第3話
目を開けるといつも通りの部屋があって安心した。
結局夢の最後は悲しげなラストだったので、心がしんどい。面接に行こうと思っていたが、体調がすぐれないという連絡をして断ることにした。隣を見ると裸の同居人が眠っていた。昨日はバイトで遅かったのに、疲れている所にさらに相手をしてもらったので罪悪感が今更浮かぶ。起こしたら悪いのでそっとベッドから抜け出し服を着て共用の財布からお金を頂き、外に出かけた。
なんとなく同居人はヒモを飼っているというステータスが欲しくて私に同居を許しているのじゃないかと思う時がある。共依存と言うほどしっかりしたものではない。きっと私がいなくても彼女は上手くやっていけるだろう。いかにもなヒモ的な行動が好まれるならとパチンコに行ってみたけれども、どうも合わなかった。一応彼女にはバイトの面接に行くと言ってあるので、時間をつぶさなければならない。図書館で本を借りる。しかし感染症対策で、館内で本を読むことはできなかった。そこで電車に乗って、小説を読み始める。以前読んだ面白かった小説の続巻だった。しかしいくら読み進めても一向に面白くならない。これがマンドラゴに寄生された弊害なのか、それとも単純に面白くないのか判断が付かなかった。話がつまらないので睡魔が襲ってくる。そしてまたマンドラゴの夢を見た。
「面接に行ったんじゃないんですか」
夢うつつの区別がつかない中、聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ってみると、スーツを着た同居人がいた。あたりを見回すと電車の中にいるのがわかり、ここが現実だと理解した。
「え……あ……いや、中止だって言われて……」
「どうせ、バックレたんでしょ」
「いや……一応連絡はしたよ……」
「五十歩百歩ですよ」
そういいながら彼女は私の隣に座った。
「昨日うなされてたけどどうしたんですか?」
「なんかマンドラゴの夢を見て」
「ほー」
思ったより興味深そうに私のことを見てくる。
「いや他人の夢の話を聞いたって面白くないでしょ」
「でもマンドラゴの夢なんですよね。それって実際の頭の中のマンドラゴの記憶なんじゃないですか?」
「えーでも宇宙規模の話だったけど」
「宇宙に向かって種を蒔くマンドラゴとか」
「ああ、ありそう」
あまりにも興味深そうに聞くので夢の話をすることにした。とりあえずは昨日の夢まで。
「その植木鉢の子が花さんの前世?」
「いや……私は別の人の視点だったから……あの後私と植木鉢の娘は宇宙に戻ろうとするんだけど、マンドラゴのミサイルによって船が落とされていて、地上での逃亡生活を余儀なくされるって流れなんだけど……」
「花さんは植木鉢の娘を殺さなかったの」
「うんまあ、トロッコ問題ってわかるよね。私はサイボーグだからその問題に対してはっきりと行動することを決められてたの。電脳内の倫理的セーフティによってね。つまりためらいなく、トロッコのレバーを引いて犠牲が少ないほうへ誘導するようプログラムされていた。だからもう守るべき人類が目の前の娘一人になったから、惑星が破壊されるリスクと天秤にかけても同じになったってわけ。私たちはそれなりに生きて、それなりに逃げてそれなりに仲良くやって、それなりの死に方をした。まあ結局私が少女を殺すことになるんだけど。あなたの仮説が正しいのなら死んだ後マンドラゴに記憶を食べられて、そして宇宙を渡ってこの地へ来たのだと」
「へーロマンチックー」
「そうかな……?」
「あー私その植木鉢の娘の生まれ変わりかもしれないです」
「ええ……?」
「昔声帯の手術をしたことがあってー」
「ううん?」
「子供のころ植木鉢をかぶるのが好きだったから」
「うーん微妙」
というか、あんまり生まれ変わりとか好きじゃない。前世で恋人だったとか言われても、数十年単位で愛とか冷めるものなのに、数百年単位も保てない。もし本当に愛し合っていたらそれはまあ素晴らしいことで否定はしないけれども。
「じゃあ今の私たちの関係ってほどほどにいい関係じゃないですか? 前世は最後の人類だったり、味方によっては仇だったわけだけれども、今はヒモとヒモ付きの関係。一時的な幸せを味わってる。前世で恋人だった人が、また今世で愛し合うのが百億点の幸せだとするなら。私たちの関係は70点くらいの幸せ。私達にはちょうどいいですよ。今、私は幸せですよ」
「同意しかねる……」
とはいっても前世の記憶がよみがえろうが、マンドラゴに寄生されようが生活はそんなに変わらないらしい。ならば目の前の問題に取り掛かるしかないわけで。
「ちゃんと面接受けるか……」
と平々凡々な結論に落ち着きざるを得ないのであった。
とりあえずはまた眠くなったので、彼女の肩を借りることにした。とそこで彼女のつむじにも根が出ていることに気が付く。まあいいかとまた目をつむった。
またマンドラゴの夢を見るのだろうか。
夢見るマンドラゴ 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます