていない少女の方へと歩み寄る。
「あ、助けていただいてありがと.....」
「殿下ぁ!!ご無事ですか!?」
後ろからレウスが走ってやってきた。
ボクは少女に背を向け、レウスと話し出した。
「うん、大丈夫。ほら、シルフィの魔法でやられてるよ。」
「おお...!これはマッドベアですか。かなり大きいですね。このあたりで見かけるのは珍しいですね。いつもは西の方の森でしか目撃されていないのですが...」
「そうなんだ、これはギルドに報告した方がいいかもね。」
「ええ、そうしましょう。ポーチはまだ入りますか?」
「いや、この巨体を入れるのは無理そうだ。」
「わかりました。では騎士団が来るまで待ちましょうか。」
「いや、シルフィに任せて。シルフィ!!」
”ピュウウイ!!”
一声鳴くとシルフィの魔法が発動し、熊の巨体が宙に浮かんだ。
「これで運ぼう。それと襲われてた人が...。えっと君だいじょう.....えっ!?」
この時初めてボクと少女の目が合った。
肩ほどまで伸びた漆黒の髪、切れ長の目に淡い緑色の瞳、褐色の肌。
そしてまた、運命の時が訪れる。
「キャッ!?なに...!?」
ボクの体と彼女の体から魔力があふれだした。
これは...!
「なんと!これは...!?」
レウスも驚いた表情でこちらを見つめている。
そう、共鳴だ。
2人の間で混じり合った魔力は二つに分かれてそれぞれの体に戻る。
ボクは2人目の”運命の人”と出会った。
「あの、今のは...?」
立ち上がるとボクよりも幾分か背の高い彼女がおずおずと聞いてくる。
「とりあえず森を出ようか。違う魔獣に遭遇するかもしれないし。君は一人だけ?」
こくんと頷いて、涙の痕の残る顔で見つめられた。
歩きながら彼女に事情を聞いていくことにした。
「怖かったんだね、もう大丈夫だよ。」
「うう、ありがとうございます...えっと、なんでこんなところにケント様が...?」
ぴくっと眉を動かして何か言いたげなレウスを制し、答えた。
「魔獣狩りに来ていたら悲鳴が聞こえたんだ。君こそどうして一人で森の奥に入ったの?武器も持ってないじゃないか。」
「お母さんが病気で...薬草を...グスっ、取っていたらいつの間にか森の奥まで入ってしまって。お金も、ないので、ううっ...市で買うこともできませんから...自分で、取りに来ていたんです。」
涙を流しながらわけを話してくれた。
病気...ね。ボクの聖属性魔法ならたぶん...治せるはずだ。
「お母さんの病気はどんな病気?」
「胸の...息を吸うところの病気です。毎日薬草を煎じているんですけど効果がなくて...。最近は特にひどくなってきたんです。ずっと咳をしていて...。」
「ボクなら治せるかもしれない。この熊をギルドに持っていった後でお母さんのところに連れてってくれる?」
ボクは後ろをぷかぷか浮かんでついてくる熊の死体を指さして言った。
「はい...わかりました....」
浮かんでいる熊の死体とそれに乗ってふんぞり返るシルフィに引いているみたいだ。
まあ、これは...誰でも引くよなぁ。
森を出るとすぐに門の方から騎士団の騎士が20人ほど歩いてきた。
騎士たちは、まずボクたちにケガがないか心配し、後ろの熊に驚き、浮かんでいることにもっと驚いていた。
北門には馬車が用意され、ボクらはギルドに向かう。
マッドベアの巨体は騎士団が荷車で運んでくれるそうだ。
しばらく走るとギルドに着いた。
「じゃあ、少し馬車で待っててくれる?君から聞いたこととか報告してくるから。」
ボクがそう言った途端に、彼女はさっと青ざめてボクの袖をつかんだ。
「行かないで...!お願い...1人にしないでください...!」
そう涙を流して懇願してくる。
さっきまで死ぬような思いをしていたんだ。まだそばにいてあげたほうがいいか...。
「レウス、報告はお前がしてくれ。ボクはこの子と馬車に残るから。」
「わかりました。ではもう一人騎士を馬車の外につけておりますので何かあればそのものに言ってください。では私は報告に行ってまいります。」
「頼んだ」
ボクと少女は馬車の中で向かいあって座った。
改めて見るとエリーとはまた違ったタイプの美少女だ。
将来はいわゆるクールビューティーになると思う。
「君、名前は?今いくつ?」
「ユリアです。今は10歳です。」
ボクの3つ上か。
「えっと、肌の色からして魔人族だよね?お父さんかお母さんがそうなの?」
「はい、お母さんが魔人族です。それと私に父親はいない..です。」
「そっか、ごめんね。聞いちゃって。」
「いえ、記憶にないので...。私にはお母さんとの思い出しかありません。」
色々話しているうちにレウスが戻ってきた。
「よし、じゃあユリアのお母さんの所へ行こう。案内してくれる?」
「は、はい。」
ユリアの案内で行きついた場所は帝都の北西の町中にあるさびれたパン屋だった。
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