第49話
畳に連れてこられた。テレビも机もあるため、ここが本来のリビングなのだろう。
ここまで僕を家に入らせようとするのは何故だろう。さっきからずっと疑問に思っていた。何か狙いがあってのことだろうか。それともただ純粋に、僕のプリントを間違えて持って帰ったことに対する謝罪のつもりなのか。どうなんだ? 分からない。
神木さんは近くにあるキッチンでカチャカチャと音を立てながら、何かをしている。
「松風ー? 何飲みたいー? ただし種類は限られてて、望んだものが出せるかは分からないけどね」
「冷たい飲み物でお願いします」
「ざっくりだなー。ま、おっけー。じゃあこれかなー」
そう言って持ってきたのは、透明のコップに注がれたグレープジュース。二人分のコップがおぼんに乗っていた。先程の音は食器棚から取り出していた音だったのだ。
畳に置いてある机に、おぼんごとそれを置く。冷やしていたのか結露しているのがうかがえる。そのグレープジュースの紫色が鮮やかだった。
「はい。どうぞ」
「あ、ありがとう……」
コップを受け取り、遠慮なく僕はそのジュースを飲んだ。あ、これ……。あれだ……。
「アタシ、それ好きなんだー」
「これって、この間の時の……」
「そうそう。アタシと間接キスした時の、あの缶ジュースと同じやつだよ」
「ッ……」
「なぁにー? どうしたのかなぁ? 松風ぇ?」
「い、いや、美味しいなぁって……」
「顔赤いよ?」
思い出して恥ずかしくなってしまった。表面に出てしまう僕を、神木さんはニヤニヤしながらいじってくる。
「うん。美味しいねー」
「……」
「何よ? そんなにじっと見つめて」
「いや……」
隣に座ってきた。神木さんがグビッと飲むと、大きな胸が強調されてしまい、その方を自然と見てしまう。
僕と白乃と別れて帰宅したあとに、この子は着替えたのだろう。制服ではなく、ラフな普段着に。姫がドリンクでダウンして、自販機に行っていた時に会ったのも、こんな感じの服だった。
正直可愛い。率直な感想がそれだった。
「最近暑いよねー」
「うん。そうだね」
「……」
「えっ?」
コツンと、突然左肩に重みが加わる。神木さんが僕の肩に頭を預けていた。
「足、くずしたら?」
「うん……」
正座をやめて、あぐらに直した。やはりこちらの方が楽でいい。気遣いもできるあたり、神木さんは優しい子だ。
「ねえ、松風?」
「は、はい……」
神木さんは、僕の方を見る。僕の方が体が少し大きいから、ちょっとだけ上を見るような体勢になる。
上目遣いだ。
「正直に言ってね……」
「うん」
「アタシに惚れた?」
何度もされた質問には、何度も返した答えがある。
僕は……。
「惚れてない」
そう言った。
****
少し経っても、神木さんは同じ質問をしてくる。僕はそれを同じ答えで返していく。流石に神木さんにも不満があるらしい。
「むぅ……! もういいじゃない! 惚れたって言いなさいよ! 強がらないでよ!」
「何度も返答してるけど、本当に惚れてないんだって!」
「嘘だー! 絶対嘘だー!」
「嘘じゃないってば!」
指差しでそんなことを言っている神木さんは、まるで子供のようだった。いや、意外と本当に子供なのかもしれない。
「じゃあ証拠を出しなさいよ!」
「なっ! 惚れてるかどうかなんて、証明のしようがないじゃないか!」
「ならテストすればいいじゃない!」
「テスト?」
「そう、テストよ。アタシが松風に色々するから、それでドキドキしなかったら、本当にアタシに惚れてないって認めてあげる」
「それで惚れてないってことになるの?」
「はいスタート!」
「えっ!? ちょっと!?」
すると神木さんは、僕に顔を近づけてきた。じーっと僕の目を見つめてくる。同様しつつも、僕は見つめ返す。もうこの時点で少しドキッてるんだけどな。バレないようにしなければ。
すすす、と胸を撫でてきた。そして心臓の鼓動が一番分かるところに手を押し付ける。
「んふふー!」
またニヤニヤしている。
次は体を密着させてくる。僕はバランスを崩して、畳に倒れるような体勢になってしまった。それをチャンスと見た神木さん。もっと距離を近づけてくる。
吐息が当たる。神木さんは僕の首元の匂いを嗅いできた。
「すんすん……」
「ぐ……。ちょっと……」
鼓動がより速くなる。未だに胸に手を当ててきているため、それが直に伝わっているであろう。すると神木さんは……。
「れろ……」
舐めてきた。
「うわぁっ!」
「ペロ」
「ぐっ……。くっ……」
舌の触り方が気持ちいい。首元は以前白乃にキスマークをつけられてからは、何もされていない。
いやらしい音だ。僕は何度聞いたことだろう。今までのキスの時の音や、姫を責めた時の音と同じ。
僕の鼓動はもっと速まる。さらに強く重くなっていく。
「はい、終了! めちゃくちゃドキドキしてんだけどぉ?」
「ッ……」
「惚れてるってことでいいわよね?」
「よくないよ……。僕は神木さんに惚れてない……」
「あははっ! 松風は本当に可愛いなぁ……」
悔しかった。こんなことをされるために、僕は家に上がったわけじゃない。何なんだよマジで。めちゃくちゃだよ、神木さん。
「じゃあ……」
「んー? 何よ?」
「じゃあ、神木さんはどうなの?」
「え?」
「神木さんは僕に惚れてるんだよね?」
「そう、だけど?」
「なら、確かめさせてよ」
「へ?」
「僕も色々するからさ。ドキドキしたら、神木さんの中では、それで惚れてるってことになるんだよね?」
「な、何を……。きゃっ!」
神木さんが僕に覆い被さっているのを、力でひっくり返して、逆に僕が覆い被さるようにした。
「はい、これで形勢逆転だね」
「ん、んぅぅ……」
「なんか保健室の時みたいになってるね」
「うぅ……」
「どうしたの? 震えてるよ? ……って、神木さんに言ってたなぁー。ま、今もだけど」
顔が赤くなっていて、さっきまでの余裕が消えている。察するに、おそらく不安だ。あの時と同じような体勢。同じような空間。二人だけで、他には誰もいない。
そして何より、保健室の時と同じような、神木さんが怖がる僕がいる。
「それじゃ、まあ、やろうかな……」
神木さんは、『はあはあ』という息を漏らしている。そして耳元でこう囁く。
「今度は、僕の番だ……」
———————————————————————
次回『神木死す(性的に)』
どうも姉線香です。
略称決定しました! 発表します! 自分の使おうと思う略称は……。
『幼ヤン』です!!!
なんか『サワヤン』みたいだけど! なんかヤンキーが出てきそうだけど! なんか良い!
別に自分が使うだけなので、読んでくださっている方に強要はしませんので、個々に呼びやすいものを使っていただければなと思います。
それと! 案を出してくださった方に本当に感謝です! ありがとうございました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます