第43話

 ベッドの上で、女性が一人座っている。寝転がったり、また起きたりと、どこか忙しない様子だ。何度も何度も動いているため、シーツがシャカシャカと音が鳴る。


 というか、この人は誰だ? そもそも、僕はこれをどうやって眺めているんだ? 彼女は僕のことに気づいていないようだし、なんか夢見心地な視界だし。宙に浮いた感じでその人の方を見ている。


 わけが分からなかった。どこだよ、ここ。なんなんだよ、これ。


 すると……。


「松風ぇ……!」


 その声を僕は聞いたことがある。鈴のように綺麗な声で、僕のことを苗字でいつも呼ぶ人だ。それは神木さんの声だった。


 後ろ側の視点のためはっきりとは見えないが、足を開いている模様だ。そして、そこの股の真ん中に腕を伸ばしているのが分かった。喘ぎ声とその行動、それらで僕は完全に察してしまう。僕の苗字を呼びながら、一人で……。


 そして急に視点が変わる。今度は前からの視点だ。


 うん、完全に神木さんである。すごく整っている顔には汗がダラダラと流れている。それは滴り落ちるほどのもの。暑さと興奮の両方のせいだ。


「はあはあ……。んっ……!」


 息も乱れていて、なんともいやらしい。


「松風ぇ……。ひあっ……! あんっ……! ヤバいぃ!」


 喘ぎ声は段々とエスカレートしていく。そろそろ絶頂するのだろう。


「気持ちいい……! いい……!」

「うわぁっ!?」


 そこでバッと目が覚めた。今のは夢だったのだ。おそらく今までで一番いやらしい夢だった。エロすぎる。


「はぁ……。なんであんな夢見ちまうんだよぉ……」


 時計を見てみると、午前四時を指していた。いつもなら、まだ寝ている時間帯だ。


 神木さんが一人でしてるところを夢で見て、もう一度寝直すことが出来るとは思えない。もう眠気など覚めてしまった。


 そのため二度寝はせずに、朝になるまで起きていた。



 ****



 もう家には僕しかいない。父さんも、母さんも、姫も、誰もいない。三人とも、仕事ですでに戻っているのだ。撮影のために現場に向かう者もいれば、大型企業の責任者として動いている者もいる。僕一人を残して……。


 別にそれが嫌というわけではない。ただ少し寂しいくらい。仕事が外せないのは当然だ。しかも仕事をしてくれているおかげで、僕はこうして朝食を食べられている。そこには普通に感謝しているのだ。


 でも、朝食が喉を通らない。お腹は空いているはずだ。僕は二つのことを思い出す。姫のことと、神木さんのことだった。


 どちらも自分たちでしていたことだ。マズい、ますます喉を通らなくなってしまった。


 結局、全く胃に入らずに学校に向かった。


 いつもと同じ道をただ歩く。なんの変わるようなこともなく、続いていく道を歩いていく。家からそんなに遠くはないため、無意識に足を動かしていたら学校に着いた。


「「あ、」」


 一人の女子生徒と目が合う。お互いに確認した声が聞こえる。僕は彼女だと確認できた瞬間に顔が赤くなってしまった。多分、今日限りのことだと思うけど、神木さんとは色々と顔を合わせずらいのだ。


 僕がそっぽを向く前に、神木さんの方も僕からプイッと逆方向に向いてしまった。それから一緒に登校している陽キャ集団と昇降口に入っていった。


 昨日の姫とのキスを見せてしまったのは、流石に痛手だったか。まあアレは姫が絶対に姫が悪いけど。ちゃんと分からせたし、ごめんなさいも言ってくれたし、とりあえず許している。


 だがどうだろう。僕、父さんが言っていたように本当にリンチされるかも。その可能性はゼロではない。嫌だなぁ。痛いのも殴るのも嫌いだし。憂鬱だ。


 教室に入って、自席を目指す。これは学校に来ればいつも行っていることだ。


「「げっ……」」


 そういえばそうだった。席替えなんてしていないから、まだ神木さんとは隣同士じゃん。


「な、何よ『げっ……』って! アタシと会うのそんなに嫌なの?」

「嫌というか、会いにくいというか、すごく気まずいというか……。まあ、僕にも色々とあるんだよ」

「あ、アタシだって松風と会うの気まずいし! 昨日のアレ見せられたらさ!」


 神木さんの口から『松風』という言葉が出てきて、僕の体がピクッと反応した。今朝の夢のことを思い出してしまい、急激に顔が熱くなってくる。僕はそれを見られまいと手で覆う。


「何やってんの……?」


 少し落ち着いてから神木さんに聞く。


「昨日のこと……」

「何よ?」

「誰かに言った?」

「さて、どうだろうねぇー!」

「教えてよ。僕リンチされるかもしれないからさ」

「んふふー!」

「笑って誤魔化さないでよ」


 なんかイライラしてくる。神木さんが可愛くて、もっとより一層イライラしてきた。


 しかも彼女は僕に近づいてきて、


「アタシのこと……これからオナペットにするんだったら、教えてあげないこともないけどね……」


 と、囁いてきた。


 また夢を思い出してしまう。それと同時に、落ち着いていたはずの顔も、また赤く熱くなってきている。


「アハハッ! 顔真っ赤!」

「ッ……」

「フンッ……。松風のバーカ……!」


 その時の神木さんがとても色っぽかった。


 休日明けの月曜日。神木さんにしてやられてスタートした僕の一週間。波乱の予感しか感じられなかった。



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 運営に警告を受けるその日まで! 俺は! エチエチなのを! 書くのを! やめない!

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