第4話
つまらない。この言葉に尽きる。逆にこれ以外に思い浮かばないほどだった。学校というものは本当につまらない。この頃、そんなマイナスな考えばかりが、僕の頭の中で飛び交っている。これでは、いろいろな分野で支障をきたしかねない。どうしたものか。
数学の授業中に、左手で頭を抱えて、ため息をついた。この授業だって、意欲が全く湧いてこない。僕も、隣にいる神木さんのように、寝てしまおうかな。スヤスヤと気持ちよさそうだ。
ふむ。こうして見ていると、神木さんは顔が整っていると言える。今現在、腕を枕のようにして、頭を預けて眠っている。そして左隣にいる僕の方を向いている。この状態だと、顔がもろに見えている。
すると数学の先生がこちらに気づいた。
「む、また神木は寝ているのか……。全く、授業を受ける気がサラサラないな」
先生は僕と同じくため息をついた。腕を組みながらため息をつくその姿は、お手上げです、と体で申しているみたいだった。困っている様子の先生を察した僕は、神木さんに声をかけようとした。
「神木さん、起き———」
「待て、松風」
「え? は、はい……」
何事もないように、淡々と黒板に文字を書いていく先生。その書かれた文字は、教室のみんなをざわつかせた。
『全員で一斉に拍手をします』
は? 何言ってんだ……じゃなくて、何書いてんだ、この人?
すると先生はか細い声で言った。
「みんなで、神木をびっくりさせまーす」
ふーん。なるほど。ドッキリ的なあれか。
いや、性格悪すぎかよ。普通に起こしてやれよ。それになんだか楽しそうだな。教室内でざわついていた人たちは、よほど面白いことなのか、ほとんどがニヤニヤしていた。本当にみんな性格が悪いな。
先生は指を3本にしている。そして口パクで3の番号を表現する。となると、次に2、1といった具合に指と口を動きを変えていくのだろう。
だが僕は、それをする直前に、あることに気づいてしまった。
あれ? 神木さん……起き、てる? 完全に起きてるよね? 目が開いちゃってるし、こっちずっと見てくるし。
僕はそれに注目してしまい、彼女と目がバッチリと合っている。うわぁ、何この状況。目は合っているけど、そんなラブコメみたいなキラキラしたような背景なんて存在しないから、運命的なんて思わない。だって目が合ってるって言っても、鋭い目つきなんだもん。むしろ睨みつけられてるんだもん。。こわい。
神木さんの方を向いていたから分からなかった。先生の指は、もうすでに1本になっていた。先生が、またか細い声で『1』と全員に合図を送った瞬間だった。
「あー、よく寝たぁ! ありがと松風、起こしてくれて」
え? いや、は?
僕は周りを見渡した。視線は僕に集中している。おっと、これはもしかしてみんなの反感買っちゃった感じかな? ハハハ、またまた神木さんにしてやられたようだ。許さないぞ、この女。
****
あの後、昼食を一人で食べた。それも階段の踊り場で。いつもは教室の自分の席で食べているのだが、先ほどの一件で、あの場にいづらくなってしまった。
僕はこの学校に友達がいないから、こうやってほぼ毎日一人で食べている。べつに寂しくはない。これは本当だ。けっして強がりとかじゃない。
モグモグと無心で食べ物を咀嚼し続ける。さて、どうしようかな。あの一件で僕に対するイメージは少しずつ悪くなっているであろう。このままでは入学当初と同じだ。
うーん、と僕が悩んでいると、ポケットに入っているスマホが震えた。僕はすぐに確認する。
『何かあった?』
送り主は白乃だった。なぜ分かる、と聞きたいところだが、白乃は昼休憩に僕のクラスを一度覗くのが習慣化しているため、僕が教室にいないことに気づいたのだろう。
何でもない、と返信してみた。
『ふーん。今どこ?』
『どこでしょう?』
『踊り場』
ここにきて、なぜ分かる、だ。四六時中監視でも付けてんのか? 本当になぜ分かるんだよ。
『今からそっち行くね』
『なんで?』
『たっくんのことが好きすぎて、一緒にお昼を食べないと喉を通らないの。ねぇ……ダメ?』
この一文を読んだ瞬間に、ブハッと吹いた。安心しろ。口には何も含んでいないから、周りに撒き散らすことなどない。
それと白乃よ。最後の一文は、面と向かって言ったほうがいいぞ。ビデオチャットも有効だ。それよりも、この文……。明らかに狙ってやってるだろ。あざといぞ、全く。
僕は彼女が困るような返信をした。
『非常に申し上げにくいのですが、僕もう食べ終わってます』
そこから返信は来なかった。代わりに着信が入ってきた。思い通りにいかないと、すぐに電話をしてくるのやめてほしい。
渋々出てみる。
「私と昼食を取りたくないの?」
「いや、そういうわけではなくて……」
「じゃあ何?」
「本当にもう食べちゃったんだよ」
「ふーん。で、今どこの踊り場? 西階段? 東階段? どっち?」
「……」
「ねえ、どっち! 答えてよ!」
「……」
「たっくんのバカ!」
そこで電話は切れてしまった。それも仕方ない。僕は何の返答もしなかったのだから。
そしてそれにも理由がある。どうやってこの場所にいると分かったのか知らないが、僕の目の前に、あの憎き神木玲奈が不敵な笑みを浮かべて、僕を見ていたのだから。
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