第70話
入学して少し経つと、A組にいるある女の子が瞬く間に有名になった。その女の子こそが白乃である。高校生にしてその美貌を持つ彼女は、当然先輩や同級生の男子に接触を図られた。でも彼女は、赤子の手を捻るかのようにして、全てさらっと軽く受け流してしまう。
それに、白乃が誰かと付き合ってしまうことは絶対になかった。その時から、すでに僕と付き合っていたからだ。誰にも見られないようなところで彼女から告白されて、僕が了承して、それでお付き合いは成立した。
まだこの頃は優しかった。多少の僕の勝手は許されていたくらいだった。だが段々と白乃は我慢ができなくなり、ついにはコミュニケーションを制限してくるようになった。それが、僕らが二年になる前の一月、冬休みの時期くらいだった。
心底僕も驚いた。でも、そもそも人と話すことがあまり無いため、これもまた了承してしまうのだ。
結局これが原因で、僕たちは別れることになったのだけれど、この約束をする前は本当に普通のカップルのような関係だった。嫉妬はすごかったけど。でも彼女なりに我慢してたんだと思う。
僕が入学当初に起こした問題は、中学の時と同じようなことだった。結論を言おう、『暴力』である。
入学してから、すごく絡んでくる先輩がいたらしい。白乃が言っていたからこれは確実だった。その先輩は、三年のB組で、クラスでは一番中心的な人間らしかった。バスケ部で体がデカく、すごくモテているのだとか。彼女もいるとのウワサだ。
流石の白乃も、何人も相手している中で、その先輩ほど絡んでくる者はいなかったという。何度も何度もA組の教室に来ては、白乃の名前を呼んで、放課後、遊びに誘っていたのだ。
「たっくん……。私、あの先輩本当に苦手……。どうしたらいいかな? ねえ?」
「うーん。しつこい男を払いのけるには……」
考えていると、白乃は上目遣いで僕の方を見てくる。
「たっくんは……私を守ってくれるよね?」
以前にも言われた言葉だった。しかも上目遣いによる相乗効果で、僕の心はがっしりと掴まれてしまう。もう絶対に離れることのないほどに、握りつぶされてしまうほどに。
「うん、大丈夫だよ。僕は彼氏なんだから」
「えへへ……。ありがと……」
****
その先輩の名字は、
どうにかしなくては。白乃にまとわりついたままだけど、でもどうする? どうやって追い払う?
三年B組。バスケ部。体がデカイ。彼女持ち。陽キャ。
「その人の彼女に、白乃に付き纏ってるって話せばいいのかな」
話しても、自分の彼氏を感じる心があるはずだ。『そんなことをする人間じゃない!』とか言ってきそう。というか、中心的な人間の彼女だからな。どうせその女子生徒も陽の気を放っているかもな。マジかよ、話せるかな……。
でも、やらなきゃ始まらない。信じてくれるかもしれない、と少しの希望を持っていた。とりあえず、竜玄先輩の彼女が誰なのかを探らなければならなかった。バスケ部の人に聞けば分かるのかも。
放課後、部活を見に行った。体育館の外から覗いていると、なぜかバスケ部の人間に見られて目立ってしまう。そんな時、僕に声をかけてきた人がいた。
「バスケ部に何か用かい?」
「いえ、見ていただけです」
「そうか、なるほど。ずっと見ていたから体験したかったのかと思ったよ」
「あなたは、確か生徒会の……」
「僕のことを知ってくれているんだね。嬉しいよ。僕は生徒会会計の司馬って、流石に知ってるか……。君は?」
すみません! 実は名前は分からなかったです! 思わせぶりで本当に申し訳ない!
そっと、口に出さずに謝った。
「ま、松風です。司馬さん、バスケ部だったんですね」
「ああ。こう見えて運動は得意なんだ」
「へぇー……。ところで、この部活は人数が少ないんですね……」
「そうだね。あんまり人は多くないのかもしれない。それに加えて、部活に来ない人もいるみたいだし」
「部活に来ない? 例えば誰ですか?」
教えてもらっても分からないはずだけど、一応聞いてみた。
「入りたての一年生はきちんと来ているけど、二年生はほとんどサボってるよ。三年生は最後の大会が近いから、一生懸命やってるけど、あと一人来ていない先輩がいるんだ」
「なるほど……。その先輩って、本当に部活しなくていいんですかね? 大会が近いって分かってるはずだと思いますけど」
「もうその大会にも出ないかもしれないよ。いつもサボって遊びに行ってるみたいだから」
竜玄先輩の顔を見たことがないため、部活に来ているのかが確認できない。それでも、当てずっぽうで司馬さんの頭に浮かんでる人を当ててみようと試みた。
「そうですか。その人って、もしかして竜玄先輩ですか?」
「え? よく分かったね。知り合いなのかい?」
「え、ええ。ちょっとだけ交流が……」
「そうなんだ」
いや、当たってんのかい!
「その竜玄先輩って、サボってまで遊びに行きたいところでもあるんですかね。彼女とかと……」
「彼女? あの人、彼女とは全く遊ばないんだってさ」
「じゃ、じゃあ、その彼女さんは何して……」
「ほら、あそこにいるマネージャー、分かる?」
「は、はい。見えます」
「あれが竜玄先輩の彼女だよ。ちなみに二年生」
よっし! これで彼女がいることは確定した。ウワサだったため、デマの可能性があったのだ。
「そうなんですか。なんか、邪魔してすみませんでした」
「全然いいよ」
司馬さんに『それじゃ』と、小さくお辞儀をして、その場から離れた。
部活が終わってから、その人に話をしてみよう。
****
あ、司馬さんだ。部活は終わったのかな。
校門を通って外に出て行く司馬さんを発見した。続々と、先ほど見たバスケ部の人が帰宅するために校門を通って行く。
なら、ここで待っておけばいいはずだ。体育館から離れて、昇降口で待っているのだけれど、やはり部活が長いせいで、ずっと座って本を読んでいた。途中、先生が心配していたけど、断固として本を読むのをやめずに待っていた。今、それが報われているのだ。
すると、あのマネージャーの先輩が歩いているのが見えた。僕はすぐに駆け寄る。
「あのー……」
「はい。なんですか?」
「竜玄先輩の、彼女さんですよね?」
その人は、僕が『竜玄先輩』と口に出した途端にむっとした。
「何? 用があるなら早く言って。というか、君一年生だよね? 先輩に恋愛関係のことを聞いてくるとか、普通にマナーがなってないよ」
「不機嫌ですね」
「はぁ? 別に、これが普通だけど?」
「最近、彼氏に構ってもらえてなくて寂しいですか? それで不機嫌なんですか?」
「君、なんなの? 何が言いたいの?」
言葉に苛立ちが見えた。これは、僕の言うことを鵜呑みににする可能性が高い。
「竜玄先輩がどうして冷たいか、知りたくないですか?」
「ッ……。し、知りたくない……」
「本当はあなたも、薄々気づいているはずですよ。あなたの他に……」
「やめてっ!」
「好きな女子がいるって……」
「ぐっ……」
その彼女さんは、俯きながら『何か知ってるの?』と言った。当然僕はイエスと答える。
「君、名前は?」
「松風です」
「私は
「はい、僕も同じです」
急遽、図書室での話し合いが行われた。
———————————————————————
なんと、現在の生徒会副会長と図書委員長と、少しだけですが交流がありましたね。
とりあえず、過去回は次話で終わるかもしれないし、終わらないかもしれないです。明日に投稿するかもしれないし、しないかもしれないです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます