第19話 久しぶりのデート
部屋に入り、3人の向かいのソファへと座る。
「ケント殿下、初めまして。ヘリオス辺境伯家正妻のイレーネ=レ=ヘリオスでございます。こちらは長女のハンナでございます。」
「ケント殿下、初めまして。ヘリオス家長女のハンナ=レ=ヘリオスです。よろしくお願いいたします。」
「第三皇子のケントです。こちらこそよろしくね。」
2人は本当にエリーと似ている。
イレーネさんにはどこか貫禄というか威厳というか、そんなものさえ感じられた。
「私の娘であるエリザヴェートとの婚約を本当にうれしく思いますわ。この子ったら一昨日帝都へ到着した時からずっと落ち着きがありませんでしたの。」
エリーは途端に真っ赤になる。かわいい。
「お母様!恥ずかしいですから言わないでください!」
「ふふ、いいじゃないの。それよりあなたも殿下にご挨拶しなさい。昨日私相手に練習していたじゃないの。」
「もう!それも言ってはいけません!」
エリーはもう茹でだこだ。こっちではタコ見たことないけど。
「あっ、あの、ケント殿下、お久しぶりです。またお会いできて本当にうれしいです。私、この日をずっと心待ちにしておりました。」
エリーは真っ赤な顔のまま、挨拶をしてくる。
「ボクもだよ。本当に待ち遠しかった。会えてうれしいな。」
するとエリーは横を向いてこちらにちらちら視線を送ってくる。
ん?なんだろう?何か言いたいのかな?
ボクが首をかしげるとエリーはぷくっと頬を膨らませてボクを見る。
その間エリーの隣でこそこそ話していたイレーネさんとハンナがこう提案してきた。
「殿下、私たちは陛下のもとへご挨拶に参りますのでその間エリーを任せてもよろしいですか?夕刻の鐘が鳴る前に迎えの馬車を城へ送りますので。」
そう言ってにっこり笑った。
気の利くお母様だ。女神だ。
「ええ、もちろん。」
その意味が分かったのかエリーはハッとして嬉しそうに笑った。
「ではお願いいたします。陛下には殿下にエリーが連れ去られた、と申しておきますのであしからず。エリー、粗相のないように。」
「エリー、後でお話聞かせてね!」
ちょっと待てい。連れ去るとは何ぞや。
「はい!私連れ去られますね!」
エリー!?連れ去られていいんだ?
2人はメイドに案内され、応接室から出ていった。
はあ、ま、いいや。これで二人ですごせる。
久しぶりのデートだ。
「エリー、二人きりになれるところ行こうか。」
「はいっ!」
満面の笑顔だ。かわいい。
ボクとエリーは手をつなぎ、応接室から出た。
ボクたちは秘密基地...例のお気に入りの場所へと歩く。
「エリーは少し背が伸びた?ボクも伸びたから同じくらいだね。」
「ふふ、そうですね。こうして一緒に歩くのは久しぶりです。やっぱりケント君の隣にいるのは好きです。」
エリーはそう言って、ボクに見えるように髪を耳にかけた。
あらわになった耳には赤紫の光があった。
「あ...!ピアス!うれしいな、つけてくれてたんだ。そういえば手紙にも書いていたね。」
「うふふ!やっと気づいてくれました!さっきも耳を見せていたつもりでしたのに全然気づいてくれないんですもの。私、怒ってます!ぷんぷん」
さっきのはそういうことだったのか。確かに横向いてたな...。
とりあえずぷんぷん可愛い。
「ごめんね。どうしたら許してくれるの?」
「抱きしめてくれたら...許してあげます...」
エリーはそっと体を寄せてくる。
ボクはエリーをそっと抱きしめた。
「これでいい?」
「えへへ、久しぶりにギュってしてもらいました...。」
「やっぱりエリーは可愛いね。そういえばその手提げには何が入ってるの?」
するとエリーはシュッと腕から抜け、手提げを後ろ手に隠す。
「これは2人きりになったら見せてあげます!私からの誕生日プレゼントですから!」
「わかったよ。じゃあ早く行かないとね。」
2人でいろいろ話しているうちにすぐに秘密の砂浜に着いた。
そして当たり前のように、ベンチに寄り添って座る。
「どうぞ!ケント君のために選びました!」
エリーから渡された小さな箱を開けると、蒼い宝石があしらわれた指輪が入っていた。
「きれいだね。エリーの瞳の色だ。」
「はい、男の人は普通、ピアスを付けないので指輪にしました!”適応”の魔術式が刻まれているのでどの指にも合うと思います!」
それを聞き、ボクは心底驚いた。
「エリーの領地には指輪に魔術式を刻める職人がいるの!?」
確か帝都にもいたが、その人は亡くなってしまったそうだ。
今や帝都には指輪やピアス、ネックレスのような小さな装飾品に魔術式を刻める、達人と呼ばれる職人はいないらしい。
と、ジューリーが言っていた。
「はい!ドーレンさんという方です!」
「ドーレンさん...すごい人なんだね!」
ドーレンさんは
茶色の髪と髭が立派だそうだ。
「では、その...はめさせていただいてもよろしいでしょうか」
「じゃあ、お願いするよ。」
エリーはボクの右手をとり、薬指に指輪をはめてくれた。
「うふふ、できました!」
嬉しそうに笑うエリーを見て、ボクは我慢できずに抱きしめてしまう。
「エリー、本当にうれしい。ありがとう、大好き。」
エリーもボクの背中に腕を回してくれる。
「私も...大好きです...!あの、解いてもらってもいいですか?」
言われた通り腕をほどく。なぜだ、おかしい。エリーがハグをやめるように言うなんて...
そう思っていると頬に柔らかい感触があった。
至近距離でエリーの蒼い瞳がこちらを見つめる。
頬にキスされたと理解するのはすぐあとだった。
「えへへ、頬にキス...しちゃいました。やっぱり恥ずかしいですね。」
ああ、かわ、かわええ~!!!婚約者がこの子でボクは幸せです神様!
「ボクも恥ずかしいよ。お返ししないとね。」
エリーの頬にお返しのキスをする。
「あっ!えへへ、ありがとうございます。」
丁度その時、4の鐘が鳴った。
「あ、4の鐘ですね。もうすぐ夕方ですし、帰らなければ...」
「まだ馬車は来てないみたいだから一緒にいられるよ。」
「うふふ、そうでした!あの、前の時みたいに強く抱きしめていただけますか?あの感覚がずっと忘れられなくて...」
すこし潤んだ目でそう頼まれた。断ることができるはずもない。
エリーと向き合い、腕を彼女の体に回した。
「いい?」
「ひゃい...!」
耳元でささやくと、エリーの体が熱くなった気がした。
そしてボクは彼女をぎゅっと強く抱きしめた。
「あんっ♡あっ♡好き...♡これ♡大好きぃ♡」
ボクの耳元で荒い息遣いと蕩けた声がこだまする。
さらに熱くなった体が震え、エリーの力が抜ける。
「おっと」
ボクはエリーが崩れ落ちる前にベンチに座らせた。
「はっ♡はあ...♡んふふ♡ケント君...?もっとしてぇ♡」
上気した顔のエリーがボクに向かって両手を伸ばしてくる。
だ、だめだ...!可愛すぎる!
もう一度エリーを強く抱きしめた。
「ひゃあぁあ♡だめぇ♡」
「だめなの?やめようか?」
いたずら心が働いて、ついエリーの耳元でささやいてしまう。
「やぁ♡離しちゃいやぁ♡」
エリーの体から本格的に力が抜けてしまうところで腕をほどいた。
「はあ♡はあ♡んっ♡ありがとうごじゃいましたぁ♡」
息が荒い。顔も真っ赤だ。
さすがに7歳のエリーには興奮しないし、まだ自分にも性欲はないが、これが8年後、10年後となったらどうだろうか。
ボクは絶対に理性がプッチンしてしまうだろう。ゼッタイに。
まだ先のことだが、日本でいうJKになったエリーはどんだけ可愛いんだろう。
明るい笑顔を周りに振りまいて、絶対に学院のアイドルになるよなあ。
「こうやって強く抱きしめるのは2人きりの時だけにしようね。」
「わかりました...♡ほんとはずっと抱きしめていて欲しいんですけど我慢します」
いまだに真っ赤な顔でまっすぐ見つめてくる。
またベンチに座って雑談していると、トーレスがやってきた。
「エリザヴェート嬢へお迎えの馬車が来ております。」
「わかりました。すぐに参ります。」
さっきまであんなに乱れていたのに。ボク以外の前では立派な貴族の令嬢だ。
「じゃあ正門まで送るよ。」
「ありがとうございます」
正門までエリーを送り、また軽く抱き合って別れた。
その日の夕食の席では、家族たちに指輪を見せびらかすように食べていたのであきれたような顔で見られていた。
そして、10日ほどのエリーの滞在期間も終わり、彼女はイレーネさんと共に領地に帰っていった。
姉のハンナは学院に入学するので帝都に残るらしい。
前よりあっさり別れられたのは、またすぐに会えることが分かっていたからだ。
次にエリーと会えるのは秋。
学院に通う準備期間という名目で帝都のヘリオス邸に住むことが決まった。
ただヘリオス家にもいろいろ準備が必要とのことで秋からになったらしい。
この2か月を乗り越えればいつでもエリーに会える!
毎日ずっと一緒にいるというわけにはいかないだろうけど1年も会えないなんてことはない。
会おうと思えばいつでも会えるのだ。
だからボクもエリーが帰ったときは泣いたりしなかった。
ホントだよ?
ちょっと目に埃が入っただけだから。
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