第85話

 帰宅後。夕飯を食べて、そのあとにお風呂に入った。上がってからはソファに座り体を休ませた。ため息を吐きながら上を向くと、姫の顔が僕の目の前にあった。なるほど、後ろの方から抱きつこうと思っていたのだな。姫と目が合った。


「あ……」

「お風呂、上がったよ。入ったら?」

「うん。でも、その前に……」

「その前に?」

「ぎゅー!」


 抱きつかれた。首のところに腕を回されているため、少し苦しい。


 気がすむと、姫はすぐにお風呂に向かっていった。僕はポカポカしている体を横にして、ちょっとだけ休憩していた。眠ってしまいそうだったけど、五人の女の子のことを考えていれば、なんとか目を開けられた。でも、それは最初の数分だけだった。


 ゆっくりと、気持ちよくなりながら意識が遠くなっていった。『あ、やばい』と思っていても、どうすることもできない眠気に僕は襲われた。結局寝てしまった。


 全身に重みがあるのを感じる。まだ目を瞑っていて、意識もはっきりとはしていない。ただ、僕の体に何やら熱を帯びた謎の物体が当たっている、いや、のしかかっている。


 だが、その重みのあるものは突然消えた。まるで嘘のように。なんだったんだろう、あれ。


 すると次は、僕の顔に何かが当たってきた。プニプニとしていて柔らかい。その謎のプニプニするものは、当たっては離れ当たっては離れを繰り返してくる。それに、なんか甘くて優しい匂いがする。どことなく嗅いだことのある匂いだった。


 ふにふに、ふにふに。そんな感じで当ててくる。今度は離すことなく、長時間当ててきた。


「グッ……ゴフッ……!?」


 息苦しくなり起き上がる。なんだったのかは、いまいちよく分かっていない。唯一分かったのは、目の前に姫がいることだけだった。


 ん? 姫? 上がったのか? それに、何で胸を持ち上げてんの?


「あ、起きた」

「何してたの?」

「え?」

「僕に何してたの? 姫でしょ? 息苦しくしたの、姫なんでしょ?」

「ごめん、苦しかった? お兄ちゃんが気持ちよさそうに寝てたから、何しても起きないだろうなーって思って、姫が色々してたの! まず乗っかったり、姫のおっぱいを顔に当ててみたりしたの!」


 あ、だから胸を……。


「いやいや! 乗っかるのはいいとして、自分の胸を当ててきたのか!?」

「うん!」

「はぁー……。マジかぁ……すごいなぁ……」

「何? もっとしてほしいの?」

「してほしくないって言ったら嘘になるけど、別にしなくて……」

「えい!」

「うわっぷ!」


 またやってきた。もう一度鼻に広がる甘くて優しい香り。嗅いだことのある匂いというのは、姫の匂いだったのか。


「どう? 気持ちいい?」

「う、うん……。気持ちいいし、とっても安心する……」

「えへへ! エッチだなぁ、お兄ちゃんは!」


 癒しの時間を数秒だけ過ごした。その後、全力で『お兄ちゃんと一緒のベッドで寝たい』と懇願する姫の願いを聞いてやった。そして、ベッドに入ってからも話をした。


「それで、姫は活動を休止にするの? というか、したの?」

「してないよ。これからするかもしれないけど」

「なんで? あんなに僕とエッチするために言ってたのに……」

「お兄ちゃんが姫を選んでくれたら、すぐに休止するつもり。もし選ばれなかったら、お仕事一本になる。だから……早めにお兄ちゃんには決めて欲しいの……」

「うん……」


 ベッドに入りながら、白乃、黒乃、神木さん、氷室さん、姫の五人の顔を思い浮かべた。その五人の中でも一人、のことを少しだけ考えてから、また眠りについた。

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