第83話
白乃に圧をかけられてしまい、サササとその場から離れる氷室さん。ヒョコッと出てきた白乃と交代し、横に彼女が来て、今度は僕の腕を掴んできた。そして耳元で囁いてくる。
「たっくん……? それで、私とまた付き合う気になったの?」
「まだ、決心できてないんだ。僕のことを好きでいてくれる人が、いっぱい周りにいて、それだけでも嬉しいし、幸せなことだよ。みんな優しくて、みんな可愛い。でも、その中で誰か一人を選ぶのは、まだ難しいことなんだ」
「そう……。まあ、私はいつでも待ってるから。どんなに遅くなっても、どんなに後になっても、たっくんが私を選んでくれるまで、ずっと待つよ」
「白乃……」
この子は僕のことをどこまで好きなんだろう。彼女の言葉は本物で、嘘偽りではないはずだ。こんな優柔不断な僕を、これほどまでに好きでいてくれている。普通の幼なじみにはないものだ。
すごく嬉しくて、目頭が熱くなってきた。やばい、なんか泣きそうなんだけど……。みんながいるのに、恥ずかしいところ見せたくないな。止めるために僕は押さえる。
「……というセリフを言えば、私を選んでくれる確率が高くなるはず!」
「……」
出そうだった涙はすぐに引っ込んだ。
「演技かよ。幻滅したよ、白乃。スッゲー嬉しかったのに」
「演技? いや、本音だけど?」
「はあ……。もう何が何だか信じられなくなったよ」
「あ、ちょっとぉ! なんで腕を掴ませてくれないの? もしかして恥ずかしいの?」
「それもあるけど、普通に暑いからやめてほしい」
「さっきは氷室さんとハグしてたのになー。氷室さんにはそんなこと言わなかったじゃん」
「だって、急にハグしてきたから……」
「ふーん。それなら、私も急にハグすればくっついていられるんだよね? そういうことだよね?」
ぐいぐいと迫ってくる白乃。先ほどのいい感じのムードはどこに行った。しかもそれを、自分から壊しにいくというのはどういうことだよ。白乃は大きく腕を広げて、ハグをする準備が整わせた。あとは僕の胸に突撃するだけで完成。高校生の男女によるハグである。
「えい!」
「どわっ!」
白乃の飛び込む勢いが強くて、後ろに少し動いてしまった。やってきた本人は満面の笑み、とても可愛らしい。やはり、いつ見ても白乃は美人だと感じる。その美人な子と、目元を隠していない氷室さんは、おそらく同等の美人さんだと思われる。神木さんはというと、美人というよりは超絶可愛いアホな子、みたいな感じだ。どちらにせよ、三人とも顔が整っていることに間違いはない。
白乃が僕に抱きついているこの状況、他の二人はどう思っているのだろうか。神木さんは頬を膨らませている。つまりは妬いているということだ。一方の氷室さんは、落ち込んだように下を向いている。
「どうしたの、氷室さん?」
「もう! 私とハグしてるんだから他の子の場合じゃないでしょ!」
「いや、だって……」
氷室さんを気にかけていた僕だったが、白乃のせいで落ち込んでいる彼女に声をかけることを阻害されてしまった。
そのあとは、いつものように神木さんと白乃による僕の取り合いが繰り広げられた。氷室さんは羨ましそうにそれを眺めていた。変わらず複数人で道を歩いた。
****
「あ、では、私はここで……」
「氷室さんって電車通学だっけ? そんなに家遠いの?」
「いえ、いつも駅中のお弁当を買っているんですよ。家はここからちょっと歩いたところにあります」
「そうなんだ。でも、駅だけど大丈夫? あの時みたいに、君の可愛い姿を見てチャラい男たちが寄ってくるかもしれないよ?」
「か、可愛い!? あ、あんまり面と向かって言わないで下さいよぉ……! うぅ……!」
しまった。勝手に口から出てしまっていた。氷室さんは、聞いた途端に顔が赤くなっていく。なんか僕まで恥ずかしくなってきた。
「そ、それで! 大丈夫なの?」
「はい……! こうして、いつもの感じにすれば……!」
前髪をいじる氷室さん。目元がすぐに隠れた。いつもの氷室さんには戻ったのだ。
「あ……戻すんだ……」
「なんですか? もっと見たいんですか? でも、男の人たちに声をかけられる可能性が高いんですよねぇ〜。私のことを守ってくれる人がいればいいんですけど……」
チラッ、チラッ。隠れている目元の前髪の間から、僕に視線を送ってくる。氷室さんは僕に守ってもらいたいのか。でも家には姫がいて、帰って早くご飯を作ってあげなければならないという使命が僕にはある。
「もっと見たいよ……。見ていたい……。時間があればいいんだけど、妹が……」
「いえいえ、いいんですよ! 私のワガママよりも、妹さんとの時間を大切にしてください! 仲のいい兄妹なんですね!」
「うん、本当に仲が良いんだよ。キスをするぐらいにはね!」
「え……」
「なっ!」
神木さん!? な、何言ってくれてんの!?
「神木さん、その話、詳しく聞かせてもらえないでしょうか? どういうことなんでしょうかね?」
「いや、氷室さん? 別に僕の家族構成のことなんて良くない? ほら、お弁当が買えなくなるよ?」
「前に松風の家に行ったんだけどね、その時にその妹ちゃんとキスしたのよ。ヤバくない?」
「神木さんもノリノリで話さなくていいから!」
すると白乃が、二人の間に入ってきた。お? 止めてくれるのかな?
「しかも、その妹ちゃんは義理の妹よ?」
「「え……」」
白乃は二人を止めることなどせずに、自分の知っている情報を、真顔で伝えた。
「は? 本当の、血の繋がった兄妹じゃないの?」
神木さんが聞いた。そういえば、神木さんは僕と姫を血の繋がった仲だと思っていたな。
「全く血なんて繋がってないわよ。血縁関係は皆無よ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……! ということは、義理の妹とキスして、その義理の妹が家にいるってことですか?」
「そうなるわね」
「あー……」
先ほどまで、『自分のことはいい』などと言っていた氷室さんだったが、血縁関係についての話をきいてから、その発言をすぐに撤回し、僕の手を取って駅へと引きずり込んだ。手は自然と恋人繋ぎになっていた。
「松風さん。やっぱりあなたも来てください。これは強制です。家になんて帰らせませんよ」
後で姫に電話しとこう。姫には申し訳ないが、帰るの遅くなるって伝えておこう。
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二十万字達成です! いやぁ、ここまでよくやってこれたなって感じです!
そしてやり残していることはあと一つ! 残りの話数で100万PVを達成したい! あと10万ほどです! いっぱい読んでくれぇ! 頼みますぅ!
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