第12話 婚約者と初デート②
ボクとエリーは手をつないで、中庭を歩きだした。
最初はただつなぐだけだったけど、今は自然と指を絡ませていた。
キュッと握るとエリーも握り返してくれる。
右手にずっとぬくもりがあるのが嬉しかった。
「あ!ケント君!あのお花とってもきれいですよ!」
エリーの指した先にあったのは、バラによく似た水色の花。
「これはティルファという花だね。帝国の西の海を越えた先にある、ティルファニアという国から友好の証に贈られたそうだよ。夜は吸い込んだ魔力で花弁が発光するんだ。夜になるととても綺麗だよ。」
ボクも何度か夜にこの花を見たが、すごく幻想的な光景だった。
「そうなんですね!いつか私も見てみたいです。」
ニコニコしながらそう言うエリーは可愛かった。
その後も中庭を散歩していると、隣から”クゥゥ~”と、可愛い音が聞こえてきた。
途端に顔を真っ赤にしたエリーは何度も、「忘れてください!!」と言ってくる。
「エリーお腹空いてたんだね。たぶん忘れないけど、とりあえず湖畔に行こうか。また可愛いお腹に怒られてしまうからね」
「むぅ~、ケント君はいじわるさんです!おいしい食べ物じゃないとお腹は許してあげません!」
エリーはぷんぷんしながらも手はつないだままだ。さらに無意識かどうかはわからないが、体をぴったり寄せてきている。高めの体温から伝わる熱が心地いい。
「期待しててよ。絶対おいしいから」
ボクたちはプライベートビーチへと歩いて移動した。
城には帝国の政治機関の中枢、皇族の住居、使用人の住居などいろいろな設備がある。
途中、城についてエリーと話した。
「ケント君、あの高い塔がある大きな建物は何ですか?」
「あれは城から帝都を見渡すために建てられているんだ。それと城の外観を良くするためだね。あの大きな建物は帝国政府本庁。あそこでこの国の政治を動かしているんだよ。玉座の間とか帝国議会場があるんだよ。」
「う~ん、難しくてよくわかりません...。ケント君は物知りですね!」
「あはは、ありがとう。」
いろいろ話している間にビーチに到着する。
そしてボクとエリーは砂浜に用意されたパラソルの下で隣り合って座っていた。
元々は向かい合う席だったのだが、エリーは座ろうとしなかった。
「エリー?座らないの?」
「あっ、ごめんなさい。その...手を放したくなくて...」
ゴファッ!!(心の中のボクが大量に吐血した音)
え、かわ、え?かわいい。
「かわいい...」
「へっ?い、今、かわいいって...」
「うん。言ったよ。心の中から漏れてきた」
「ひゃあぁぁ...ありがとうございます...!...どうしよう!すごくうれしい...!もう大好き...!」
エリーさん、エリーさん、後半漏れてるでやんすよ。照れるんだすけど?
「エリー、隣り合って座れるようにベンチにしてもらおう。そうしたら手を離さないで済むよ」
それを聞いたエリーは花が咲くような満面の笑顔を浮かべた。
「本当ですか?ありがとうございます!」
そしてボクの腕にギュッと抱き着いてきた。
まだぺったんこだけどすごくあったかい。
アルバートさんによるとエリーの母はメロンらしいし期待が膨らむ。おっぱいも膨らむ...おっと。
トーレスとメイドさんはすぐにベンチに変えてくれた。
テーブルには丸いパンに具材を挟んだ、ロールサンド的なものが並べられた。
「わあ!おいしそう!このパンの食べ方は初めてです!」
そう、実はこの世界、というかオルフェウス帝国にはパンに何か具材を挟んで食べるという文化がない。パンはスープに浸すか、ジャムを塗るかのどっちかだ。
そこでボクは料理長と結託し、このロールサンドを生み出したのだ!
ここに並ぶのはどれもおいしかったものだ。
ボクたちは早速食べ始めた。
手をつないだままなので、ボクは左手、エリーは右手でパンをもって食べる。
ボクはタイミングを見計らって、小さめの2口くらいで食べられそうなものをエリーに”あーん”することにした。
「エリー。はい、あ~ん」
エリーは真っ赤になってパンとボクの顔を驚いた表情で見てくるが、ボクが引かないことを悟ったのか、受け入れてくれた。
「どう?おいしい?」
「はい、とっても!ケント君にもお返しです!あ~ん」
エリーの持ったパンをぱくっと食べる。
「おいしいですか?」
「うん、エリーの愛情入りだからもっとおいしいね」
エリーはポンっという擬音がぴったりな風に赤くなった。
「そ、そんな...恥ずかしいです。あっ、私も!ケント君の愛情入りのパン、とってもとってもおいしかったです!!」
「それはよかった。喜んでもらえてうれしいよ」
その後、お互い食べさせ合ったりしながら昼食を終えた。
やがて楽しいデートも終わりの時間になる。
鐘の音で目が覚めた。どうやら寄り添って眠ってしまっていたようだ。
空はすっかり夕焼け色だ。
ボクに寄りかかって可愛い寝息を立てているエリーの寝顔をじっくり目に焼き付け、起こすことにした。
「エリー、エリー?もう夕刻だよ。起きて」
「う~ん、ケントくんしゅきぃ。ギュってしてぇ。離れちゃやあなの」
どんな夢見てるの?
心の中のボクは死にました。死因はエリーが可愛かったからです。なのでもう血を吐くことはありません。
おっとなにしてるんだ、早く起こさないと。
「エリー起きて!帰る時間だよ!」
「ふぇ?かえる?はっ!え、あれ?ケント君、私たち寝てしまっていましたか?」
「うん、そうみたいだね。ボクは5の鐘の音で目が覚めたんだ。」
「ほんとですね。もう帰らないと...」
エリーは少ししょんぼりとしている。
「明日から毎日来てもいいんだよ?ボクはいつでも待ってるから。」
「じゃあ、じゃあ明日も来ます!ですからその...えっと...」
エリーはもじもじして何か言おうとしてるみたいだ。
「なに?言ってよ」
彼女は少し迷うそぶりを見せたがおそるおそる口を開いた。
「あの、えっと...ギュってしてくれませんか....?」
最後は消え入るような小さな声だったが、ボクの耳は研ぎ澄まされていたためしっかり聞いた。なるほど、ハグね。うんうんセーフですね。キスしてとか言われたらどうしようかと思ったよ。
「えっと!私!お父様やお母様に抱きしめられるのが好きで!大好きなケント君にもいっぱい抱きしめてほしいんです!さっきも夢に見てしまったので、あの、本当にしてほしくて!その、大好きだから...あれっ?私何を言って...あわわ」
かなり早口で自分で何を言っているのか分からなくなっているエリー。
ボクは可愛いなあとなごみつつ、エリーをギュっと抱きしめた。
「へっ?ひゃあぁぁ!?ケント君!?あっ、あったかい...」
「ふふ、落ち着いた?」
「はい...なんだかとっても心がほわほわします。お父様やお母様とはちょっと違いますね...」
エリーもそっとボクの背中に腕を回し、きゅっと抱きしめてくる。
「えへへ、これからもいっぱい抱きしめてくださいね。...大好き」
尊死。小さな声だけどちゃんと聞こえてますよ?これは天に召されるよ。
「ボクも大好きだよ。また明日会おうね。明日はボクの訓練を見ててほしいな」
「はい、楽しみにしてます!」
こうして初デートは大成功に終わった。
家族との夕食の席でもボクの顔はひたすら緩みっぱなしだったので、一瞬でデートがうまく行ったことがバレてからかわれたのだった。
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