第七話
先頭を走る重装甲車両が、砂丘を登っていた。
太陽の光が車体の金属を鈍く反射し、無数の砂粒がタイヤに巻き上げられては後方に広がっていく。車体は重く、鉄の巨人が砂の海を進むかのように、その存在感は圧倒的だった。
しかし、
その巨大な車体が油断を見せた――砂丘を登り切った瞬間、重力から解放され、前輪が宙に浮いた。
『FIRE』
ターゲットは、今まさに浮き上がった先頭車両の底部。
発射されたミサイルは一瞬の静寂の後、轟音と共に車両の底部に直撃した。
次には、爆風が巻き上がり、車体全体が激しく揺れ。砂丘の上で車両は完全に制御を失い、竜巻に引き寄せられるように、宙を舞う。
空中で一回転しながら、金属の塊が地面に叩きつけられる。
車両の重量と爆風の衝撃が一体となり、車体がゆっくりと横転していく。スローモーションのように、重心を失った車両はゆっくりと倒れ込むように砂地へ。
包囲網の前方に、ぽっかりと大きな穴が開いた。
輸送車両、三台の車両が解き放たれた。
これまで抑え込まれていた輸送車両が、全速力での駆け抜け――砂漠の戦場を疾走する。
タイヤが地面を食い込み、砂を掻き分ける音が轟く。
エンジン音が砂漠に響き渡り、輸送車両は最高速度に達し。車体が風のように地面を蹴り抜け、残された襲撃車両たちを全力で振り切る。
ディスプレイに映る輸送車両の加速に、宗一郎は驚嘆。
「ちょ。アネス、と、飛ばしすぎ! エンジン、エンジン」
ブォン! ブォォォン!!
<ワタシのハッキングを見ろ。イケ、イケ、イケ! 追いつけるものなら、追いついてみろ!?>
アネスの声が、弾んでいた。
彼女は遊んでいるかのような軽い口調でありながら、その輸送車両のコントロール技術は。
計算されたドライビングテクニックが、物語っていた。
「……偉そうに、機械仕掛けの神と名乗っているだけのことはある、な…………」
『……速度と地形、さらに輸送物資を載せている状態で、あの安定性能だからな。驚異的な演算処理能力で、電子制御システムを最大限に引き出している…………』
「ブローするぞ、エンジン。音からレッドゾーンまで、回してる」
『ぼく、は。ちゃ、ちゃんと考えていると思うよ。ぁ、アネスは』
「ヴァンケル。地が出てる、ぞ」
『え!?』
先頭車両が砂丘を進んでいた。
ドンッ!
凄まじい轟音と共に、対戦車ミサイルが車両の腹部に突き刺さった。
次の瞬間、巨大な拳で殴られたかのように車体が宙に浮き、爆風が周囲の砂を巻き上げる。重厚な装甲を誇るはずの車両が、紙くずのように無力な状態で、空中を舞った。
運転席にいた男が、激しい揺れに体をしがみつかせながら、目の前の出来事を理解しようとしていた。
だが、
その思考はすぐに崩れ去る。
視界は天地がひっくり返り、金属の悲鳴と共に地面が迫ってきた。
先頭車両は大きな音を立てて横転し、砂漠の大地に叩きつけられた。
車体全体が激しく揺れ、積まれていた装備品が内部で暴れ、ガラスが割れ、鋼鉄の外殻が歪む音が響き渡った。
タイヤが空回りし、エンジンが苦しげな音を立てながら停止した。
「ッ……。ナ、なにがおきた?」
男は、まだ状況を飲み込めていなかった。
目の前で揺れる計器類、血で染まった自分の手、そして混乱する仲間たちの叫び声。
「先頭車両が!?」
後方にいた他の襲撃者たちは、その光景を目の当たりにし、呆然としていた。
彼らの視線は、目の前で宙を舞う重装甲の車両に釘付けになっていた。まさか、あれほどの車体が、対戦車ミサイル一発で吹き飛ばされるとは思いもよらなかった。
「クソっ、どうなってんだ!!」
若い乗員の一人が拳を叩きつける。
声には恐怖と怒りが交じり合っていた。自分たちが追い詰めたはず……だったのが、こんなにも簡単にひっくり返されるとは、考えもしていなかった。
「一発で……転倒?
目の前で砕かれた、"絶対の防御"に疑念を抱いた。
彼らは自信を持って、この作戦に挑んだ。
何があっても自分たちの前方を走る装甲は、敵の攻撃を受け止めるはずだった。
しかし、
その確信は爆発音と共に消え去り、残されたのは無力感と冷たい現実。
「生きてるのか!? 確認しろ、先頭車両を」
だが、彼の心の中でも動揺が広がっていた。まさか、先頭車両があのように飛んでいくとは、想像していなかった。
次々に計算が狂い、頭の中で焦りが募っていく。
指示を飛ばすが、返答はない。
目の前の混乱が
自身も。
後部車両に乗っていた一人が、ガラス越しに横転した先頭車両を見つめ、震える声で言った。
「先頭の連中は、ぶじ……な、の、か」
誰も答えることができなかった。
車両があまりにも激しく横転し、装甲が砕け、内部がぐちゃぐちゃになっているのが遠目でも分かる。
「人が動いている……気配がない」
一人が呟き、声には明らかな恐怖が混じっていた。
あの車両にいた仲間たちが無事でいる保証はなく、彼ら自身も次に襲われるかもしれない。
その思いが彼らの動きを鈍らせていた。
「あの装甲車か!」
クラウンは存在を睨みつけた。
車体全体はマットホワイトで塗装された戦闘装甲車、白ゴキを。
滑らかで流線型ベースに車体は低く広がり、空気抵抗を最小限に抑える形状。前方に突き出たシャープなフロント部分と、広がった後部が特徴的であった。
見るからに俊敏かつ軽快に動くことができる――超高速戦闘タイプ。
先頭車両を吹き飛ばし、その隙に輸送車を逃がした。
完全に計画は破綻。
そして次は、自分たちが狙われる番だ。
「もう、一発!」
必死に部下たちに冷静さを呼びかけるが、その言葉はすでに虚ろだった。
次のミサイルが発射された、御器囓から。
放たれた鋭い弾頭が、砂漠を切り裂き、再び彼らの車両に向かって突き進む。逃げる時間は、残されていなかった。
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