第2話

 夢を見ていた。

 私は宇宙を彷徨う無の視点だ。無限に続く暗闇の中を飛んでいる。

 あるとき一つの恒星を見つけ、そしてその近くに地球に似た惑星を見つけた。

 その惑星は美しい青い色をしている。直系約一万四千キロメートルの大きさを誇り、所属する恒星系の第三惑星である。地表は炭素生命体が住むのに適した温度を保っており、かつては数えきれないほどの種類の生物がはびこっていたと私は知っている。


 衛星軌道から視線を移し、地表に目を向けてみる。表面に近づくにつれて、ブロック状に色分けされた区切りが見えるようになっている。七つある大陸の全土を緑系統で色分けて染め上げられており、惑星規模で五色問題の実験でもしたのかと見まがうほどだった。

 知的生命体が住む隙間をもすべてつぶしたようなそれらは、全てが畑であった。

 そしてすべてがマンドラゴを育てるためにある。

 

 海と思しき惑星の七割を占める青の部分に目を向けてみる。

 よく見るとそれらは特別に品種改良をされたマンドラゴを育てるための水田であった。海面上に頑丈で薄い層を作り、その上に海水から真水を取り出すための層を作り、そのさらに上にマンドラゴの田園が広がっている。荒波と同化し、嵐をも受け流すマンドラゴの水田の群れが惑星の大部分を占めていた。


 南極や北極地点には氷山をも切り裂く根を持ったマンドラゴが、火山地帯には、灼熱をも防ぐ殻を持ったマンドラゴが、一切の光も届かない深海には、地中からガスを吸収して育つ海洋性マンドラゴが。

 この惑星の全土をマンドラゴの畑が覆っていた。


 高度500キロメートル衛星軌道上に一機の宇宙船が飛んでいた。

 そこからパワードスーツを着た人間が地表に向かって降り立っていく。大気圏に突入し、断熱圧縮により高温を発し炎に包まれていく。しかしパワードスーツの内側はびくともしない。何百もの装甲歩兵が、パラシュートを咲かせながらマンドラゴの畑に降り立った。私はその中の兵士の一人だと気が付く。

 畑に侵入する人間をマンドラゴは容赦しない。生体武装耕作機が兵士たちに襲い掛かった。この惑星は知能を持ったマンドラゴが支配している。地表の生物すべてがマンドラゴにへりくだり、マンドラゴのために生きている。生体武装耕作機はマンドラゴが自分たちの畑を耕し、自分たちを収穫するために作ったバイオ機械だ。うねうねとした肉のような体を持っていて、自主生殖も行える。畑の管理を邪魔するものは塵すら残さない。

 主成分がタンパク質なため、時おり人間は地表に降り、生体武装耕作機を狩って食糧とした。だが今回は、食糧を得るためにこの地に来たわけではない。マンドラゴに勝つために進軍したのだ!


 私はブラスターマシンガンを発射し、耕作機を破壊していく。宇宙からの絨毯爆撃により、あちらこちらで爆発が起こっていて、巻き込まれた兵士たちも多くいた。えぐられた土からマンドラゴが顔を出し悲鳴を上げる。しかし私たちは既に聴覚器官を摘出していた。声など聞こえてこない。そして体内にマンドラコをすりつぶした薬効のあるエキスを循環させ、耐性を作っていた。

 無音の世界。そして暗闇の世界の中、光線銃の光と、爆発の光があたりを照らす。赤外線やレーダーによって、暗闇で迷うことはない。それでも人間としての視覚器官は残してあるので、仲間の死体の映像が、ストロボのように、水晶体の奥に張り付く。

 目的地は数キロ先にある工場だった。そこでマンドラゴが製造している、惑星を破壊するといわれているマンドラゴを奪取する。

 というわけだけど私はそろそろ夢に飽きてきた。と言うか仲間がいっぱい死ぬので、これ悲しい夢だなって気が付く。悲しい夢を見ると、起きたときしんどい。じゃあ今起きてしまおうと思ったがどうもうまくいかない。せめて早送りをしてみようと思ったら上手くいった。

 時間が高速で動き、物事がダイジェストで動く。仲間がどんどん死ぬ。対策したと思っていたマンドラゴの悲鳴のパワーアップバーションが出てきた。品種改良によって作られた骨伝導マンドラゴや重力波マンドラゴによって私たちは苦戦を強いられる。そこで仲間の自爆によって私だけが生き延び再び工場へ向かっていく。警備ロボたちを倒し何とか最奥の金庫へ。


 そこにいたのは一人の植木鉢をかぶった少女だった。


 なぜだ! 私は絶望する。マンドラゴ爆弾があるのではなかったのか! そう叫んだ。

 工場にあったコンピューターに接続して、真相を把握した。彼女はマンドラゴの王の声帯を移植した少女だった。彼女の声の周波数は亜粒子を破壊させ、連鎖的に物質を崩壊させることができる。たとえそれが天体規模の質量を持っていたとしても。


「私の手には負えない……」


 仮にこのまま殺してしまうと、それによって悲鳴が上がり、この星が崩壊してしまうかもしれない。それにマンドラゴは殺せるが、マンドラゴの声帯を持っただけの人間を殺すことは簡単にはできなかった。

 私は植木鉢の少女を背負って、工場から脱出した。


「お姉さんはいい人なの?」


 植木鉢の一部がディスプレイとなって文字が表示された。

 私は首を振った。


「悪い人だよ」


 そこで私は目が覚めた。

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