第12話

「それじゃあ、生徒会の五十嵐さんからの要望で、松風くん、君を『図書委員代表の役員』として推薦するとのことだそうです。私もそれは了解済みです。そういうわけなので、頑張って下さいね」


 藤ヶ谷さんは、そう言って立ち上がった。図書委員長である彼女は、代表に僕を任命したということを伝えて、この場を後にしようとしている。藤ヶ谷さんのスカートが、ふわっと揺れた。


 白乃の言っていたことはこれだったか。たしかに昨日、直談判をしたというのを聞いたような気がする。そしてそれを了解する委員長。


 僕が役員で会議に出るのは確約されたことだった。仕方がないな。


 この場に白乃はいないから、僕はきちんと返事をした。


「……はい、頑張ります」

「君はやる気があっていいね。とりあえず、明日の委員会は、体育祭の一回目の役員会議と被っちゃってるから、出なくていいよ」

「ありがとうございます、委員長。でも良いんですか? 学級文庫の移動とかの、本を使った作業はしないんですか? 必要に応じて、力仕事とかはしますよ?」

「明日はそんなハードな作業はしないつもりだから、心配しなくて大丈夫だよ」

「そうなんですか。なら僕は役員会議で、何をするのか内容を把握してきますね」

「うん、よろしく頼むね。それじゃあ、話し合いは終了ということで」


 藤ヶ谷さんは愛読しているミステリー小説を片手に、図書室の扉を開けた。ガラリと音が鳴る。


 僕も早く帰ろうかな。心理学の本の『恋愛について』というページを閉じて、帰路についた。



 ****



 翌日。僕は会議室にいた。


 クソほどどうでもいいことだが、会議室って意外と広く感じた。


「それでは、今から第一回会議を始めたいと思うんですけど……まだ来ていない代表の人がいるみたいですね。すみませんが、皆さんお待ちいただけますか?」

「はい、分かりました」

「たーっくん! おつかれー!」

「しー。静かにしてよ、白乃。みんな黙っているんだから」


 ヒソヒソ声で伝える。白乃は首をかしげて、何を言っているのか分かってないようだった。


「これから一緒に頑張ろうね!」

「僕の話聞いてた?」


 どこまでもはしゃぐ白乃が、僕の隣の席にいた。かなりハイテンションだな。ニコニコ笑顔が可愛い。素直にそう思った。


 まあ、そのニコニコ笑顔が、ニヤニヤ笑顔に変わるのは今日はいつだろうな。


 そんなことを考えていると、会議室に続々と人が集まってきた。それに気づいた白乃は、そそくさと僕の隣から離れて、圧倒的な存在感を放つ、司会進行役の座る、一番前にある席についたのだ。


「皆さん揃ったようなので会議を始めたいと思います。よろしくお願いします」

「「お願いします」」

「では、まず最初に自己紹介から」

「この度、体育祭実行委員長に任命されました。生徒会副会長の三年A組の『司馬しばわたる』と言います。この度はどうぞよろしくお願いします」


 司馬さんの自己紹介の後に、パチパチと拍手がされた。そのあとに、今度は白乃が立った。


「この度、体育祭実行委員会副委員長に任命されました。生徒会書記の二年A組の『五十嵐白乃』と言います。皆さんと一緒に、三年生の先輩たちの記憶に残るような体育祭にしたいです。どうぞよろしくお願いします」


 小さくお辞儀をして、席に座る。司馬さんの時の拍手とは違い、会議室にいる生徒全員が、白乃に対して拍手を送った。音は盛大なものとなった。


 こうなると、順に自己紹介をすることになるのだが、幸か不幸か、体育委員から順にしていくことになった。


 そうなると、僕は最後になってしまう。座っている席が、僕とその体育委員の席は、全くの逆方向に存在しているのだ。


 そして、待っているうちに僕の番がきた。


「えーっと……図書委員会の役員代表として、この場に参加してます。二年B組の『松風拓』と言います。その……まあ、頑張ります。よろしくお願いします」

「はい! よろしくお願いしますね!」


 返事のいい挨拶、返答。それをしたのは白乃だった。


「それでは、早速なんですけど、役員を委員会ごとに決めていただきたいのですが、何かご要望とかはありませんか? ある方は挙手を」


 人が手を挙げた。


「はい!」

「では、五十嵐さん」

「はい」


 白乃は、先程のニコニコ笑顔とは打って変わって、少しニヤニヤしていた。だが、皆に悟らせないようにか、一瞬で無表情でなってしまう。


「私と司馬先輩は、生徒会と両方の役員を務めることになるのですが、これは本部での仕事が主になります。ご存知かと思いますが、生徒会は人数が少ないです。そこで、一人や二人でいいので、手を貸していただきたいんですけど……」


 つまり、暇な奴は生徒会の仕事も一緒にやれ、ということだ。それは、ここにいる全員に送って伝えたのではないとおもう。僕だけに伝わればいいのだ。


「それは……本当に必要かな、五十嵐さん?」

「必要です」

「え、でも……」

「必要なんです。いいですよね、司馬先輩?」

「は、はい……」


 何故か、自分を見ているような気がした。

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