第11話 婚約者と初デート①





「こ、これでいいかな?いやもう少し薄着でも...。いややっぱりこっちかな?」

初デートの朝、ボクはメイドさんと一緒にどんな服で行くか迷っていた。


「殿下、私はこちらがおすすめでございます」

「ちょっと、それはないでしょう。それよりこっちの方が...」

メイドさんの内でも意見が割れている。


そんな時、扉がノックされた。

「ケント~♡お姉ちゃんが来てあげたわよ~♡」

「私もいるわよ!」

エファ姉様とイルシア姉様だ。

まだ着る服が決まっていないので寝間着のまま2人を部屋に迎える。


「今日初デートなんでしょ。多分着る服決まってないんだろうなって思ってたけどやっぱりそうみたいね。そういう時はエファお姉ちゃんに任せなさい♡カッコよくしてあげる♡」

「私は付き添いよ!男性の服はあまり詳しくないけどね!」

なぜか自信満々という表情のイルシア姉様。何の付き添い?


エファ姉様はすぐに1セット見繕うとボクに着せた。

「うん、かっこいいわね。じゃあ、最後に水魔法で髪をセットして~、イルシア!温風!」

「あ、はい!」

暖かい風がボクの髪を撫でる。イルシア姉様はこのために付き添ってきたのか...?

鏡を見るといい感じの服装で、いい感じの髪型のボクが映っていた。

普段着より少し気合の入った感じだ。


「あ~ん、ケントかっこいい~♡これで相手のお嬢さまもメロメロね」

「なんで結婚せず恋人もいないエファ姉様がこんなに詳しいの?すごくいい感じになってるわ...!」

「うふふ、私の好みの服装にしてあげただけよ~♡」


自分で見てもいい感じだ。メイド達にも聞いてみよう。

「メイド達はどう?この服装」

「立派でございますわ」

「素晴らしいと思います」

「私も見惚れそうです」

なんで口元抑えてるんだろう。誰も直視してこないし。


「まあいいや。2の鐘が鳴ってしばらく経つしそろそろ待ち合わせ場所に行こうかな。エファ姉様、イルシア姉様、ありがとうございました!」

「初デート頑張ってね!」

「行ってらっしゃい!こけたりしないでよ!」


「はい!行ってきます!」


部屋を出て、ボクは待ち合わせ場所の中庭へと向かった。

中庭のベンチに座り、そわそわしながら待っていると、執事のトーレス爺が歩いてきた。

「ケント殿下、エリザヴェート嬢が城に到着されました。まもなくこちらへいらっしゃるようです。」

「わかった。紅茶を淹れておいてくれ。」

「かしこまりました。」


少し待つと、向こうから天使がやってきた。

「ケント殿下、1日ぶりですね。たった1日ですが長く会っていなかったように感じてしまいます。またすぐにお会いできてうれしいです。えへへ」

可愛いんですけど!えへへがいい。天使だ...ボクのもとへ天使が降りてきた...!

今日の服装はかなり可愛い。パーティーの時のようなドレス姿ではなく、裾にフリルのついた白のロングスカートに水色のシャツ、グレーの薄めの上着を羽織っただけのカジュアルな感じだ。


「待ってたよエリザヴェート。今日は中庭を散歩した後、ライネル湖の湖畔で昼食を取ろうと思っているんだけどいいかな?」

話しかけたが返事がない。エリザヴェートはこっちを見たままボーっとしている。


「エリザヴェート?」

「あ...はい!すみません、今日も殿下は素敵だったのでつい、その、見惚れておりました。お話を聞かず申し訳ありません。」

「いや、大丈夫だよ。そっか、エリザヴェートにそう言われると嬉しいな。言い忘れていたけど今日の君もとても可愛いよ。」

全然大丈夫じゃないですぅ!やった!エリザヴェートがボクに見惚れてくれた!イエス!エファ姉様ありがとう!ありがとう!!

ボクの脳内にはしてやったりと笑うエファ姉様の映像が流れた。


「ありがとうございます!あ、あのっ!ケント殿下、一つだけお願いしたいことがあるのですが...」

はい、反則!ウル目でこっち見るの反則!絶対聞いちゃうよ?何?言ってみ?皇族の...ボクの使えるものは全部使って叶えるから!!

「なんだい?言ってみてよ」


エリザヴェートは少し言おうかどうか迷っていた様子だが、意を決したかのように口を開いた。

「えっと...2人でいるときは”エリー”と愛称で呼んでいただけませんか?」

ゴフッ!!(脳内ボクが吐血した音)

可愛い通過して尊い...いやてぇてぇ。

顔を真っ赤にしてこちらを見つめるエリザヴェート...いやエリー!!ここで呼ばない奴はただの間抜けだ。


「本当に君は可愛いね。わかったよ、エリー。これでいい?」

「ひゃあ!ケント殿下に愛称で呼ばれちゃったぁ!うれしい!夢みたい!えへへ」

エリーさん、心の声もれちゃってない?全部聞こえてるんですけど?可愛いんですけど?


「ふう、エリー、そろそろ散歩に行こうか。それとボクのことも殿下なんてつけずに呼んでよ。」

「はい、わかりました!えっとそれでは”ケント様”、とか?」

いいねえ。けどまだちょっと固いかなあ。

「もう一声!」

「えっとそれでは”ケントくん”はいかがでしょう?」

決まりだ。それだ。勝った。

エリーは真理に到達してしまった。


「じゃあそれで。うっかりアルバートさんの前で呼んで叱られないようにしてね。」

「ふふ、もちろんです!では今日は一日よろしくお願いしますね、えっと...ケント君...。えへへ」

あー可愛い。名前呼ぶとき恥じらうのもいいわあ。



そしてボクとエリーは紅茶を1杯飲んでから、いろんな花の咲く中庭を散歩し始めた。

もちろん、手をつないでね。


手を取ったとき、エリーの顔が真っ赤になっていたのは言うまでもないだろう。

ボクも同じくらい真っ赤だったが。







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