第44話

 昨日のことを簡潔に説明しよう。


 一、白乃わからせ。二、姫わからせ。三、姫とのキスを神木さんに目撃されてしまう。


 いや、今考えたらなかなかにヤバいことをしているな、僕。そもそも美少女二人を分からせたという点で、かなりのヤバさを放っている。当然性的な行為でだ。それにそのプレイも、白乃の方は拘束で、姫の方はイチャラブ的なやつだった。


 一と二は、学校生活にそこまで影響を及ぼすことはないと思われるが、三はどうだろう。以前から神木さんは僕に対して好意を抱いていると、直接言ってきた。さらに、僕を保健室に半ば強制的に連れ込み、胸を触らせてきた。


 そう、彼女は僕が好きだということ。これは事実だ。なら、好きな男子がキスをしているのを目撃してしまえば、不機嫌になるのは必然。次に会うのがとても難しくなるはずだ。


 でも、どうしてだ? どうして彼女はここまで僕と普通に会話ができるんだ? そしてどうして僕と一緒にお昼を食べているんだ?


 どういった心情なのだろう。


「んー? どうしたのよ、松風?」

「なんでまた一緒に食べてるのか、さっぱり分からなくてさ」

「松風のことが好きだから」

「ッ……。あんまりそういうこと、聞こえるような声で言わない方がいいんじゃない?」

「それこそさっぱり分かんないんだけど」

「え、だって僕のことが好きだとか……。だって僕、陰キャだよ?」

「だから何?」

「え?」

「だから何よ。アタシはアンタのことが好きなの。陰キャとか関係なく、アタシはアンタのことが大好きなの」


 なんなんだよこの子は。そんなことを平気で言ってきて、僕をからかってんのかよ。正直照れてしまう。熱くなってきた。


「アハハッ。顔赤ーい!」

「ッ……」

「照れてんのぉ? 可愛いなぁ松風は!」

「ぐぬぬ……」

「はい、あーん……」


 なんでこんな時にするんだよ。流石に僕は拒否をする。


「むぅ……! なんでよ!

「君と僕じゃ釣り合わない……」

「は?」

「神木さんは可愛いし美人で綺麗だよ。僕じゃ釣り合わない……」

「釣り合うわよ? ほらっ!」

「どこが———ッ!?」


 神木さんは、急に僕の前髪を上げてきた。……ていうか近っ。超至近距離に、神木さんの大きくて可愛らしい目がきている。唇がくっつきそうなほどの距離だった。


 神木さんは僕の顔を、下から覗き込むようにして見てくる。いきなりだったため、椅子にのけぞっている僕は、後ろから転倒しそうだった。


「な、なに……?」

「うん。やっぱり、松風はイケメンだよ……」

「何言って……」

「カッコいい……」


 神木さんの吐息が肌に当たる。


「は、離れてくれるかな? 今にも倒れそうなくらいなんだけど……」

「あ、ごめん」


 素直にどいてくれた。僕はくしゃくしゃになった自分の前髪を直す。


「はあ……。何するのさ……」

「確認だよ。松風の顔面偏差値のね」

「じゃあ、僕の偏差値はどれくらい?」

「偏差値ってなんだっけ? アタシよく分かんない」

「じゃあ点数では?」

「えーっとねー……100点満点中……」

「うん」

「二億点」

「限界突破してるよ、それ」

「ちなみにアタシの意見しかないよ」

「知ってる」


 なんかこのやりとり、姫とやったような……。確か電話越しに話していた気がする。それで、僕の顔のカッコ良さが上の上とか言ってたな。


 今ごろ、撮影をしてるかな。


「アタシはー?」

「ん?」

「アタシの顔の点数は?」

「あー……」


 なんて言おうか迷ってしまう。高得点なのは確定しているのだが、どう言おうか。80点とかだと、なんかキリが悪くて微妙な感じがしてしまう。神木さんも怒ってきそうだし、どうしようかな。


 いっそのこと100点って言ってしまうか。いや、ダメだ。僕が赤面する。そしたらまた『顔真っ赤ー!』とか言って、イジってくるに違いない。


 そうだ。なら、逆に赤面させればいいのでは、と僕はひらめいた。


「二点」

「低っ」


 そしてボソッと、


「二点中ね……」


 と、言ってみた。


「へ?」


 さあ、気づくかな? 実は100点だということに! さあ! どうだ!


「え、えっとー……」


 お、気づいた! さあ早く赤面しろ! 僕のことを散々赤くさせた罰だ! くらえ! 


 すると神木さんは、ちょっとだけ首を傾げながら、


「ありがとう、松風!」


 と、今まで僕に見せた笑顔の中でも、最高の笑顔でそう言った。


 それが可愛すぎて、また僕は顔を赤くしてしまった。



 ****



 もう嫌だ。何をしても神木さんに上をいかれてしまう。今日は完全に彼女のペースだったな。悔しいな、本当に。


 今だって、終礼中に横腹をツンツンと攻撃してくる。


「えいえい!」

「やめてよ」

「えい! えい!」

「やめてってば」

「えへへ!」

「ッ……。また笑って……」


 クソッ! なんでこんなに可愛いんだよッ! そのせいで怒れないよ! ヤバい、誰か助けてくれ! もしくは早く学校が終わってくれ!


「……てことで、気をつけて帰れよー」


 やっと終わったか。僕は席から離れる。


「ねぇ松風! 今日は一緒に帰ろうよ!」

「ごめん、今日は会議があるんだよ」

「なんの?」

「体育祭の」

「ふーん……」


 おそらく、その会議が終わるまで僕を待とうとしているのだろう。口に手を当て考える彼女に、僕は追い討ちをかける。


「長いよ?」

「でも待つよ。松風と一緒に帰りたいから」

「マジかよ……」

「何よ、嫌なの? アタシ泣くよ?」

「わ、分かったよ……」

「図書室で待ってるから! それじゃあね!」


 そうして僕たちは、それぞれの向かうべき場所に歩いて行った。



———————————————————————



 神木さん回です。そして! 突然なんですけど!


 どなたかタイトルの略称を考えてもらえないでしょうか!


 案があれば、こちらの応援コメントか近況ノートのコメントでお願いします!










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