20 薔薇のない花屋
1
「コルポ・ディ・フルミネ!」
「まずいぞ……! 杏樹さん!」
《頼むわ! フルブラストモード承認!》
自分自身の正義を叶えるため、私的制裁を繰り返していたジェリーローブ。問答無用に剣を振るい、今まさにその命を奪わんとするプリマヴィスタ=三宅比呂に対し、ローブ装着者の生命保護に限界を感じたセルリアンが叫んだ。
片膝立ちになり、RPセルリアンマグナム・タクティクスモードを膝で支えて構えると、同時に全身細部に隠された銃口が次々に展開する。
「マキシマム…ドリップ……!」
地を蹴り走り出したプリマヴィスタ。声も、音も発することなく、全ての意識を集中して彼の足取りのもう二歩先をなぞるセルリアンのスコープ。同時にRPセルリアンウォールズが先回りするかのように戦禍へと飛び込んでゆく。
スパーダ・ドーロの軌道は、ジェリーとのすれ違いざまにその身を切り裂こうというような流れを描いていた。ジェリーがプリマヴィスタの刃からいよいよ逃れようがなくなったと悟られたそのとき、数え切れないほどの弾丸の雨が彼らの間に撃ち込まれた。
「っ⁉︎」
「悪いな社長。俺たちにもポリシーがあってな!」
斬撃は間一髪で阻まれた。そのままセルリアンは止めどない銃撃をプリマヴィスタに浴びせ続ける。一方で、ウォールズがジェリーのセントラルユニットを分離しようと奮闘する。
「よし、俺もジェリーを…!」
しかし、ジェイドがジェリーローブに接近を試みたそのとき、ジェリーは立ちはだかる全てのウォールズを跳ね除け、瞬く間に姿を消してしまった。
「はっ…! おい待て!」
「おいおいTWIST……何やらかしたかわかってんだろうな…!」
「お前だろう! あれは殺すべき悪じゃない……やめさせ、改めさせるべき、市民だ!」
「そんなものは国家公務員の綺麗事だあぁーっ!」
セルリアンの一斉射を全身でもろに受けたはずのプリマヴィスタが、投げやりにも近い荒々しさでステラたちに剣を振りかざし走り出す。
「やめろ…そんな気はねえ! ってかそんな場合でもねえだろう!」
「滝沢さん危ない!」
プリマヴィスタの強襲を目の当たりにしながらもセルリアンが唇以外微動だにできないのは、他ならぬフルブラストモードの反動によるところである。危機を察知したジェイドがSSジェイドブレードを振りかざし、両者の間に滑り込んで衝突を阻んだ。スパーダ・ドーロとSSジェイドブレードがぎしぎしと軋みあう。
「お前の言ってた競合って…こういう意味じゃないだろう…!」
「あんたらが悪いんだ! あんたらがあの害悪を再び街に放った!」
そのままジェイドとプリマヴィスタの激しい鍔迫り合いが始まってしまう。あくまでも防御姿勢を基本に、しかし状況を落ち着かせようと牽制攻撃を試みるジェイドと、なりふり構わずスパーダ・ドーロを振り乱すプリマヴィスタ。けたたましい金属音が忙しなく響き渡り、その合間合間に電撃の弾ける音と衝撃が挟まる。
「くそ…杏樹さん!」
《フルブラストモード承認。彼を止めて!》
「サイクロン・スカッシュ!」
「させるかあぁぁ!」
プリマヴィスタの輝きがまたも強くなる。この機体、一体どれだけの可能性を秘めているんだ。
感心も束の間、ジェイドは襲いくる光の剣を左腕で受け止めるとともに素早く右手のSSジェイドブレードをひらりと浮かせ、一瞬で逆手に持ち替える。その右腕はまもなくプリマヴィスタの腹部に飛び込み、ブレードの軌道は彼へ致命傷とはならずとも決定的に重い一撃を与えた。
「がは……っ!」
どさっと鈍い音を立ててプリマヴィスタの身が落ちる。光量が落ちていく様子から、ついにスーツそのものが活動限界を迎えたのだということも察せられた。
「滝沢さん、大丈夫ですか」
「あっ……ああ……」
振り向き、セルリアンの安否を確認したジェイド。しかし、当のセルリアンはどこか様子がおかしい。
まるで、ジェイドがまだ視認していない何かに、驚きを隠せずにいるように。
「南城…あれ…」
「え?」
そこには、TWIST本部長・倉敷丈治の姿があった。
2
「あん…たは……」
「久しぶりだね、三宅くん」
TWISTの本部長ともあろう人間が、事件現場に生身で姿を現すのは異例のことである。彼の背後、その向こうのほうに見えた黒い車に本部長補佐・筑波樹里の存在を察知し、セルリアンは筑波へプライベート通信を繋いだ。
《おい! 何考えてんだよ!》
《たっ、滝沢さん⁉︎ ……だって、本部長のお考えですもん……》
彼女にとっても、倉敷の行動はやはり賛同し難いものだったようだ。同様に、機動室の方も混乱を見せている。
「ついに見つけたんだね……君が心から胸を張って、世に送り出せるプロダクトを」
「……」
倉敷は、あくまでも優しい笑みをたたえたまま、一歩ずつ三宅へ近づいていく。
「来るな!」
その声は怯えているようにも聞こえた。その手で倉敷に向けられたのは光を失ったスパーダ・ドーロだが、人を傷つけるには、あるいはそれを予期させることで自衛するには十分だ。
「あんたは俺に夢を見させておいて……俺の正義を、俺の理念を否定した。そして今……またあんたは俺の邪魔をする。ステラシステムなんていう中途半端なおもちゃで!」
言わせておけば、と憤慨したセルリアンだが、その腕をジェイドに掴まれることで彼は冷静さを取り戻した。
「ようやくここまで来たんだ……協力者を集め、アイルスタイルを完成させ、社会的評価も受け、現にこうして活躍できるところまできた。なのに! ……なのにまたあんたは、俺の邪魔をするのか」
「君が何を欲しがっていたのか…、もっと早く気づくべきだった」
倉敷が再び口を開いた。
目を見開いたまま、三宅は硬直する。
「何が言いたい」
「TWISTを発足するにあたり、私はこうして各界の精鋭を集めた。その中にどうして、君ともあろう人間の名前がなかったと思う?」
機動室ははっとした。それもそうだ。彼ほどのバイタリティとクリエイティビティ、そして類稀なる技術力があって、しかしTWISTにその名を連ねない方が、市民の命運を賭けた重要なプロジェクトにおいてはむしろ不自然というものだ。
「召集候補者を挙げるにあたり、私はやはり君のことを思い出した。だが君とは苦々しい別れ方をしていたね」
倉敷は彼に声をかけるべきか慎重に検討するため、彼をよく知る人物を可能な限り当たり、彼が行き過ぎた正義を背負う本当の理由を探ったのだという。たとえ人の命でも、罪に汚れたものは躊躇いなく焼き捨てる。倉敷が伝えた平和の夢を、彼の中で大きくひしゃげさせたものはなんだったのか。
「……そんなもの、知ってどうだっていうんです」
「それは、君のご両親だね」
倉敷の辿り着いた答えが正解であることが、胸を突かれたような彼の反応によって明らかにされた。
「君と、君のご両親が、心の距離を縮められないまま、微妙な家族関係を続けていたことを私は知らなかった」
親戚や知人の介入に助けられながら、片足を引き摺るようにやっとやっとで保たれていたのが、彼の親子関係だった。
理由などない。彼の両親の心がそういうものだった。ただそれだけだ。
「そして君がある日、そのご両親を亡くしたこともだ。……機動室の諸君にも、ベイトピア事件、と言うとすぐに分かる者がいるんじゃないかな」
倉敷の言う通りだった。対馬、高槻、そしてジェイドはプライベート通信を介して、あれのことだよなと確かめ合った。警察関係者の間ではその凶悪さと謎の深さで今なお知らない者のいない負の歴史、ベイトピア事件。十数年前、白昼堂々突如起きた、無差別集団殺人である。
「あいつ……あの事件の遺族だったのか……!」
過去を明かされた三宅の目に、わずかに涙が溜まり始める。
「君はずっと、自分を讃え、受け入れてくれる”親心”を渇望していたんだね。だが同時に、世の中の犯罪者に対する”親の仇としての強烈な敵意”も、君の心の中には同居することとなった」
ずっと飢えたまま、ついに手に入ることのなかった、親の愛。
とはいえ、微かにでも存在した——と信じたい——家族の絆。
相反する二つの記憶と感情が度を越した正義を生み、極論に基づいた技術開発や、ヒーローとしてのスタンドプレーに彼を駆り立てていった。
「君を追い詰めるものを、私がもっと早く知っていれば——君を導き、君が持つものを心から讃えてやれたのかもしれない」
「同情も買い被りも嬉しくないね」
倉敷を食うように、そして強い語気で三宅は返した。
「失くしてからじゃ遅いんだ……俺はこの人には受け入れてもらえない、そう悟った時から、心は離れていく。不可逆的に壊れていく!」
「それは違うよ」
慟哭する三宅に、ジェイドが割り込む。
「お前は諦めてしまっただけだ。言わなくても伝わるなんて……信じたいけど、やっぱりそんなの美談だよ。時間がかかっても、傷になっても、少しずつ伝え合うから、俺たちは分かり合える」
「何……」
気の抜けた声で、三宅はジェイドに涙目を向ける。
「すぐにあんたの全部がわかるなんて思わない。けどいつか、俺たちもお前の力になれるかも知れない。それに……その逆だって」
「ステラジェイド……」
そのままジェイドは、倉敷よりもさらに先までその歩みを進め、やがて三宅のもとに辿り着く。
「まだ僅かな俺の経験で悪いが、ヒーローってのが最近少しわかり始めてきたんだ。この人たちのおかげでさ」
ジェイドの親指が、背後にいる倉敷やセルリアンに向く。セルリアンの仮面の下では、どうせ滝沢が得意げな笑みを浮かべている。
「俺たちが誰かを助けたいって気持ちは、多分あんたと一緒だ。でも俺は——俺たちは、間違えてしまった人たちを連れ戻すことも、絶対必要だと思ってる」
「連れ…戻す……」
間違えない人間などいない。誰もが大なり小なり何かを、誰かを傷つけ、どうにかして自分を保とうとしている。その中でヴォーグの餌食になってしまった人々を、その魔の手から引き戻し、あるべき場所へ帰すことを意味するのだと、倉敷は補った。
頷くと、ジェイドはその手を三宅へと差し伸べた。
「あんたはまだ、ここからやり直せる。——ジェリーローブを、一緒に止めてくれないか」
いつからか、その頬を止めどなく流れ始めていた涙。
声もなくそれを拭うと、三宅は鋭い眼光でジェイドを睨んだ。
3
南城も、滝沢も、倉敷も、TWISTの誰もがその夜のことを記憶の隅に映し続けたまま、ジェリーローブが再び出現した旨の通報をその数日後に受け取ることとなった。
「……行きましょう」
「だな」
「うん」
三人は杏樹の号令を仰ぎ、のちそれぞれのスーツをブートアップした。
「もう何事もないといいんですけど……三宅さん」
「そうね……」
オペレーターらが心配とともに見送った三体のステラの背中。
その目的地は、白昼の繁華街だった。
《ここ数日行方を眩ませていたジェリーでしたが、精神汚染はとっくに限界を迎えているはずです。今日彼を掻き立てたのも、たまたま居合わせた若者のちょっとした喧嘩だという話ですし、逆によく今日まで息を潜めていられたものです》
「よほど過敏になってるんですね…」
「そんな苦しい状態……戻してやらなきゃな」
葛飾の通信を受け、彼らはその歩みを早めた。
「なんなんだよこいつ…!」
「逃げるぞ! …ほら立てよ!」
若者からしてみれば、もう小競り合いなどしている場合ではない。
なにせ、話の流れでちょっと小突きあっていただけなのに、目下世間を騒がせているルナローブがいきなり襲いかかってきたのだから、その逃げ足は一刻を争う。
「全部…僕が……僕が救う……!」
ほぼ正気を失っているジェリーローブ。誰にも救いきれず消えていく犯罪を暴き出し私刑に処する、そんな歪ながらも芯を通したものであったはずの彼の信念も、今では誰が誰を救い誰が助かるのかも考えられないほど混濁していた。目に映る争いや不和、負の感情を伴う全てが彼の暴走を掻き立てた。
「そこまでだ!」
若者たちを追いかけようとしたジェリーの動きを制したのは、三体のステラシステム。しかしもうジェリーが数日前の夜のことをちゃんと覚えているかは怪しい。
「…どうしてそうなっちまうんだよ…!」
やりきれない思いが、ジェイドの声に乗る。こうなった以上やるしかないと、セルリアンが肩を叩くように、しかし冷酷な発破をかけた。マンダリンはセルリアンに動揺の視線を向けたが、ジェイドは真っ直ぐにその言葉を受け取っているようだった。
「うるさい……うるさいうるさいうるさい!」
やはり、ジェリーは錯乱して暴れ出した。全身の至る所から電撃が走り、辺り一帯を襲う。突如として発生した稲妻の嵐に、避難しきれていなかった全ての市民が恐怖に追われて足を早めた。
「南城、瑠夏、やるぞ」
「ですね……七尾頼む!」
「がってんです!」
マンダリンはPSマンダリンファンネルを起動し、広く一帯に散らした。どこに雷が落ちるかわからない状況の中、鋭敏な動きと不休の空間分析により、マンダリンの視覚モニターには怒涛の情報が流れ込んでくる。
「くっ…!」
ジェイドやセルリアンよりも遥かに情報処理能力に長けているマンダリンでも、状況が状況なら身体に強いる負荷も相応のものになる。フィールド上のマテリアルや磁場の流れ、気象条件やジェリーのスペックなどを総じて判断し、マンダリンはとある”最適解”を導き出さんとする。
「南城さん、本当に信じていいんですよね…!」
「今はそれしかない! 頼む!」
すでに、ジェイドとセルリアンもフルブラスト状態で”その時”に備えていた。止めどない電撃の唸る音と衝撃に耐えながら、SSジェイドブレードとRPセルリアンマグナムがジェリーを静かに見据えている。
「——今です!」
マンダリンが叫んだ。
ジェイドが、セルリアンが、機動室の全員が、祈った。
「——コルポ・ディ・フルミネ‼︎」
まるで時が止まり、空間に置いていかれたようだった。
それまで大暴れしていたジェリーローブの電撃が、嘘のように沈静化した。
「…な⁉︎」
暴走状態にあったはずのジェリーも、たまらず目を見張る。何度も電撃を撃ち直すが、いくら頑張っても不発ばかりで、先の勢いを取り戻すことができない。
「あんたらのエンジニア、化け物だな!」
そこに現れたのは、プリマヴィスタ——三宅比呂だった。
「まあな」
「ほんとにきたあ……!」
得意げに応える南城・滝沢と反対に、呆気に取られる七尾。あの夜現場を離れ、彼らの生のやりとりに立ち会っていなかった彼女にとって、この作戦が心から信じきれるものとはなりえかったのだから当然の反応だ。
根室の勘案したとおり、暴走したジェリーローブの電撃は、ステラシステムでも装着者の無事を担保できないほど強力なものだった。しかし、そこに”化け物”こと葛飾がこう提案したのだ。
『プリマヴィスタの発する電気を少しいじれば、うまくジェリーの電撃と打ち消しあえるかもしれません』
音の位相を反転させ、ぶつけることで無音化できるように、電撃波も形を変えれば相殺できるのではないか。それが葛飾の見解だった。
『……俺はまだ、その手には触れられない』
あの夜、南城が差し伸べた手を、三宅は拒んだ。
『え?』
『俺がこの事件の落とし前を、しっかりつけてからだ』
自らの正義感の歪みと心の闇を自覚し、悔いた三宅は、葛飾の考えた作戦を黙々と聞いた。
『——ただ、三宅さんには三宅さんなりのやり方もあるでしょう。自分の作戦に乗ってくれるかどうかは、お任せします』
葛飾はその言葉とともに、電撃の調整に関する設計案を三宅に送信した。
それを受け取って間もなく、三宅は静かに姿を消したのだ。
「乗るなら乗るって、ちゃんと言ってけ! 気が気じゃなかったんだぞ!」
「悪いね。俺も人間だからさ、気持ちの整理ってのが欲しかったわけよ」
それより、とプリマヴィスタはジェイドとセルリアンに発破をかけた。それもそうだと二人は同意し、各々の武器に全神経を集中する。
「サイクロン・スカッシュ!」
「マキシマム・ドリップ!」
力を失ったジェリーに、怒涛の一斉射が襲いかかる。完全に不意をつかれたジェリーはそのまま身体を持っていかれ、重心を取り戻すこともままならない。
「がああぁっ…‼︎」
そこへ、風のようにジェイドが斬りかかる。
「お前には……いやお前にも、きっともっといい戦い方がある」
ジェイドの両足にブレーキがかかる頃、その背後にはセントラルユニットの真っ赤な爆炎がゆらめいていた。
4
「本当に、悪かった」
“落とし前”がついた今、改めて南城と三宅は硬く手を結んだ。
三宅の口から発せられた第一声は、自信家で身勝手で楽天的なはずの彼の風貌からは似ても似つかぬ言葉だった。
長い間、暗く歪んだ孤独の中に、正義の炎を燻らせ続けていた三宅。誰にも理解し得ないものと諦め、半ば呪詛のように抱き続けてきたその感情を融解させたのは、絶対の恩師・倉敷と、彼が選び抜いた精鋭たちの言葉だった。
それまでも、この世のあらゆる心の悩みがわかるような顔をして近づいてきた人間はごまんといた。しかし彼らは、今すぐに理解できるなどとは決して約束しなかった。
『多分、あんたの全てをわかってやれる日なんか来ないと思う………それでも、俺はあんたに、ヒーローになってほしい』
——一本芯の通った、自分なりの正義を持つこと自体は、覚悟がある人間にしかできない凄いことなんですから。
TWISTの仲間内で口にしていた胸の内を、南城は本人の前でも改めて告げた。
「これからは、俺たちのポリシーに従ってくれるんだな」
「…ああ。いつか現れる競合企業にも、しっかり見本になってみせるよ。対ルナローブ産業のパイオニアとしてね」
ビジネス志向は相変わらずか、と南城たちは笑った。
時に、彼らが語り合っているその場所は、TWIST機動室である。
民間企業の営利活動を阻害する権利はやはり持たないが、国直属のタスクフォースとして何にも先駆けて存在するTWISTにこそ、ルナローブ鎮圧のメソッドは編まれてきたと判断され、アイル・コーポレーションとそれ以降参入する全ての企業に向けた民間発・対ルナローブ技術の運用基準が定義づけられたのだ。まさに、セントラルユニット分離破壊による人命救助を戦闘の最優先目的とする、などといった項目である。
その話をまとめるために、組織の機密を厳守するという条件付きで、三宅は機動室に招き入れられたのだった。
倉敷も、彼との和解には胸を膨らませていた。
「三宅くん。これからはどうか、力を合わせて戦って欲しい」
「官民一体ってやつ? あんまり生け好かねえけど、まあ倉敷さんが言うならしょうがねえか」
「まーた倉敷さん大好きクラブのメンバーが増えちまったな」
滝沢が悪戯な笑みを向けたのは筑波。どういう意味ですか、と筑波に怒鳴られる滝沢の腕は、しかし三宅の肩に回っていた。
なんの約束も結ばれず、心の寄り掛かる器など依然ないままだが、彼らの言葉に感じられた漠然たる、曖昧な、頼りない安心感は、しかし紛れもなく安心感に他ならないものだった。
そんなこと、三宅は口が裂けても本人たちには言ってやらないが。
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