27 一番大切な人は誰ですか?


 1


「おはようございます」

 マメに、早めの出勤を心掛けている根室。朝の振る舞いには人の性格がよく出る。誰もいないであろう機動室の虚空に、律儀な根室の挨拶がうっすらと反響する。

「はよー」

「うわあ⁉︎」

 その根室すらを驚かせた、本来聞こえるはずのない朝の挨拶。

「はあー、びっくりさせないでくださいよ…。……まさか、また泊まりですか」

「うん。…シャワーもベッドもあるし静かだし…ウチより寝れるのが悔しいな」

 シャワーも、と言い始めたあたりから起き上がって伸びをし、力みと吐息が混ざる南城の声。二人の朝の挨拶に反応してか、奥からもう二人の宿泊者がのっそりと姿を現す。

「根室くん…いっつもこんな早く来てるんだあ……」

「ああもうこんな時間かよ…寝た気しねえっつの…」

 いつも必要最小限の時間的余裕だけを確保して、可能な限りマイペースに出勤している七尾はともかく、病み上がり直後の滝沢にこの労働量はこたえたらしい。

「バラエティショー、ニュース、ネット配信番組、お菓子と車と生命保険の広告、ラジオ、雑誌、講演会ゲスト……」と列挙してみるのはいいが、根室の指折りはすぐいっぱいになる。この労働量、とはこのように——いや、なんならこれもほんの一部に過ぎない。「急に引っ張りだこですもんね」

 自らの正体を明かしたことを受け、ステラシステム装着員は表彰を受けたりメディア露出が増えたりと、いわば大リーグの有名選手さながらの忙しさに揉まれていたのであった。ステラジェイドという機体名よりも南城李人という個人名の方が知れ渡り、グッズショップには彼らのうちわやポストカードが並び始めた。

「そりゃあまあ、帰って寝る時間も惜しみますよね…」

「わかってくれるか、根室」

 最年少、最短キャリアの根室でも、この兄貴や姉貴のこなしている厖大な仕事量とその過酷さに思い及ぶことは難しくなかった。今日は大丈夫なんですか、と試しに南城に聞いてみると、幸いな、と言わんばかりの安堵の顔とともにこう返ってきた。

「一応公務だし、そういう仕事に充てられる時間と日数の上限は決まってるんだ」

「その上限ギリギリまで詰め込まれて、挙句このザマなんだけどな」

 皮肉たっぷりのニュアンスで、疲れ顔の特に顕著な滝沢が吐き捨てる。この男、変な気遣いはできるくせに、疲労には弱いのか愚痴に我慢は効かないらしい。

「今日はちゃんと帰ってくださいね。ヒーローが身体壊しちゃ意味ないですから」

「ほほーん」と滝沢はからかうように感心した。「根室も言うようになったじゃないの〜?」


 2


 根室の忠告通り、南城はおとなしく住み慣れた自宅へ帰った。

 一応世の中に広く顔の知れた身となってしまったので、帰り道も油断ならない。TWIST配属初日に筑波たちに迎えられたときのような送迎車が、三人には特別に個々につくこととなった。もちろん使うかどうかは本人らの自由だし、特に南城はそのような過剰なサービスを好まないので基本的に使わずにきたが、さすがに疲れが限界を迎えていると悟り、今夜はやむなく車での送迎に甘んじた格好だ。

「ただいまあ」

「あっ…おかえり」

 瀬奈にも不便な思いをさせた。お互い働きながらの同棲であることから、すべての家事を均等に半分に受け持っていたため、数日の外出というのはその負担をすべて相方に投げるということを意味する。もちろん瀬奈にも無理はせず、溜め込んでおいても構わないと伝えてはあったのだが、驚くべきかやはりというべきか、部屋は隅々まで整然たるままだった。

「ごめんな、留守して」

「ううん、いいのいいの」

「…瀬奈?」

 おかしい。何がかはわからないが、瀬奈と一向に目が合わない。

 南城を驚かせるほどの強い芯の持ち主であり、いつも物事を大きく、柔らかく受け止め、南城の心の支えとなってきた瀬奈。彼女がこんな態度を取るのは、恋愛初期のあの初々しい感情によるときか、よほど何か大きな出来事があったときかだ。

「…瀬奈。俺がいない間に、何かあったのか」

「……」

「……言えない、よな。……瀬奈が言えないことっていったら、そりゃ、本当に言えないことだ」

 不躾な質問をして悪かったと頭を下げ、南城はそそくさと自分の部屋に戻ろうとする。

「……会社にね」

 ふと、瀬奈の声が飛び込んできた。躊躇われはしても、言わないままにはできないという切迫を、声色から感じる。

「…ん?」

「会社に……連絡が入ったの」

「会社って……楽器屋? 誰から?」

 それに対する彼女の返答、その中に出てきた名前は、それまで何度となく南城やTWISTを困らせてきた、あの連中だった。


 ◇


「週刊メトロ……!」

「マジでクソ外道だなオイ!」

「ばっかやろ……」

 辛辣な侮辱を吐き捨てるのは、滝沢。そして直属の上司であり、年の離れた兄のような存在である対馬が大きく落胆していた。

 かつてTWIST発足会見で倉敷に無粋な質問を投げ、ある時には避難指示を無視して張り込んでは戦闘終了後のステラジェイドを直撃し——とにかくTWISTの足を引っ張り続けてきた週刊誌が、あろうことか瀬奈と南城の熱愛をネタにしたのだ。

 憤りも虚しく、すでに該当誌は発売。いつ撮られたのかもわからないような瀬奈とのツーショットが、白黒の見開きをこれ見よがしに独占している。

「…でもでも! 瀬奈さん別に有名人でも何でもないですよね? 熱愛って変なんじゃ……」

 七尾の困惑に、的確な回答を持ち合わせていたのは高槻だった。以前南城と話していた、彼女の勤める楽器店の動画投稿チャンネルを七尾に見せる。溌剌と店内紹介をする瀬奈の笑顔、そのすぐ下には《73万回再生》という表示。

 さしずめ、可愛すぎる楽器店員とでも言ったところだろう。残念ながらそのような品のない持て囃しの文化はこの時代になっても残っている。彼女も、一部の界隈ではしっかり有名人の端くれだったのだ。目下話題のステラとの交際がわかれば話題性も充分、週刊誌も記事にしない理由がない。

「で、週刊メトロから楽器屋に事前連絡が入ったと…」

 週刊誌の事前連絡というのは特に掲載許可などというようなご立派なものでもない。大概が既に紙面印刷にかけられている段階での連絡となるので、よほどの額でスクープ写真が買い取られることのない限り掲載・発売は免れないだろう。実質、ただの堂々たる宣言だったということだ。

「あいつ、謝ってきたんです。せっかくステラの仕事が良い雰囲気になってた時に、自分が中途半端に露出してたせいでって…」

「とんでもねえ。瀬奈ちゃんは何も悪くねえ。っていうかこの記事だって別になーんにも悪かないんだけどな⁉︎」

「アキさん…ありがとう」

 確かに、どちらも若い男女、恋愛関係などごくごく当たり前のことだ。不倫をしているわけでも、暴力をはたらいているわけでもない。それでも、輩が「責任あるヒーローが動画美女と色恋にうつつを抜かしている」などと書き添えているせいで、テレビや街頭でも悪い色合いで噂が広まっていってしまうのだ。

 リテラシーのある人間ならそこに何の問題もないことはすぐわかるし、週刊誌以外の誰を責めることもしないだろうが、残念ながら大衆すべてがそうではない。そしてその中から"悪意"と"大きな声"を持った人間が嗅ぎつければ、ことはより悪い方向へ流れてゆくだろう。

「売上のためだけに、こんな……」

 七尾も筑波も、悔しさをあらわにする。瀬奈と会ったことはないが、同じ女性として、パートナーとの絆に手垢をつけ売り物にされる悔しさは共感できるらしい。

「南城、お前今日帰れ。そんな彼女さん一人にさせておけねえだろ。ローブが出ても俺たちで何とかできるし、記事のことも、これから倉敷さんが来て話を聞いてくれる」

「倉敷さんが……だったらなおさら——」

「だからだよ。これはお前個人だけじゃねえ、組織の問題でもある。パニック状態のお前には、神輿の端っこも握らせらんねえよ」

 滝沢の必死の説得に、不服と悔しさをいっぱいに募らせたが、南城の中のなけなしの理性と冷静さが、どうにか彼自身を早退させるに至らしめた。

「…すみません。あとは頼みます」

「おう。ライノローブが出ない限りはな」

 滝沢は精一杯の冗句を投げたが、南城が打ち返すことはなかった。


 3


「……そうか」

「まあ、社長にこんなこと言っても仕方ねえけどさ」

 やるせもなく、対馬はアイル・コーポレーションを訪れていた。新社屋に慣れてきたのか、三宅は流れるように対馬を招き入れる。

「仕方あるっつーの。しかし、アキさんから俺に会いにきてくれるなんてびっくりだったな」

「勝手にアキさんって呼ぶな」

 応接間には、研究時代に手に入れたのであろう賞状やトロフィーが所狭しと並べられている。

「ローブが相手ならぶん殴って脱がせりゃいいけど、悪知恵ばっかりの生身の人間じゃあなあ」

「うん」

 最初は生け好かない、危険な奴だと思っていたが、対馬もその頃から彼の実力には一目置いていた。

「アキさん、もう南城とは長いんでしょ?」

「ん? まあな」

「科学技術犯罪捜査課、略して科技捜……俺も研究時代、捜査協力っつって何回か関わったことがあるよ」

 そんな記憶が全くなかった対馬は、目を丸くして驚いた。聞くに三宅のもとを訪れた刑事は別の人間だったようで、なおかつ聞き込みなどはあっても本格的に捜査線に関わることもなかったため、南城や対馬とはついに接点はなかったらしい。

「社長は、彼女は?」

「いないよ。仕事が恋人、ってやつだね」

「バーカ」

「えっなんで⁉︎」

 理不尽に三宅をからかった対馬の目は、言葉と裏腹に優しかった。弟分の傷心に心を痛め続けていたが、ようやく気が抜けてきたというところだ。しかし、彼をおとしめたものへの憎しみは忘れていない。

「……まあ、だから正直、同じ男として南城の気持ちを全部わかってやれるかっていうと、悔しいけどそりゃ無理だろうな」

「社長……」

「でも、あいつがどんなに凄い奴で、今どんなに不当な扱いを受けてるか、それはよくわかってるつもりだよ。同じ男としては無理でも——同じ戦士として」

 まっすぐに淀みのない三宅の目を、対馬はしっかりと受け止めた。受け止めたあと、込み上げるさまざまなものに耐えきれず少し俯いたが、大きなため息を一つ吐き出すといつもの表情で顔を上げた。

「三宅、お前の……どわあっ⁉︎」

 その目と鼻の先に三宅の顔が迫ってきていたので、たまらず対馬は絶叫し真っ逆さまに転げ落ちた。

「おん前……急に近づくんじゃねえよ……はーびっくりした……この歳になるともう心臓が」

「なあ」

「あ?」

「俺、やってやろうか」

 対する三宅の顔は、みなぎる戦意と、TWISTや南城を想う気持ちでギラギラとしていた。


 4


 滝沢の配慮は正解だった。

 早退けし、自宅に戻った南城が見たのは、啜り泣く瀬奈の姿だった。

「瀬奈!」

 薄暗い部屋の隅にうずくまる瀬奈の姿を見つけたとき、南城はたまらず荷物をかなぐり捨てて玄関から駆け込み、大慌てで瀬奈を抱きしめた。凍える子供を温めるように、強い風から庇うかのように。

「瀬奈…瀬奈…ごめん、ごめんな。お前のそばにいてやらなきゃいけなかった」

「違うの……」

「…俺の手を煩わせてるとか、邪魔をしてるとか、そう思ってるならそれは違う。俺だって、お前の人生曲げてるよ……ヒーローやるってことが、どういうことかわかってなかった」

 世界各地のヒーローがその素性を仮面に隠すのは、彼らにも彼らの暮らしや、大事なものがあるから。仮面は自分の顔面の皮膚だけじゃなく、そういうものを守るためのものでもあったのだ。

 滝沢を失わないために、仮面を脱ぐことはどうしても必要なことだった。瀬奈はやっぱり、いつも通り、笑顔でそれを許してくれた。どうあってもステラはヒーローであり、南城李人は自分のパートナーであり、それは仮面のあるなしくらいでは変わらない、と。

「李人…」

 でも、そうじゃなかった。二人が一緒に前に進むために、時には相手のことを手放しに許してはいけないこともある。

「瀬奈……お前が必要なんだ」

 そして、もしそのために怪我をしたとしても、あとから正しく傷を癒すことはできる。

「ごめん。辛い思いさせて。でも、もしそれでも、まだ俺を大切に思ってくれるなら」

「李人……李人……!」

 瀬奈の腕が南城の背中に周り、込もる力も徐々に強くなってゆく。瀬奈は、自分のプライベートが脅かされることも、会社に迷惑がかかることも、確かに気持ちのいいことではなかったが、何よりも自分が南城の枷になってしまうことを恐れていた。そう思えばこそ今こうして彼が早退して帰ってきたことも彼女の胸を抉ったが、南城が見せた強い気持ちは、そうしたあらゆる不安や恐怖に優っては劣らぬ、他ならぬヒーローのそれだった。


 そこへ、着信音が水を差す。

《南城!》

「アキさん…?」

 対馬の表情は決してネガティヴなものではない——その逆であったが、何か焦燥感を煽るものがあった。

《テレビつけろ! 7チャンネル!》

 捲し立てる対馬の促すまま、南城はテレビの電源を入れ、7のボタンを押す。この時間——ちょうど、何年も前からやっているお馴染みのワイドショーの放送時間だ。

《はいはい、すいませんね》

 セットの中には、例の記事を取り上げているらしいボードが見受けられる。コメンテーターがずらりと並ぶ中に、不似合いな姿がひとつ。渡されたマイクを握った、アイルスタイル・プリマヴィスタの姿だった。

「社長…!」

《き、緊急参戦です…! 特別コメンテーターの、三宅比呂さんです》

 狼狽する局アナの声に、どうもどうもと手を挙げるプリマヴィスタ。さしずめそのめちゃくちゃに広い顔を使って、番組プロデューサーを丸め込んだのだろう。メインMCの男性と、タイムキープに闘志を燃やしている一部の番組スタッフにとっては甚だ迷惑な話だ。

《いや、どうも。割り込んですいませんね。いや今日はこんな記事特集してるもんだから、やっぱ当事者代表として一言物申したいと思って》

《あ……あなたは別に熱愛も何もないんでしょ? 関係ないじゃないですか》

《ところが大アリなんすよ。なんでもこれ、国を守るヒーローが? 動画サイトの人気美女と? 色恋にうつつを抜かしてるっていう言われ方らしいじゃないですか》

 共に画面を見守っていた瀬奈の表情が強張る。それを直視せずとも感じ取り、南城は瀬奈の背中を撫でる。

《それはもっともでしょう。夜更かしでもして、救える命が救えなかったら——》

《そのために俺たちがいるんすよ。そりゃ最初はあいつひとりの、つらい、厳しい戦いだった。でももうそうじゃない。俺たちがいる》

 意見したコメンテーターが、決まり悪そうに口をつぐむ。

《あいつも俺も、ヒーローである前に人間なんすよ。疲れもしますよ。ただでさえ戦いが激化してんのに、顔が割れた途端あちこち引っ張り回されて、やっと帰れるってなったら、今度はあいつからあの子まで取り上げちまうのかよ!》

 正直、三宅の言い分は少し被害者意識が強すぎた。現実的に言えば、そうしたメディア露出をTWIST側が了承している事実もある。しかし、初めから顔を出して活動していた三宅からすればその大変さはよくわかっていたし、南城の心を瀬奈が支えていることもまた事実であった。

 であればこそ、番組出演者の誰もが、二の句を継ぐことができなかった。

「……あのバカ社長……」

「三宅さん……いい人が仲間にいるんだね」

 南城は少し悔しかったが、ああ、と頷いた。

《そーゆーことだから、もうこの記事の話は終わりでいいよな。……これは正直言いたくなかったけど、あいつが心壊しちまったら、そのまま市民を守る力も失うってことになる。ステラジェイドはあいつしかいないんだ。忘れんなよ》

 混乱と沈黙に制されたスタジオを、軽快なコマーシャルが迅速に隠したとともに、南城はテレビを消した。

《……俺たちの言いたいことも同じだ、南城》

《アキさん……また泣かされちゃったな》

《ふん。今日はカナブンになんか騙されないからな》

 得意げな口調で、対馬も通話を切った。


「なんか、すごく安心した」

「え?」

 気づけば、瀬奈の表情はいつも通り、あるいはそれ以上にぱっと明るいものに戻っていた。

「すごくいい人たちに囲まれて戦ってるんだね。私も、なんならうちの楽器屋も、もしかしたら今世界一安全なのかも」

「買い被りすぎだよ。……まあ、いい人たち、ってのは間違いないけど」

 姿勢を直し、軽く頬を拭くと、瀬奈はしゃきっとして南城に向き直った。

「もう大丈夫。私も、負けずに頑張るね。……ヒーローの彼女なんて、普通に生きてたら絶対できないもんね!」

「なんだよそれ」

 二人は、重い荷物をおろしたように笑った。


 5


 瀬奈の動画は一時的に非公開となったが、削除されることはなく再び公開に至った。寄せられるコメントの九割以上が暖かなものだった。瀬奈の人柄がファン層を穏やかなものにしていたのかもしれない。

 市民の間でも、記事に同調する声はプリマヴィスタの騒動以降目減りした。もちろん自分の頭で考えることをせずメディアに流され続ける一定数の層による心ない言葉が聞こえることも未だあるが、週刊メトロ自身も、取り上げるテレビや雑誌も、経済的価値がないと判断したのかそれを取り上げることは激減していった。

 もちろん、戦士に恋愛をする暇があるのか、という問いも頭ごなしに拒否できるものではない。だが、南城が瀬奈の存在を理由——言い訳にして職務に支障をきたしたことがないことや、現実に彼によって守られてきた数知れぬ命によって、その疑念の多くは論ずるまでもなく消えていった。

「そのうち瀬奈さんにはちゃんとご挨拶したいわ」

「おふくろみたいなこと言わないでくださいよ」

 杏樹はぎょっとしたが、南城の冗談は機動室を暖めた。

「おふくろは失礼だろ。杏樹さんといえど、まずは恋愛からでしょ……というわけで、今夜一杯どうすか?」

「隣で飲むくらいいいけど、それは恋愛とは呼ばないわよ」

 滝沢もまた望まずして機動室の笑いを誘うこととなったが、その表情はどこか安堵に包まれていた。そしてそれは対馬も、七尾も、他のメンバーも同じように。

「発足当時では考えられないくらい、市民の理解は得られてきています。もう自分たちは以前ほど孤独な組織ではないかもしれません」

「葛飾さん、それは俺が登場した時点で感じてて欲しかったな〜」

 いつからいたのか、三宅が葛飾のワイシャツの裾をくいくいと引っ張りながら軽口で突っ込んだ。

 三宅のことも含めて、南城はここにいる全員の力があってこその機動室だと感謝を伝えると、何様だ、との突っ込みと共にまたしばし機動室は穏やかな雰囲気に包まれ続けた。

【第五部・完】

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