第三話
両手で握っているハンドルの左手の人差し指で、トン、トン、とハンドルをリズムよく叩きながら満面の笑みをしながら。
「やっぱり、そう、思う――よな! うん、うん、ヴァンケルは分かってるぅー」
『私も、そろそろ、アネスには落ち着いてほしいものだ、と思っていたところだからな』
<死ね>
砂漠を軽快に疾走していた一台の真っ白い装甲戦闘車両が、砂煙を天高く舞い上げ激しくスピンし停止。
「ぁ、あ、あぶねぇー。視界が止まった」
『ナ、ナイス、
<ちぃ!
宗一郎は前後左右にゆっくりとストレッチをするように慎重に首を動かしながら、
「ぉま、アネス。電子制御システムにクラッキングして――俺を殺す気か!」
『……宗一郎。俺をではなく、俺らだな』
カメラのレンズを睨みつける。
レンズに内蔵されている焦点調節装置が、心情を表現するように猛烈に動き車内に機械音を響かせながら。
<乙女の悪口を言った、て・ん・ば・ツ! >
スピーカーから聞こえるのは、喜怒哀楽を包み隠すどころか、丸出しにしている女性の声だった。
“乙女の悪口を言った”覚えは、宗一郎とヴァンケルには心当たりはない。
の、だが。
スピーカーから聞こえてくるアネスの声は、憤慨していることは理解できる。
が、やはり。
自分たちが天罰で殺されることを言っていたとは思えなかった。
実際、朝からエチルアルコールという揮発性の高い危険物の近くで、煙草を吸うという愚かな行為を平気でした結果、引火、大爆発で太陽が昇るよりも早く起こされたうえに、二人で部屋の片付けをさせられる始末。
本当に天罰を受けるべきモノは――
「『それは、アネス』」
一人と一機は口を揃えて抗議した。
<衛星から白ゴキに、荷電粒子砲を撃ち込むわよ>
「『…………、…………』」
パチ、パチ、パチ、と焦点調節装置が異常に動いていたカメラに向かって、頑張ってウィンクもどきを宗一郎は、しながら。
「き、きれいなぁー、お、おねエーぇーさんと。一緒に住めて嬉しいな! って話てたんだよな? ヴァンケル!」
『そ、その通りだ。ぇ、叡智の神のお、お傍にいれること至極光栄!』
<おべっかを使うようになってきたな、いい傾向だ>
天罰こと荷電粒子砲が空から降り注いでくることは、なかった。
スピーカーから聞こえたアネスの声音は、怒りから喜びに変わっていることにホっとした宗一郎は、右手でシフトレバー操作しニュートラルに入れ、クラッチペダルから足を離し。
手を組みながら力いっぱい腕を前に伸ばして、深呼吸をする。頭の血管に新鮮な酸素が取り込まれると。
パチ、パチ、パチ、と両目でウィンクを宗一郎は、した。
「ちょっと、いいか? アネス」
<なに>
「お前が通信してくるってことは…………」
『…………』
<…………、あ! 仕事依頼>
宗一郎はすぐさま地面を蹴るようにクラッチペダルを底まで踏み込み、シフトレバーを一速に叩き込み。アクセルベダルを煽り、
真っ白い装甲戦闘車両が大気の壁を貫く音を奏でながら、砂漠を爆走するのだった。
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