第四話
砂漠はいつも通りの顔をしていた。
広大な大地に広がる砂丘の波は、太陽の光を受けてきらめき、空には雲一つ見当たらない。
見渡す限りの乾いた大地は、無機質な風景を作り出している。その中に、まるで異物の装甲車両が。
白い装甲に覆われたその車体は、巨大でありながらも周囲の景色に巧妙に溶け込んでいた。
六輪駆動の独立システムが、砂漠の起伏に柔軟に対応しながら、まるで獲物を狙う捕食者のように気配を潜めている。
運転席では、
「さすが、だ。うん、見事に退屈な景色だ。一年前は少しは、楽しめたんだが。人間、慣れって、コワイ」
微かに笑みを浮かべながら呟く。
声には焦りもなければ、緊張感すら感じられない。むしろ、この静けさを楽しんでいるかのようだ。
<前方に複数の熱源を確認しました、ボス!>
「ボス!?」『出世したな、宗一郎』
「アネス。失敗したとき、俺の責任にするつもりじゃ、ないよ、な……ぜんぶ」
<オレたちにお礼を渡したい、連中たちです>
『請求書の宛名が、会社名義でなく。個人名義に、なるだろうな』
「ナニ、冷静に答えてる。ヴァンケル」
<…………、…………>『…………、…………』
「どっちも、急に沈黙するのやめて。笑えないから」
<冗談はさておき。宗一郎に作戦指揮、任すわ。ワタシ、上から観察してるだけだから、現場状況に関して判らないから。よろ!>
軽妙な言葉の奥には、確かな敬意が込められている。
アネスは、宗一郎を
宗一郎は信じるに足る存在であり、その信頼を軽妙な言葉に変換するジョークで話す。
互いの関係が強固だからこそ。
冷徹な判断と分析能力を持ち合わせているアネス。だが、宗一郎との付き合いの中で、戦況の流れを読む才能は、自分以上と感じていたから。
「あれだな。被害と死人は最小限、利益は最大限」
『いつも通りだな』
ヴァンケル
無駄のない報告。
効率を追求するプログラムに基づき、正確な判断をする。しかし、ヴァンケルもまた、宗一郎に対して特別な感情を抱いていた。
それは、信頼。
データや事実に基づいて行動するため、宗一郎の判断がいかに理にかなっているかを常に認識している。
だが、それだけではない。
ヴァンケルは、宗一郎がデータや理論以上の何かを持っていることを理解していた。
アネスとはまた違った、勝利に導くその力。
宗一郎との経験を通して、徐々に何かを学んでいた。
それは、信じるという行為。
合理的な判断が最優先される自身にとって、宗一郎の判断が正しいと信じることは、すでに合理性を超えた感覚になりつつあった。
「アホな俺が考える作戦なんって、単純明快に決まってるだろ。それとも、アレクサンダー大王、ピュロス王、ハンニバル・バルカスみたいな作戦指揮をしろと? アネス、ヴァンケル」
<絶対に! 失敗、ね>『絶対に! 失敗、だ』
「……、……。あれ? そこは、よいしょ、してくれても、よくない」
宗一郎にとって、アネスやヴァンケルは、単なる仲間ではなかった。
この危険な地球で生きていくには、欠かせない存在。
ヴァンケルF――人類にとって危険と判断された、
アネス――人類を滅亡させた、機械仕掛けの神。
この一機と一柱が、そばにいることで、どんな危険な状況でも安心感どころか! この二人が居るからこそ、生きることができているのであった。
灼熱の砂漠がどこまでも広がる。
その大地を走る三台の物資運搬車両は、貴重な物資を積んで次の目的地へ向かっていた。だが、その運搬車両たちは完全に包囲されていた。
九台の武装した敵車両が周囲を固め、周到な動きで封じ込めを開始していた。
先頭の一台が運搬車両の先頭車両の頭を抑えることで、速度を落とさせ隊列を縦一列に維持させながら。左右の三台が両側を挟み込むように配置。
横方向に逃げ道を完全に塞ぐ。
そして、最後の一台が後方に位置し、運搬車両が速度を落として包囲の後方に抜け出すことをさせないための配置になっていた。
数の利点だけで、無作為に襲い掛かっている種類のバカ襲撃者なら、楽。
「アネス。衛星から確認できる数は、九台で間違いないな」
<視える範囲には。依頼の輸送車、三台。襲撃車両、九台。
『数の問題では、ないな』
「いい位置取りしてやがる。
この状況で運搬車両を救出させることは非常に難しい。
襲撃している九台の敵車両の第一優先は略奪ではく、指揮車両の安全にあった。
それなりに戦略と戦術を理解できている相手。
クラウンが最初に攻撃を受けた際は、反撃するよりも即時離脱できる位置。仮に自分が襲われた場合には、運搬車両を人質にする考え。
単なる暴力で物資を奪うのではなく、状況を利用し、相手の出方を見極める。クラウンとしての役割を遂行していた。
「数で押し切ってくれる方が、好みなんだが」
『同感だ』
<で? どうする、の>
「俺としては、
<そういうところ好きよ、宗一郎>
『宗一郎らしく、いい』
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