第46話

 バチバチバチ。僕の両隣から放たれる、二人の眼光は、そんな火花の音がする。いや、実際にはしていないのだけれど、表現するならこれがいいだろう。両隣と言っても、横に並んで立っているわけではなく、神木さんと白乃は僕の腕をがっしりと掴んでいるのだ。


 二人にそうされながらも、今、学校を出て道を歩いている。当然、人目につくというのは回避できない。多くの人の前に、この状況を晒され、羞恥に耐えられなくなり下を向いて歩いた。


「ねえ、たっくん? どうしてここに神木さんがいるのかなぁ?」

「それはこっちのセリフ! なんで五十嵐さんがいるのよ! アタシは松風と一緒に帰るって約束してたの!」


 あれ約束か? 約束だったのか? 勝手に図書室で待ってたのは神木さんの方だろ。無理やりだったはずなんだけど……。


「へぇ……。じゃあ私もたっくんと約束してた!」

「してねーよ。会議終わった途端に誘ってきただけだろ」

「もう! たっくん! しー、だよ!」


 白乃は人差し指を口元につける。言うな、と伝えているのだ。というか、それ。なんか可愛いな。何気ない仕草に、少しドキッとした。


 でも、これだけは言わせてほしい。


 僕は歩きにくい、と。



 ****



「はーい残念! アタシはちゃんと約束してましたー!」


 まだ言い争いが繰り広げられていた。


「そう言う神木さんも、無理やり誘ってきたよね。約束って言えるのかな?」

「や、約束だもん!」

「へぇ……」


 自分勝手な神木さんをちょっとだけ睨んでみた。


「うぅ……。ご、ごめん……! そんなに怖い顔しないでよー!」

「ほら、たっくん! 神木さんとじゃなくて、私とイチャイチャしようよ! 恋人繋ぎしよ?」

「あぁー! ア、アタシもするし!」

「別にどちらにも求めてないんだけど……」


 自然と繋ぐ白乃に続こうと、神木さんも僕の手を取る。でもなぜか、持ったまま繋ごうとはしなかった。


「なぁに? 躊躇してるの、神木さん?」

「し、してないし!」


 してるだろ。完全に。


「どうかしらね……。ふふ……」

「なっ! わ、笑うな!」

「二人とも静かにしてよ……」


 周りを気にした僕は、そう呼びかける。未だに躊躇している神木さんは、


「い、いくよ……?」


 と、色っぽく言ってくる。ねえ何それ。可愛いしエロいし。僕って意外と心が汚れているのだと分かった瞬間だった。別にエッチなことでもなんでもないんだから、早くすればいいのに。


 はあ、もう……。めんどくさい。僕は強行に及ぶ。僕からギュッと神木さんの手を握ってやった。


 スベスベとした肌の触り心地。色白で綺麗な、小さな手。そして爪には色が塗ってある。


「ひゃあ!?」

「何?」

「い、いや……その……」

「もしかして、恥ずかしいの?」

「ち、違うし!」

「でも顔赤いよ?」

「あ、赤くなってない!」

「なってる」

「なってない! もう! 松風ってホントにイジワル! 違うって言ってるじゃん!」


 だって事実なんだもん。事実は正直に言わなきゃいけないんだもん。神木さんの反応が可愛くて、ついつい面白がってしまう。


 まあ、これも全部神木さんの自業自得だ。今日一日僕は、神木さんのペースだったし、赤面ばっかさせられてたし。逆に神木さんは楽しそうに笑っていたし。


 悔しい! 悔しくて仕方がないのだ! これはもう、なんか……。うん! 神木さんが悪い!


「あー……。白乃?」

「んー? どーしたのー?」

「睨んでて、すっごく怖いんだけど……」

「睨んでないよー?」


 会議の時とは大ぎく違った笑いがそこにはあった。目は僕を睨んでいて、口元は笑っているように見える。うわー。何この怖い笑顔。笑顔に怖いとかあるのか分からないけど、僕には白乃が微笑んでい……ないな、うん。


「恋人繋ぎって、なんか落ち着くね」

「そうかな、神木さん?」

「でも、アタシだけなのかも。だって松風と一緒にいる時はずっと落ち着くし」

「ッ……」

「あ、それもそっか! アタシは松風のことが好きだもんね! 好きな人と一緒にいれば、自然と落ち着くもんね!」


 あ、反撃されてる。そして僕にはすべてその攻撃が直撃した。顔が熱くなってきた。


「ねえたっくん? 恋人繋ぎってさ……名前の通り、恋人同士がする繋ぎ方だよね?」

「そうだと思うけど……」

「神木さんってたっくんと恋人同士、つまり付き合ってるの?」

「あっ……。い、いや……付き合ってはいないけど……」


 神木さんは、僕と白乃が付き合っていると知っている。でも僕と白乃が付き合っていたのは、昨日までの話だ。そのため、今の状態はただの幼なじみというだけである。


 神木さんはこれまでの事実を今もそうだと思っているのだろう。流石に言うべきか。


 だが待てよ? あの保健室の時、白乃は僕に会いにきて、そのあと教室に戻って行ったが、神木さんがあの場にいることなど気づいていなかった。なら、説明が必要だな。白乃が僕に対して、腹が立たない程度に。


 二人に説明をした。神木さんには、僕と白乃が分かれたことを。白乃には、神木さんが以前から僕たちが付き合っていると知っていたということを。小さく『ああ、そう……』と白乃は了解を出した。はい失敗。僕は白乃にもっと睨まれる羽目になってしまった。まあいいか。怒らせたとしても、監禁されることはないんだから。


「いやったぁぁぁぁあ!!! チャンスきたぁぁぁぁあ!!!」

「しー……」


 近所迷惑になるから、という意図だろう。僕ではなく白乃がもう一度口に人差し指をつける。やはりこういうところは変わらない。


 でも一緒に帰っている中で、神木さんにそこまでマウントを取っているようなことはなかった。


 何か、白乃が変わっているように思えた。



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 あと! 略称なんですけど、現在選考中です! 別に自分だけが使うんで、人に強制させるとかじゃないです。自分のしっくりくるやつで略してください。


 今後ともよろしくお願いします。

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