第2話
次の日。
「今日は何? どうして僕は目隠しをさせられているの?」
「どこに行くかはまだ秘密。いいから、私が誘導するから歩き続けて」
今はどこの辺りを歩いているのだろう。目元をアイマスクで覆われているこの変な姿を絶対に見られたくないのだが。
でも周りから声がしない。おそらく路地に来ているのか、はたまた人が誰もいない気味の悪いようなところに連れてこられたのか。どちらでもいいから早く僕を解放して欲しい。
白乃は僕をグイグイと引っ張ってくる。学校が終わってからずっとこの調子だ。毎日毎日『死刑』と言われては、お仕置きを受けている。今日もこうして、まだ何をするのか分からないけど連れられている。
何故こんなことをするのか。『僕が何かしたの?』と聞くと、いつも白乃は決まって『私以外の女とコミュニケーションをとった』と言ってくる。それから昔に交わした結婚の約束の話をして、いかにも正当な理由であるかのように、僕を納得させようとしてくるのだ。
……それくらい良くね? それはもう、どの女の子とも話すなと言っているのと同じ。ちゃんと僕も、彼女にとって、それが気に食わないことだというのは理解している。白乃が僕のことを好きだというのは純粋に嬉しいし、彼女の意見も尊重したいと思っているけど、流石に縛りすぎなのでは、と感じてしまう。束縛はほどほどに、とインターネットでたまたま見つけたものがあったが、今の僕と白乃の関係を見てほしい。『ほどほど』にはかけ離れているものだ。
どうしたら白乃は丸く収まってくれるのだろうか。あまり強引な手は使いたくないから、面と向かって話し合うとか? うーん、無理だな。想像するだけて論破されるのが目に見える。本当にどうすれば……。
真っ暗闇の視界の中で考えていると、何やらガチャリと扉が開いた音がした。どこかに着いたようだった。
靴を脱ぎ、階段を登り、またガチャリと扉の音。なんか来たことのある場所の作りだな。これは……白乃の家か?
すると、突然右手首がヒンヤリとした。またガチャリガチャリと音がする。今度のこの音は扉ではない。これは前に味わったような感じ、手錠だ。本当に物騒なものを持っているんだな、白乃は。
手錠は外さず、やっと目隠しだけを取り外した。普通ならここで眩しくて騒ぐのだが、そんなのとは逆の薄暗い所である。電気をつけてないからな。そして僕の耳元で白乃が言う。
「問題、ここはどこでしょう? 当てられたらこの拘束を解いてあげるかも」
「白乃の家。で、今ここは白乃の部屋」
「……正解。うーん、当てられたけどやっぱり解きませーん」
「なんでだよ!」
嘘をつく白乃は久しぶりに見た気がする。それも一切何の表情も変えることなく吐き捨ててきた。逆にこわい。無感情みたいで逆にこわい。
そんなこわい彼女に何をされるのか本人に確認してみた。
「それで? ここで何するの?」
「んー。たっくんは何して欲しい?」
「解放して欲しい」
「キス? 良いよ?」
「えっ!? いやいや、言ってない言ってないそんなこと———ンプッ!」
目の前に顔があると思われる。それは今までずっと見てきた顔だ。
唇がプニプニとしていて気持ちがいい。少しあたたかくて滑らかだ。はあ……、どうして何の前触れもなく、この子はすぐにキスをしてくるのだろう。キスをしたがるのだろう。
『———ぷはぁっ!』
同時に口を離し、息を吸う。そしてまた唇を重ねる、ずっとそれの繰り返しだ。5回目くらいだろうか。白乃は満足したのか、休憩、と言って自分のベッドであろう物に、バフっと寝転んだ。暗いから分からなかった。
白乃は起き上がり、また僕の近くに寄ってきた。そして『カチッ』とボタンの音がした。その瞬間に電気がつく。突然のことだったから目がチカチカした。
「え? これって……」
「ねえ、たっくん? 私がたっくんのことどれくらい好きなのかこれで分かるよね?」
……白乃よ。盗撮はいけないよ?
部屋中に貼ってある大量の僕の写真は、どれも隠し撮りをして集めたものだ。壁にはもちろん、天井にも貼ってある。なるほど、ベッドの真上に貼ることで、寝転がっていても写真を見ることができるようになっているんだな。
はい、これを知った感想を聞いて欲しい。率直に言おう。『こわい』だ。
いきなりこんなのを見せられて恐怖を感じない人がいるなら、是非会ってみたいものである。何が怖いかって、学校でも人気で美少女だと呼ばれている彼女がやっている、というのが怖いんだよ。いつものギャップや変わりようがすごい。そして怖い。
こんな部屋に監禁し始めて10分くらいたっただろうか。さっきとやることは変わらず、キスをしては休憩、キスをしては休憩を繰り返していた。
すると、家の鍵を開ける音がした。誰かが帰ってきたのだ。
今度はドタドタドタと、階段を猛スピードで駆け上がる音がしてきた。
「お姉ちゃん! 開けて!」
次は白乃の部屋の扉を何度も何度もノックしてきた。
『チッ』
えぇ……舌打ち……。白乃こえー。何がそんなに嫌だったんだよ。唯一の妹である
白乃は黒乃に聞いた。
「え、えぇ……? お姉ちゃん勉強してるんだけど……?」
「嘘つかないで! そこに先輩いるんでしょ! 何やってるの!」
ちなみに黒乃の言う『先輩』というのは僕のことだ。
「え、なんでたっくんがいるって?」
「玄関に靴があったから! そこにいるんでしよ! いるなら先輩返事して!」
「いるっ———ンプッ」
返事をするのを無理やり阻止するために、白乃は口を塞いできた。それも唇で。今度は舌も入れてくる。
『ン、チュ』
いやらしい音がした。口を離すと、お互いにハアハアと息をする。そして白乃は僕の耳元で囁いた。
「んっ……はあ……。返事しようとしたらまたキスするから……」
白乃の母親が帰ってくるまで、黒乃と白乃のやりとりは続いた。僕はその間に、何度キスされたか覚えていない。
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