第2話 母の生い立ち
母を引き取った大叔父は、お世辞にも真当とは言えない人間だった。大叔父は母を引き取る前は(何年前までかは不明)親戚が営む女郎屋で番頭をしており妻子もいた。しかし女郎と不倫関係となり駆け落ち同然で違う町に逃げた人間なのだ。
その後、大叔父は女郎だった女性と母を引き取った。だが駆け落ちしたにも関わらず、大叔父は妻とは離婚はしなかったのだ。そして母を自分の戸籍には入れず、何の縁も所縁もない不倫関係にある女性の戸籍に【実子】として入れたのだった。
信じられないかもしれないが昔は今とは違い戸籍はある程度、融通が利いたそうで養子ではなく実子として登録してもらえたそうだ。そして母は大叔父の不倫関係にある女性の姓を名乗るようになったのだ。
これからは話が紛らわしくなる為、母の生い立ちの話では大叔父のことを義父と呼び、不倫関係にある女性のことを(戸籍上では実母ではあるが)義母と呼ぶことにする。
母が物心ついた頃、生みの親のことや、義父に引き取られたことは覚えていなかったとのこと。しかし義父、義母は周りの子の父や母と違い見た目がお爺さんとお婆さんだった為、薄々本当の親ではないことを悟っていたらしい。
当時義父は自宅で電気治療院を営んで生計を立てていたが裕福ではなかった。
幼い母に義父は過干渉だった。「あの子供はろくな子供じゃないから遊ぶな」と言われたり、外に遊びに行くとすぐ義母に「父さんが呼んでいるから帰っておいで」と呼び戻されたりしたそうだ。しかし抱っこされたり撫でられたり家族で楽しく出かけたりなど親らしい愛情は受けられなかったようだ。
そして、本当の親ではないということも思春期の時期に義父から知らされ、本当の母親がどんな人物だったのかも全て伝えられたのだ。本当の子ではないことを知らされてからは自分達の老後の面倒を見るように言われたという。
母を引き取った義父の狙いは老後の金銭面や介護の面倒を見てもらう為に母を従順に優秀に育てたかったのだ。その証拠として母に「男には負けるな」と言い続けたという。
そんな母も義父の言葉を信じ、男には負けるものかと真面目に勉強をし、高校卒業後、信用金庫に就職。そして義父の勧めで給料の殆どを預金していた。ある程度預金が貯まった頃、義父から現在の家を壊し、新しく家を建て直すように言われ、20歳でローンを組み一戸建てを建てたのだ。
母は恋愛には興味はあったが、生みの親のようにはなりたくはないと思うようになり恋愛経験もほぼ無い状態だった。
そんなある日、お見合いを勧められ出会ったのが私の父である。義父の結婚の絶対条件が婿養子になることだった。それを快諾しお見合い後すぐに母と義父、義母の家に住み始めてしまったのだった。
父は小さな村の農業を営む本家の長男で、もちろん父方の両親は反対したそうだ。
色々ゴタゴタしたそうだが同棲3ヶ月程で結婚。母が22歳の時だった。
23歳で私の兄を出産し、27歳で私を出産、31歳で弟を出産。私は3人兄弟の真ん中っ子として育つのだった。
老後の面倒を〜と口うるさく言っていた母の義父は私が誕生してすぐにあの世へ旅立って行った。だから私は母の義父を知らない。
義父の姓で婿養子にさせるならまだしも、不倫関係にある義母の姓にさせてまで何の意味があるというのか。自分の身の保身に一生懸命になって、家を建て直させて数年後には逝ってしまうというのは何と皮肉な話だろうと同情すら感じない私は冷酷な人間なのだろうか。
人間の欲望とは恐ろしく儚いものだ。
壮絶な幼少期を過ごし心を痛めた人間が大人になったらどうなるのか〜私の場合〜 東條奏 @la-vender
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