第八話
「煙。ミサイルじゃなく、スモーク弾だ」
クラウンの指揮下にある襲撃部隊は、白く濃厚なスモークに包まれていた。
視界はゼロ、レーダーも無意味なノイズを拾い続け、車内のスクリーンには砂漠の荒涼とした風景が全く映し出されなくなっていた。
視覚妨害と電子機器の無力化。だけではない、特別な秘密を持ったスモーク弾。
それは昆虫の生態を基にして設計された、生物模倣兵器の一つ。煙には、フェロモンが混ざっていた。
オスはメスのフェロモンが数ピコグラム、一兆分の一グラムあるだけで、感知できる昆虫界屈指の嗅覚を持っている――ゴキブリ。
メスのフェロモンにはペリプラノンA(PA)という副成分と、ペリプラノンB(PB)という主成分の二種類が含まれている。
オスは、遠方でPBを受容することで行動活性が上がり、メスへ強く誘引される。接近すると、PAを受容し行動活性が低下し、メスの近傍で留まり探索する。
これによりスモークが漂う中でも、自らの位置やルートを把握でき、混乱する敵を逃がさずに攻撃できる。
フェロモントレイル機能が、
「視界が完全に遮られた!?」
クラウンがスモークに包まれた車両の中で叫んだ。
だが、
すぐに気づいたのは単なる視覚の問題ではない。電子機器が次々と不具合を起こし、スクリーンには誤った情報やノイズが表示されるようになった。
「レーダーに、無数の車両が!?」
部下たちが必死に操作を続けるが、機器はまったく機能しない。
フェロモンの成分が、彼らのセンサーや誘導システムを狂わせ、反応を無力化していた。
「煙幕に、
クラウンの焦燥は増すばかり。
昆虫が群れの中で道や情報を伝える放つ
化学物質が空中に散布されると。
敵のレーダー波長にもっとも影響を与える成分に変化し、レーダー波を反射、拡散させる。これにより、敵のレーダーシステムは無数の虚偽信号を検出し、標的の位置を特定できなくさせる。
「センサーも、狂ってる!」
一人が叫びながら必死に修正を試みるが、無駄だった。
電子撹乱作用は次第に車両全体に影響を広げ、通信機器さえもノイズだらけになっていた。
「行くか、ヴァンケル」
御器囓の変化が始まった。
通常の移動モードから、超高速モードに移行する際、御器囓はその外装を部分的に変形させて、より空力を意識した姿へ。
スリーペダルのクラッチをレーサーが履く薄い靴で宗一郎は、踏み込む。
これは、ペダルフィーリングや踏みやすさを考慮したフォルムで、厚い靴底だとペダルを引っ掛けてしまう可能性を減らし。丸いかかとは、ペダルの踏み替え時にかかとを支点にし、スムーズに足を動かすことができる。
きつめにフィットさせることで、足裏に密着させ。イメージ通りのペダルさばきをするため。
右手を伸ばし、シフトレバーを
金属的な音が響き、御器囓の車体が低く振動する。エンジン音が深く唸り、車両が静かに前進。
だが、
これはまだ序章に過ぎない。
有限会社――
クラッチペダルを素早く踏み込み、滑らかにシフトレバーを二速に移動させた。瞬間、アクセルペダルを強く踏み込んだ。
御器囓のエンジンが爆発的な音を立て、前方に向かって猛然と加速する。
六輪駆動の車体は、地面を蹴るように走り、砂煙を高く舞い上げる。
その中でアクセルの微妙な踏み込み加減や、ステアリングから伝わってるタイヤの接地感覚を意識し、車体をスムーズに前に進ませる操作する。
シフトレバーを三速に入れ、車両をさらなる速度へ。
御器囓の前部が変形。
昆虫の殻が体を包み込むかのように、車体が低く、さらに鋭くなっていった。サイド部分のエアフローシステムが開き、空気抵抗を最小限にすることで、スピードに特化したフォルムに。
再びクラッチを踏み、アクセルを調整しつつギアを四速に切り替える。ギアが入るたび、御器囓のエンジンはさらに唸りを増し、車体が砂漠を駆け抜けていった。
『宗一郎。音速到達までのカウントダウンを開始する』
ヴァンケルの声が、スピーカから響く。
御器囓は、さらにその機体を沈め、昆虫の素早い動きを再現するかのように、超音速領域への準備を整えた。
「あい、よ」
宗一郎の掛け声と共に、外装の一部がさらに鋭く引き締まり、昆虫が身を守るための甲殻を強化するように見えた。この変化により、御器囓は音速を超えるための耐久性と俊敏性を持つ姿へと変わった。
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