第18話 再会の季節がやってくる



曇った窓をぬぐい、外を眺める。

ライネル湖は凍り付き、大玉の雪がしんしんと降っていた。


「おはようございます、ケント殿下。今朝はとても冷え込んでおりますね。」

「そうだね、雪もずっと降ってるし。あれ?指先が赤いね、どうしたの?」

着替えを手伝ってくれているメイドの指先が赤くなっていた。

「あ、これは別に何でもありませんわ。少し寒かっただけで...」

たぶん朝の仕事か何かで手がかじかんでいるんだろう。


「手出して」

「えっ?は、はい、なにを?」

差し出された両手に火魔法と風魔法を組み合わせた温風を纏わせる。

「これであったかくなった?いつも仕事お疲れ様。君のような仕事ができるわけじゃないからこのくらいしかできないけど...」

「いえ!そんなことはありません、感謝するのは私たちですわ!よき主に仕えさせていただき、本当に幸せです!それに私の属性は風だけですからこのようなことはできませんし。」

「そっか、よかったぁ。朝食のところまであっためとくね。」

「ふふ、本当にありがとうございます!」

朝食を食べ終わると、魔法を解除する。

そのメイドはお辞儀をすると仕事へと戻っていった。


ケントは知らなかったが、メイド達の間でこのことは話題となったようだ。

冬の間、冷えた手を見かけたら温めていたため、メイド達に”温風様”とあがめられていた...らしい。



冬の間、帝都は雪と氷に閉ざされる。

そのせいで魔導列車も動かず、エリーとの文通は一時的に止まってしまった。

今まで途切れることのなかった文通が冬に途切れてしまうのは悲しい。



ボクは大雪で中止になった訓練のせいで、時間を持て余してしまう。

「う~ん、暇だなあ。魔法の練習は室内じゃできないし...。」

「ではなにか遊びでもしてみましょうか?」

「いいね。何か知ってるの?」

世話係の一人が遊びを提案してきた。

「これは5つの種類の絵柄と、10個の数が書かれた札です。”コール”と言いまして、この合計50枚の札でできる遊びです!いかがでしょう?」

そう言って取り出したのは前世でいうトランプみたいなものだった。

「へえ、いいね。どうやって遊ぶの?」

「まず、参加する人それぞれに札を3枚ずつ配ります。配られた札は自分だけが見ることができます。そして誰のものでもない5枚の札を裏向きにして並べます。1枚ずつ表にしていって、こちらにまとめた”役”が完成していれば、その強さによって勝敗が決まります。国内ではよく知られている遊びです。」

ほうほう、ポーカーだな。完全に。

オルフェウス版ポーカーか。面白そうだ。

「よし、やろう。3人でもいいの?」

「もちろんです!疑似のコインをご用意いたしましょうか?」

「もってきて。誰かのコインが無くなったら終了で。」

その後、ボクたちはポーカーもどきに熱中し、戦績はボクの全敗だった。

おかしいな。





そして長い冬も終わり、雪解けの水でラルフ川の水位が上がる。

帝国の穀倉地帯では種まきも始まった。


そんな時、ケントのもとへ久々に愛しの婚約者からの手紙が届いた。


『ケント殿下、お元気ですか?帝都の冬が終わったと聞き、早速お手紙を書かせていただきました。そちらの雪はもうとけてしまったみたいですね。

もうすぐ殿下の誕生日ですね。私は20日後に領地を出発することになりました。

今回はお父様とではなく、お母様と1つ上のお姉様と共に帝都へ参ります。

それと、私の誕生日にいただいたピアスは常につけております。早くつけた姿をお見せしたいです。それから私も殿下への贈り物を選びましたので楽しみにしていてくださいね。また殿下の腕に抱かれるのを心待ちにしております。

”あなただけの花”エリーより。』

手紙を読み終えたボクはそれを机の上に置いて、ベッドに突っ伏した。


「ああ~、早くエリーに会いたい!あと20日...長いなぁ」

ついエリーを抱きしめた時のぬくもりを思い出してしまう。

ボクは代わりにシルフィを抱きしめ、気持ちを紛らわせていた。


”ピュイ!!”

シルフィはそろそろ離してという風に身を捩る。

「ごめんね、散歩いこっか。」

そう提案するとシルフィは嬉しそうにバッドの上で跳ねていた。


(シルフィもまた大きくなったよなあ。)

湖岸を歩きながら隣をにふわふわ浮かぶシルフィを見る。

すっかり転移魔法と重力魔法を極めたこのチート鷲ちゃんは、散歩のときこうして重力魔法でついてくる。

体の大きさも、もうすぐで今のボクが乗れるんじゃないかという位まで大きくなっていた。

結局その日はエリーへの気持ちを紛らわすように剣の訓練に明け暮れ、へとへとになって眠った。





待ち遠しく思う時間は長い。エリーが帝都へ来るまではとても長かった。


それでも時は流れる。


「ケント殿下、ヘリオス家の列車が帝都に到着したそうです。」

ボクは冷静を装いつつ、トーレスに聞き返す。

「城にはいつ来るかな?」

「早くても明日ではないでしょうか。しかし殿下の誕生日は明後日ですからその日にお見えになると思います。」

すぐそばにいるのに。お預けを食らった気分だ。

この分はあった時に補ってもらおう。そうしよう。


「「ケント殿下、お誕生日おめでとうございます!」」

誕生日の朝、起きたら世話係のメイド2人が祝ってくれた。

その日の朝食はいつもより豪華だった気がした。


その後、家族にもプレゼントをもらった。

4歳の時ほど豪華なものではないが、服や靴などいろいろと渡された。

なぜかエファ姉様は帽子に加え、”お姉ちゃんと1日一緒に狩りに行ける券”をくれたが、ヤバい魔獣を狩りに行きそうなのでしばらくは封印することにした。



「終わったぁ。やっぱり映像通信とはいえ演説は緊張したなぁ。」

「殿下、ご立派でしたよ!お城の外からも歓声が聞こえてきたではありませんか!」

昼食を持ってきてくれたメイドはそう言ってくれた。

そして昼食を食べ終わると、トーレスが待ち望んでいたことを報告してくれた。

「殿下、ヘリオス家の方々が挨拶にいらっしゃいました。応接室にお通ししております。」

「わかった、すぐ行くよ。」


ボクはトーレスに案内され、応接室へと急ぐ。

扉の前に立ち、逸る気持ちを落ち着けた。


トーレスが扉をノックして中へ入る。

迎えてくれたのはどこかエリーに似た雰囲気の、金髪にエメラルド色の瞳の女性と、オレンジの髪に黄金色の瞳の女の子だった。

そして、その2人の隣には金に輝く髪と蒼の瞳が見える。


ボクとエリーは目が合うとどちらからともなく笑顔になった。







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途中出てきたゲームはポーカーのルールをもじったものです。

テキサスホールデム楽しいからぜひやってみてね。


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