第71話
藤ヶ谷さんに、彼氏である竜玄先輩が白乃に付き纏ってることを全て話した。彼女はすでに知っていることだったのか、ため息を大きく吐いて『うんうん』と数回頷いた。
「五十嵐さん、二年の間でも有名になってる。すっごい美人な子なんでしょ?」
「はい。やっぱり広まるのが速いんでしょうかね」
「それにしても、君って五十嵐さんと何か縁があるの?」
「へ? 何故ですか?」
「だって、話聞いてたら五十嵐さんのこと『白乃、白乃』って名前で何度も呼んでるんだもん」
「あー……。いや、幼なじみでして……」
「そうなんだ。だから守りたいと思って、私と話がしたかったのか。もしかして付き合ってたりするの?」
「……」
答えにくい質問だった。こういう時、どういう返答をするのが正解なのか分からない。二年生の間で、すでに有名になっているとなると、僕と白乃の恋人関係は流石に話しにくい。
この場合は誤魔化そう。それが答えだ。
「それより、竜玄先輩とはうまくいってるんですか?」
「そんなわけないよ」
「なるほど……。じゃあ、別れるというのはありますか?」
「全然ある。もう電話で伝えちゃおうかな」
藤ヶ谷さんはスマホを手に取った。
「ちょっと待ってください」
「え? 何かあるの?」
「明日の放課後に体育館の裏に来てほしいって。藤ヶ谷さんから、何か伝えたいことがあるって言った方がいいと思います」
「どうして? それって、私が行かなきゃいけないの?」
「いいえ、藤ヶ谷さんは来なくていいです。僕が代理として来たことにして、面と向かって『もう付き纏うな』って言いに行きます」
「大丈夫なの? 嫌な予感がしてくるけど……」
「大丈夫かと……」
「分かった、そう言っとくね」
手に取ったスマホで電話をかける。僕が伝えてほしい内容を、そのまま彼氏に伝えた。了承を得たのか、小さく『ありがとう』と言ったのが聞こえた。こんなやつに感謝なんてしなくていいのに……。
藤ヶ谷さんは、少しだけ本を読んでから帰るらしい。本が好きたいのは、結構意外だった。陽キャの彼女は、大体イケイケな感じだと思っていたけど、藤ヶ谷さんのようにすごく真面目でお淑やかな人もいると学んだ。でも、竜玄先輩にはもったいない。もっといい人がいるはずだ。
明日の放課後に、僕の思っていることを全部言ってやろう。
****
竜玄先輩が待っている。体育館の壁のところから見てるけど、ちゃんと来るんだな。ドタキャンしやがったら、家に突撃するつもりだったのに。住所知らないけど。
待つのが嫌いな人だと思う。さっきからスマホをかまいながら、つま先をパタパタと上げたり下げたりを繰り返している。
そろそろ行くか。
「あ? お前誰だよ?」
「一年B組の松風です」
「お前に用はねーんだよ。失せろ」
「僕はあなたに用があるんです」
「は?」
「藤ヶ谷さんの代理としてここに来たんです。藤ヶ谷さんに頼まれたので」
「へー。静香からなんか伝えたいことがあるって聞いたんだけど? それをお前がやってくれるのか?」
「はい。藤ヶ谷さん、あなたと別れたいそうですよ?」
竜玄先輩は『はっ』と鼻を鳴らした。
「なら、別れるって言っといてくれ。じゃーなー」
「まだ終わっていませんよ。藤ヶ谷さんのこと、あなたは本当に好きでしたか?」
「んなわけねーだろ」
「なら、どうして付き合っていたんです?」
「顔が良かったからな。でも一回もヤらせてくれなかったから、もうどうでもいいわ。他にいい女見つけたし」
「それって、五十嵐白乃っていう子ですか?」
「ああ、そうだぜ。静香よりも顔良いし、良い体してっからな」
僕は拳を握りしめた。コイツはヤるために白乃に付き纏ってる。気持ちが悪く、性格も最悪、もう絶対に近づけさせたくなかった。
「ああそうだ、お前、白乃ってやつの弱みとかあるか?」
「弱み?」
「それをダシにすれば、簡単にヤれるかもしれねーから———」
僕は、気持ちの悪い顔面を思いっきり殴ってやった。殴っても何もスッキリしない。これは、中二の時にヤンキーを潰したのと同じ感想だった。
よろける先輩。何が起こってるのか把握ができていない。隙だらけだった。
また拳を繰り出す。今度は顔面ではなく腹に入れた。倒れた先輩は、腹を抱えながら悶えていた。
「ガッ、ハッ……。テメッ、何しやがる……」
「もう白乃に付き纏うな。分かったか?」
「ぐっ……」
万が一先生が目撃した時のために、僕は自分の頬を殴った。先輩に食らわせたぐらいの威力を自分にも当てたのだ。
なぜそんなことをするのかというと、そうすれば頬にあざができてしまう。先生に見つかり、問題になれば、それを理由にして『殴られたから』と言ってしまえばいい。これなら、多少だが罪は軽くなるだろう。
結局、先生に見つかってしまい大問題となってしまった。竜玄先輩は『自分は何もしていない!』と言っていたが、僕の頬のあざが証拠と見られ、どちらも一週間の停学処分となった。ざまぁ見ろ、ヤり目的のクソ野郎が。
停学が解けて学校に行くと、問題になってしまったため、クラスの全員が僕を怖がっていた。竜玄先輩は、それから白乃には付き纏うことはなくなり、廊下ですれ違う際に、僕が目で圧をかけると少しだけ震えて、逃げて行くように去る。
そして、消えていくように卒業した。当然僕は孤立状態になり、校内での友達は0人のまま一年が過ぎていったのだ。
でも、藤ヶ谷さんとの交流が増えた。そのせいで、白乃には嫉妬の対象として見られてしまうことがしばしばあった。別にそんなんじゃない、と言ってもやっぱり警戒していた。
これが僕の友達が0人である理由であり、色々あった理由であり、僕が起こした問題の内容である。
暴力は絶対にしてはいけないよ。僕の言えることじゃないけどね。
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これで過去回は終了。ヒロインとのイチャイチャ回が増えると思います。久しぶりに姫回書こうかな。
それに、新しいヒロインが登場するかもしれないししないかもしれないです。お楽しみに!
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