第45話

 放課後。またまた僕は会議室にいた。


 扉の向こう側からはスタスタと足音が聞こえてくる。帰宅するのか、部室に行くのか、はたまた僕のように会議室に来るのか。どれもさまざまだ。僕は本を読みながら、人が集まるのを待った。


 ガラリと扉を開けて、委員会に属している人たちがどんどんと入ってくる。この前と同じメンバーだった。それもそうだろう。なんせ絶対に他の人と交代はできないのだから。もし出来るなら今すぐに僕が変わってやりたい。


 それもこれも、全てはあの子のせいだ。あの子が勝手に僕を指名したのが原因だ。


 そう。この委員会の副会長を務めるあの子。生徒会でも好評のあの子。


「失礼します」


 ハキハキとした声で、会議室に人が入ってきた。色素の薄い髪を揺らして、肌も真っ白で綺麗。そしておまけに美人な容姿。おっと、ご本人の登場のようだ。


 神木さんの時と同じように、僕はその子を確認すると、無意識に声が出てしまった。


「「あ、」」


 重なる声はあまりにも小さかったため、周りの人には聞こえていない。白乃が入室してくるまで、仲のいい友達らしき人と話していた者は、扉を開けて登場する彼女に、皆釘付けだった。それは僕の声が聞こえてこないほどに。


 そんなことはお構いなしに、誰かに対して白乃はニコッと無言で笑う。とても可愛らしい仕草だった。そして、会長の隣の席に向かっていった。彼女が席に座ると、今度は完全に目が合ってしまう。また白乃は微笑んだ。


 何それ。なんだか今日は、微笑みが多い気がする。神木さんもそうだし、今の白乃もそうだ。どちらともすごく可愛いし、なんなのホント?


 だが僕は神木さんの時のようにはいかない。だって昨日のことがあるんだもん。昨日、白乃を拘束して胸をイジりまくって、尿意我慢させながら……。まあ、それが悪いことだとは思ってないけれど、でも、やりすぎたとは感じている。


 スッゲー気まずい。


「失礼します。お、皆さん揃ってますね」

「はい。では、早速始めましょうか」

「そうですね」


 こうして会議が始まった。



 ****



「———というのが、保健委員会で出された役員です。こういうのでよろしいのでしょうか?」

「はい。結構ですよ。しっかりと考えていただき、ありがとうございます」

「は、はい! こ、こちらこそ!」


 保健委員に所属しているその女の子は、白乃の感謝の言葉を聞いた瞬間に声が高くなった。なんだよ、それ。魔法の言葉かよ。


 それはそうと、保健委員の説明が終われば、次は僕の番になる。休日前の図書委員会の会議で、決めたものを説明すればいいだけだ。


「えー……図書委員は、体育祭で使用する用具の準備、片付けを主に行いたいと思っております。これは、各競技の直前にはもちろんのこと、体育祭前日の準備も、図書委員会が行うということになります」

「はい! ありがとうございました! 頑張ってくださいね!」

「え……。あ、はい……」


 元気な返事の後に、またニコッと笑う。はあ……。マジでなんなんだよ、それ。僕だけにやってるのは分かるんだよ。でもさ、どうしても僕の周りの人が反応しちゃうんだよ。すっごく視線が痛いんだよ。目立ちたくないんだよ、本当に。頼むよ白乃……。


「ではこれで、すべての委員会代表による説明が終わりました。司馬先輩からは、何かありますか?」

「別に何も。すごいですね。キッチリと意見が分かれて。どの役員を決めるのか、毎年対立するそうなんですがね」

「はい。奇跡的ですね」


 本当に奇跡か? 前みたいに僕を、図書委員会の委員長である藤ヶ谷さんに直談判して決めさせたのではないかと、僕は考えている。白乃は面倒が嫌いだからな。後のことを見れば、せっせと自分から動くタイプの人間だ。


「それでは、今日の会議はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした」

「「「おつかれさまでしたー」」」


 一斉にガタガタと立ち上がる。僕もその生徒の中に入っていた。


 すると……。


「待って、!」


 と、僕をあだ名で呼んできた。その声が聞こえて、見向きもせずに立ち去る人はいない。キョロキョロと見渡すと、会議室にいる全員の目が僕に集中していた。


 白乃は僕に近づいてくる。


「一緒に帰ろ……?」

「一旦ここ出よっか。死ぬかもしれないから」

「え? 帰ってくれるの? 嬉しい! やったぁ!」

「静かにしてよ……」


 会議室からは出たというのに、未だに見られていると体で感じる。僕は白乃の手を引いて、神木さんの待つ図書室に向かった。


 ……と、その前に。人目の少ない、図書室の近くの階段の踊り場で、白乃を説教をする。


「やめてよ! 人の前であだ名で呼ぶの!」

「どうして? 私はいつもたっくんのこと、そう呼んでるじゃん」

「僕が目立ちたくない人間っていうの、分かってるよね?」

「うん! もちろん! たっくんのことはなんでも知ってるからね!」

「知ってるんだったら、なんで……」

「いちいち使い分けるの、とってもめんどくさいから」


 あーもう! 面倒が嫌いだったな、そういえば!


「見られてて、すごく嫌だったんだけど……」

「いいじゃんいいじゃん! もう終わったことなんだし!」

「そういう問題じゃ……」

「あれ、声がする……。松風ー? 会議終わったのー?」


 神木さんが階段を上がってきているのが分かる。今思うと、図書室の近くの階段はダメだったか。神木さんは僕と白乃が二人でいるところを、バッチリと目で確認した。


 なんでいつもこうなるんだよ……。


「むぅ……!」


 神木さんは頬を膨らませていた。対照的に、白乃は顔をニヤつかせている。


 窓から入る微かな夕焼けの光は、対立している彼女たちを照らしている。そのせいで、神木さんの僕に対する不満で、顔が赤くなっていることが分からなかった。







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