第17話 エリーへのプレゼント



夕食の後、アイリ姉様を呼び止めた。

「アイリ姉様!相談があるんですけど!」

アイリ姉様は振り返ってニコニコしながらこっちに来た。


「なに~?ケントが私に相談って珍しいね~。お姉ちゃん頑張っちゃうぞ☆」

「あはは、そうですね。えっと、婚約者に渡すプレゼントって何がいいんでしょうか?姉様だったらオーウェンさんに何をもらったらうれしいですか?」

姉様はすぐに察したのかニヤニヤと笑みを浮かべた。


「ほほぉ~、なるほどね。ケントはませてるねえ~」

「ボクは真面目に聞いてるんです!」

「あっはっは、ごめんごめん。恋する弟が可愛くてつい...ね?」

「もう!姉様はすぐボクのことからかう!」

「だって可愛いもん。で、プレゼントね。確か誕生日の贈り物だよね?」

「はい、そうです。」

「思い切って瞳の色のピアス贈ったら?その子のこと大好きなんでしょ?」

ピアス?なんでピアス贈るんだ?

「あ、なんでって顔してるね。ならばアイリお姉様がピアスを贈る意味を教えて進ぜよう!!」

デデン!!じゃなくて。

「なんですかその口調。早く教えてください!」

「おっほん、ピアスを贈る意味、それはね...」

「それは...?」

「”あなたはわたしのものだ”」

「な、な、なんですと?」

そ、そんな破廉恥な意味があるのか?

「ピアスって耳に穴をあけるでしょう。だからお互いの愛情の証を刻み込むっていう意味なの。」

「な、なるほど。じゃ、じゃあボクもエリーにピアスを贈ろうかなぁ...」

「あ!いいこと思いついた!オーウェン君も誕生日近いし一緒に宝石商行こうか!」

アイリ姉様がそう提案してくれる。

「え、いいんですか!?」

「もっちろん!5日後の学院の休みの日に行こうか。ケントは暇でしょ?」

「はい、いつでも都合つけていきます。」

「よっし、決まりね☆」

何気にアイリ姉様と出かけるのは初めてだ。


そして5日後、宝石商へ向かう馬車にはなぜかエルヴァ兄様も一緒に乗っていた。

「エルヴァ兄様はどうしてついてきたの~?」

「ああ、私の側室がもうすぐ成婚記念日だから贈り物をしようと思ってだな。ちょうどお前たちの話を聞いたんだ。」

エルヴァ兄様には2人妻がいて、側室の人は元メイドさんらしい。


馬車でしばらく帝都を進むと、明らかに高級そうな外観の建物の前で止まった。

事前に連絡が行っていたのか、店の前で店主と店員に迎えられた。


「ようこそいらっしゃいました。店主のジューリーでございます。お部屋をご用意いたしましたのでどうぞこちらへ。」

色々なアクセサリーや宝石が並んだ店内を進み、奥の部屋へと通された。

「本日はパートナー様へのプレゼントを探しに来られたと聞いております。どのようなものをお探しでしょう。」

ジューリーはメモにボクたちの要望をまとめていく。


「まずはエルヴァ殿下からですね。側室様の腕輪をお探しとのことですが、主役の宝石はいかがいたしましょう。これまで通りの宝石にいたしますか?」

「ああ。」

.....

あまり時間もかからずエルヴァ兄様の注文が終わった。


「では次はアイリ殿下ですね。指輪をお望みとのことですが、主役の宝石はどうされますか?」

「うーん、青色か黄色のどっちかかな。エルヴァ兄様とケントはどう思う?」

ボクとエルヴァ兄様は即答した。

「私は黄色だな。黄色のほうがアイリの活発さによく合っている。」

「ボクも黄色がアイリ姉様って感じがします!」

「わかった!じゃ、こっちで!」


「かしこまりました。指輪のサイズはどうなさいますか?」

「あ、前とは違う指につけてもらう予定だから後で連絡させるよ。デザインはこれで。」

アイリ姉様はカタログの絵を一つ指さす。

「かしこまりました。では最後にケント殿下、ピアスをお望みということですが、ケント殿下の瞳の色でしたら合うものが3種ほどございます。持ってきなさい。」


ジューリーが呼ぶと、並べられた3つの宝石を持ってきた。

「うーん、兄様、姉様、ボクは真ん中のものなんですがどう思いますか?」

「私もそれだと思ったよ。ケントの瞳の色に似てるもん。」

「ああ、そう思う。」


「こちらはアヴァロン山脈で採取された宝石でして、現在他では一切見つかっておりません。魔力を蓄える性質がありまして、ごくわずかに発光します。地名から取って”アヴァロン石”と呼ばれており、採掘の難しさもあり流通量はごくわずかです。さすが皆様はお目が高い。ではこちらでピアスをお作りいたします。デザインはどうしましょう。」

ボクはカタログを見て、一番シンプルなものを選んだ。

「そちらですか?あまり目立ちませんが...?」

ジューリーも首をかしげている。

「これでいい。」

「は、はあ。わかりました。」

ボクはあまり装飾のあるごてごてしたものは好きじゃない。

揺れる髪の間からキラッと光るボクの色のピアス...イイ!実にイイ!!


「ケント?なににやけてるの~?」

はっ!妄想しすぎた!

急いで緩んだ顔を元に戻す。

しかし、時すでに遅し。

その場の3人はボクの考えを察したようだ。

ボクのことを何か微笑ましいものを見るような目で見ていた。



そして10日後、朝はもう本格的に冬が始まりそうな肌寒さになった時に、アヴァロン石があしらわれたピアスが城に届けられた。

小箱に入ったそれはとてもきれいだ。


「エリーの誕生日はあと10日くらいか。誰に届けてもらおうかな、ボクは帝都から出れないしなぁ。」

「殿下、私が行きましょうか。」

部屋の扉の前に控えていたトーレス爺がそう提案してくる。

「トーレスが?どうして?」

「私の実家は帝国魔導列車でヘリオス領に行く途中にありますから。それに今年はまだお休みをいただいておりません。ここで休暇を取るのも良いかと思いまして。」

「なるほど!なら頼むよ、エリーへの手紙は出発の前日に預けるよ。」

「はい、お任せください。」


3日後、トーレス爺は帝都を出発した。

「では必ずお届けいたします。」

「うん、頼んだ!いってらっしゃい!」




『お元気ですか。最近、帝都は雪がちらつくほど冷え込んできました。ライネル湖にも氷が張るようになり、冬の気配を感じています。

この手紙が届くころにはエリーは誕生日を迎えていますね。

手紙と共にエリーへのプレゼントを持たせました。喜んでくれると嬉しいです。

あ、それとこの間.......』

手紙に目を通し終わると、手紙は1度机に置いて、横にある小さな箱を見つめました。

中身が何かは手紙には書いてありませんでした。

どんなものが入っているのでしょうか...。


そして私はドキドキしながら小箱の蓋をそっと開けます。

「わあぁ!とってもきれいなピアス!これはケント君の瞳の色ですね!」

透き通り、うっすら赤紫の光を放つ宝石...とても綺麗です。


ピアスってどんな意味でしたっけ。

確かこの本に書いてあったと思うんですが...

「えっと、ピアスは...”あなたはわたしのものだ”!?うそ...」

それを知って改めて光るピアスを見ると、すごくドキドキしてきました。

「...ピアスで体に傷を作ることでパートナーと心から愛し合っていることを刻み込む...えへへへ。」

思わず顔が緩んでしまいます。

「そうだ!お母様とお姉様にも見せてあげましょう!私には素敵な婚約者様がいますよって自慢しちゃいます!んふふふ」

私はスキップでお母様とお姉様のいるであろう部屋に向かいました。


扉をノックして中に入ると、2人はテーブルで紅茶を飲んでいました。

「あら、エリー。ご機嫌ね。どうしたの?」

お母様にはすぐに気付かれてしまいました。

お姉様もニコニコしながらこっちを見てきます。


「見てください!これを殿下からいただいたんです!」

「わあ!きれいな色!お母様、これ何の宝石でしょう?」

お姉様も気になっているみたいです。

「これは...もしかしてアヴァロン石かしら。」

「えっと、確かアヴァロン山脈だけでとれる宝石だよね。本で読んだことがあるよ。採取が難しくてすっごく高いんだって。」

そ、そんな貴重なものなのですか!?

「エリーは殿下に愛されてるのねえ。せっかくだし今つけましょうか。」

「はい!手伝ってもらおうと思ってこっちに来たんです、お母様もピアスをしてますから。それと春に殿下を驚かせたくて...」

お母様もお姉様もにっこりと微笑みました。なんだか恥ずかしい気持ちになってしまいます。


「ピアス用の針を持ってきてくれる?」

扉の前にいたメイドがすぐに針を二つ持ってきてくれました。

そして耳にピアス用の穴を開け、ピアスを付けます。

もちろん痛かったですが、それは幸せな痛みだと感じてしまいます。


鏡を見ると耳には赤紫の...ケント君の色がきらりと光っていました。


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